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[友鷹]束縛

「んうっ…………友雅、殿っ」
 さしてキツク括られたわけではないが、手首を拘束する布地に動きを封じられ、全てを晒している。隠すことも抗うことも叶わぬ状況に…どこかで悦を感じている己が羞恥心を煽る。
「抵抗することを諦めたのかい?…そんな投げやりな瞳をしても、私を煽るだけと知っているくせに」
 そんなつもりはないけれど…こんな風に動きを奪われ好きに嬲られれば、退廃的な気分になるのは確かだ。
「友雅殿……楽しそうに仰いますが、こうされることが、どれほど恥ずかしいものか…ご存じないから笑えるのですよ」
 いつも好きなように動くのは貴方で。…私はただ後手に回り、はしたなく鳴くばかり。そんな状況に不満も出ないほど溺れているのだから、手に負えない。
「ふふ。そうかもしれないね。しかし鷹通、経験する機会の無かった者を責めるのは、酷と思わないかい?……そうだね。鷹通が教えてくれるというのならば、甘んじて受けるつもりだが」
「……本気で仰っているのですか」
 立場を逆に。身動きの取れない友雅殿を、この手の中に…?
「ああ、もちろん。……縛ってみたいのだろう?」
 欲を煽るように掠れた声が、心の臓を鷲掴みにする。
 ただ狼狽えるばかりの自分が腹立たしい。
「友雅殿っ。からかうと痛い目をみますよ」
「………みせてごらん」

 布地を裂く音が、この関係をも切り裂いていく。
 暴走する己を止めることは、もうしない。

 友雅殿。貴方は私の欲望を甘く見ていらっしゃいます。
 本当は……本当は貴方を柱にでも括り付けて、この私以外のどんなものをも瞳に入れぬよう、閉じこめてしまいたい程なのに。
 貴方の時間を、貴方の人生そのものを、独占して…支配して、二人で朽ちてしまいたいと思うほどに、ただ貴方に狂っていく私を貴方は知らないから、そんな風に笑っていられるのです。
「少し……キツイのではないかな」
「いいえ、これでも緩いくらいです。跡を残してでも……貴方がここから逃げ出せぬように。…これが私の本心なのですよ、友雅殿」
 可愛げのないワガママで貴方を縛ったら、愛想を尽かしてしまうだろうか。扱いづらい情人などいらぬと、捨てられてしまうのだろうか。
 不安で髪の先まで震えた私に届いたのは、楽しげな笑い声だった。
「ふふ。なかなか情熱的なことを云うね。…ならばいいだろう。好きにしてくれて構わないよ。さて。縛り上げたはいいけれど、ここからどうしようというのかな?」
「………っっ」
「これでは私から手出しはできないのでね。…当然、君が悦くしてくれるのだろう、鷹通」
 堪えていないどころではない。
 友雅殿は、こんな状況を…こんな私を、楽しんですらいらっしゃる。
「どうしたんだい。拘束したらそれで満足だなんて、そんな可愛らしいことを言うと………お仕置きしてしまいそうだよ」
 顔だけでない。全身が。視界に入る指の先まで、全て赤く染まっていくのが判る。
 貴方には勝てないと、知っていたはずなのに。
 決して勝ちたいと願っていたわけではないというのに。
「泣かなくともいいのにね…。ほらおいで。自分で沈んで腰を振ればいい……何度かしただろう?」
 妖艶な笑みに誘われるように、その膝を跨ぐ。
 肌をすり合わせると、それまでの不安が掻き消えてしまう。
 ただ、貴方が欲しくて。
「私は文字通り手も足も出ないが…。ふふ。お任せするよ、私の可愛い人」
 そう言って床に肢体を投げた友雅殿は、気持ち良さそうに背を伸ばして、うっとりと笑ったまま瞳を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
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絵茶で譲葉が、友雅を縛ったりするもんだから・・・つい(笑)で、出来心ですよっ。鷹通だって暴走するでしょ、あれじゃあ!!といいつつ、友雅に誘導されないと固まっちゃう鷹通が、やっぱり可愛くて大好きだっ。アハハッ。

続きを書けと言われそうだけど。これはここで終わるのが、私の趣味です。クックック
妄想で悶えてください(鬼)

[友鷹]書斎

「そこに腰掛けなさい、鷹通」
 優しげに命令をする友雅殿が指定した場所は、本来、腰をかけるべき場所ではなかった。
「机に……ですか?」
「そうだよ。早く」
 行儀が悪いとは思ったが、渋々と腰を下ろす。
 すると先程のように友雅殿は私の定位置に腰を下ろして、ジッと見上げてきた。
「…友雅…殿?」
 何も言わず、腰に絡みついた腕。
 膝の上に甘えるように預けてきた横顔が愛しくて、やわやわと髪を梳く。
 しばらくうっとりと身を預けていた友雅殿が、するすると裾の中に忍び込んできた。
「まだ何もしていないのに、元気なものだね。……私の自由になることが嬉しいのかい。ふふ。どんなことを想像しているのやら」
 言われて初めて、恥ずかしくなる。
 このまま膝枕をしろと言われるかもしれないのに。私は……どんな淫らな要求をされるのかと、どこかで期待していたのだ。
 恥ずかしくなって、赤く染まる顔を、背けた。
「いや、それでいいんだよ。君は正しい。……まさかこのまま眠らせてほしいなどと、そこまで弱りきったつもりはないからね、私は」
 言いながら足首を掴んだ手が、それを机の端に誘導する。……気付けば仕事のためにあつらえた机の上に開脚をして、友雅殿の視界に全てを晒していた。
「こちらを見てごらん、鷹通」
 怪しげな声に促されて手元を見れば、どこから出したのか、小さな姿見。そこに映るものが自分の秘所だと理解するまでに、殊の外時間がかかる。
「よく見ているんだよ?」
 甘やかに囁きながら、指を唇で濡らして……そこへ…ずぶずぶと突き入れる。
「あ……そんな…っ」
 目を反らせず見つめていると、音を立てて掻き回してきた。否定したいのに、あがる声は甘えきった響きしか持たず、情けない気持ちになる。
「これから君は此処に座るたびに、これを思い出して身悶えするのだろう?……想像するだけで、私も感じてしまう」
 そうだ……。こんな場所で、こんな事をしている自分。
 寝所の中や月夜の縁側で、友雅殿の面影を見て身悶えることはあったけれど…。
「そんな……酷い…」
 これでは仕事になどならないではないか。
「酷い男なのだよ。……私は優しくなどない。いつでも君を惑わせたくて、いつでも君に思い出してほしくて、いろんな罠を探しているんだ。……ああ、君の此処は綺麗だね。先走りの露に濡れて、淫らに誘っているよ。よく見てごらん」
 大袈裟ではない。それが事実なのだから、余計に質が悪い。
「いや………。もう、嫌です………降ろして…」
 この先に続く切なさを想うと、絶望的な気分にさえなる。こんな所で貴方に抱かれてしまえば、この家に帰ることすら怖ろしくなるような気がして…。
「泣かせるつもりはなかったのだけどね。……鷹通、おいで。もういいから」
 ふわりと身体が宙に浮いた。
 目を見張れば、大の男である自分を、衣でも抱くように軽々と横抱きにして、友雅殿が笑っている。
「続きは、このまま行おう。泣かせたお詫びに、ずっと抱いていてあげるから……抵抗してはいけないよ?…鷹通」

 足が地に着いていないというだけで、こんなに不安な心地になるものだろうか。思わずその首にしがみついた私を笑うこともなく、艶の増した声が耳元に囁いた。
「しっかり掴まっておいで」
 そう言うと横抱きのまま腰掛け、胡座をかいて、その上に……私をつなぐ杭の上に、ゆっくりと降ろしていく。
「んああぁあっ」
 背と足をしっかりと抱きかかえられたまま、結ぶ契り。
 慌てて首にしがみついても、友雅殿が背を下ろせば何の意味もない。どうしたって重心はその一点にかかる。
 姿勢を直すことも、僅かに反らすことも叶わぬ。当然いつもより深く突き刺された滾りは、どうにもならない場所をまっすぐに射抜く。
「あ、あ、あ、あああああっ」
 軽々と抱き上げられて、また落とされて。
 それが内側を擦る刺激だけで、ザワザワと全身が波打つというのに。貴方の短い吐息だけで、脳髄が灼かれるというのに。絡みつくその視線だけで、気が触れそうになるというのに。
 こんなに奥に。掠めるだけでも意識が飛びそうな、その場所に…こんな……こんな……。
「ああ、や、いやぁっ」
 涙が溢れてくる。
 気持ちが良いなどとは到底思えない。これは、快楽の地獄だ。
「また泣くのかい?……泣くほどよいということかな」
 視線を流す冷たい横顔を、睨みつける事しかできない。
「私が壊れてしまいます…っ」
 驚くほど声が掠れていた。羞恥と快感で身体中に溢れた熱が、身の内側から焦がしているようだ。
 深く貫いたまま一瞬動きが止まり、冷徹な声が降る。
「壊れちゃいなさい」
 頭から冷水をかけられたようにその顔を見つめると、苛立たしげな視線が斜めに射抜いていた。
「乱れて狂って私のことだけを考えていればいいと……そう思う自分を止められないよ、鷹通。君から使命も思想も信念も全てを奪って、私の中に閉じこめてしまいたい。……そんな抜け殻のような君を、朝も昼も夜も飽くことなく抱きたい。まったく酔狂なことだ。どうあっても君がそんな風にはならないと知っているくせに」
 最後は自嘲的に、呟くように告げられた……きっとそれも、貴方の真実なのだろう。
 そんな風になれたら、いっそ、なりたいものだと……そしてこれは、私の真実。
「そのようには、なれませんが…」
 首に回した手に力を込めながら、腰を回す。
「んはぁ…っ」
 強い刺激に自滅しそうになる。
 打ち捨てられるように腹に乗った塊が、涙のように何かを滴らせている。
「……鷹通?」
「今だけなら、狂い咲く自分を許しましょう。貴方の腕の中にある時のみ……私は、私を捨てましょう。……もっと…貴方を、ください。……友雅殿…」
 突き上げられる激情に身を委ねながら、あられもない声で鳴く。
 そんな浅ましい姿すら、貴方が望むのだから。
「ああっ、………く、……ん…っんあぁ」
 隠すこともない。晒してしまえ。私がこんなに貴方を欲しがっているということも。悦んで腰を振る姿も。
「ぁ…ん………っ、んーっ」

 弾けたものを胸で攫うように覆いながら、それでもまだ責め苦は続いた。
 まわした腕に爪を食い込ませて、飛びそうになる意識を繋ぎ止める。
 友雅殿から注ぎ込まれるものも感じていたが……一度も抜かれることはなく。繋がった部分が淫靡な水音を立てて、それを零していた。
 大腿をさらう腕も背を抱く腕も、もう限界だろうと思うのに。友雅殿は私を抱きしめて離さない。何かに怯えるように。何かに抗うように。いつまでも力を込めたまま突き上げ続けた。
「ん……はぁん…」
 意識があるのが不思議なくらい、長い長い時間だった。
 さすがに身が持たないと降参していたのに、そっと床に降ろされて、それが抜かれた時……寂しいとすら、思ってしまう。いつまでも抱きしめていたいのに、首から外された腕は鉛のように重く、それは叶わない。

 しばらくすると、向こうの部屋で私達を捜す声。
「もう……夕餉の時間なのですね…」
 ここを見られても取り繕うことすらできないだろうと、隣に転がる人を見た。
「見つからないといいけどね」
 悪戯な顔で笑うその人にとっては、どうでもよいことなのだろう。
「見つかっても構いませんよ」
 主人の睦言を触れ回るような者は置いていない。
 この屋敷の中で話題に上る程度なら、むしろこの先の手間が省けてよいだろう。
 友雅殿は艶めいた視線で物言いたげに見つめた後、怠そうに着物を引き寄せて私にかぶせた。
「それは構わないけれど……君の身体は、独り占めしたいものだね」
 ここまでしたくせに、まだ可愛い独占欲などを見せる貴方に、笑ってしまう。
「ならば隠しましょうか。ご主人様の仰るとおりに」
 そして顔を見合わせて笑った後、どちらからともなく意識を手放した。
 数刻後に目覚めた時も夜着は無く、なるほど書斎への出入りは控えるように言い含めていたと思い返す。どうやら淫らな『かくれんぼ』は成功したらしい。

 碁盤のある部屋には、行方知れずの主人を気遣うように、軽い食事が二人分。気の利くことに布団も二組敷かれていたので、友雅殿を起こして、そちらへ移動して頂いた。
「随分と気が利いているね。主人の教育がいいのかい」
「いえ。私は必ず部屋に戻ると信頼されているのでしょう。フラフラと彷徨うような真似は、まず致しませんから」
「……言うね、鷹通」
 別に誰と比較しているとも言ってはいないのですが。
「思う所があるのなら、居住まいを正したらよいのです」
 ハッキリと申し上げると、不機嫌に口を尖らせて夜着の中から伸ばした腕で、私を引きずり込んだ。
「このまま姿を乱して、この家の者達にも鷹通がどんなに可愛い人間だか、教えてさしあげようか」
「お好きにどうぞ。どうあれ、貴方にそうされたのだと、それを疑う者もありますまい」
「生意気な口だな……」
 言うなり噛みつくように唇を奪われ、いつの間にか立ち上がったもので前置きなく腰を貫かれた。
「…んあっ」
 先程の激しさとは違い、ねっとりと絡みつくような動きをする。
「本当に……まだ、なさるのですか」
 一眠りして回復してしまったらしい強者が、呆れるほど楽しげな笑みを浮かべる。
「まだ宵の口じゃないか。……夜はこれからだよ、可愛い鷹通。私の我が侭を聞いてくれるのだろう?」
「………身が持ちません」
 私を殺す気なのだろうか、この方は。
「若いのに、体力が足りないな。……鍛えてあげよう」
「結構です…」

『今日一日は君を好きにさせてくれるかい』

 これからは『日のあるうちだけ』という条件をつけよう…。
 そんなことを心に誓いながら、それでも、もう二度とご免だとは思わない自分に呆れていた。
 
 
 
 
 
 
 
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エロエロだわ、ゲロ甘だわ・・・。さすがに書いてて胃凭れしました。友雅がドンドン鬼畜になるし、だけど鷹通が泣けばゲロ甘大魔神になるし。鷹通は際限なくエロくなるし、とにかく友雅が望めば許しちゃうし。だー、もうーぅ(脱力)何書いてんだー、私ーー(自滅)

[友鷹]賭事

 まさか、負けるとは。
 あんなにふざけていたのに。ちっとも真面目に考えているようには見えなかったのに。

 

 何をやらせても完璧な人間というのはいるもので、友雅殿はその典型のように見えた。文武両道、楽も舞も唄も遊びも、何も真面目にやらないくせに、要領よくこなしてしまう。……そんなだから、情熱が足りないなぞと贅沢なことを云って愁うのだろう。
 とにかく一度は「負ける」という経験をしてみればよいのだ。
 すぐに「あーあ」と諦めてしまうことではなく、何か……そう、何か、友雅殿をその気にさせる餌のようなものがあれば、それでいい。
 なんでもいい。悔しい顔をさせてみたい。
 それでムキになる事があれば、今までは上手くいきすぎていただけで、本当は人並みの心を持っているのだと、あの方を安心させられるのではないか。

 だからあの方が自分を条件にしてきた時は、それもいいと思った。
 囲碁など、友雅殿にとっては退屈なもの。
 こればかりは経験の差がモノを言うだろうと思ったのだ。
 実際に動かし方1つから確認を取る辺り、とても勝負になるとは思えなかった。

 しかし。
 なぜか。

「ふふ。………もしかして、勝てたりするかな」
 そう言って、思いもしないような場所に置かれた石。
 油断していたのは、対局中も延々とやまない話し声のせいか。それにしても『負ける』という結果は、断じて有り得てはならないものだった。
 あまりのことに、二の句を失う。
「………どうする? 続けたら、勝敗は変わるかな」
 よく解らないのだけれどと云って笑う人に、殺意すら覚えた。
 確かに終局と云うには早い段階だが、このまま続けても打開策が出るようには思えなかった。……いや、いつもの相手なら知らぬ顔で続けてしまう所だが、どうやら友雅殿には『この段階での勝敗』が見えたらしい。そういう相手に盛り返して勝つことはできない。
 気持ちが重くのしかかる。
「それで?…本当に、思い通りに動いてもらえるのかな」
 楽しそうな友雅殿には悪いが、あまり色っぽい気分にはなれなかった。
 賭けの内容など、この際どうでもいい。
 慣れぬこの身では、どちらにしても貴方の導くままに動くことしかできぬ逢瀬の時間。それを今さら『好きにさせて』などと云われても、負担には思わない。
 しかし……何故負けたのだろうか。
「鷹通。…鷹通。そんなにショックだったのかい? 今日はもう帰ろうか?」
 あまり長い時間固まっていたものだから、友雅殿にいらぬ心配をかけてしまった様子だ。
「あ……いえ、大丈夫です。そろそろ昼の支度をさせますね……」
 フラフラと部屋を出て女房達に声をかける。
 なんとはなく味のしない食事を口に運びながら、やはり言葉を交わす気にはなれなかった。

「まあ、そんなに落ちこむことではないよ。確かに、完璧だと思うことを相手に出し抜かれると、良い気はしないものだがね。……私は君より多く生きているのだよ。さすがに碁を囲んだのは久しぶりだったから、初心者のように色々聞いてしまったが、それなりに相手をさせられてきたこともあるのだから」
 易しく諭されて、我に返る。
 初心者でないのなら、確かにあまり落ちこむことではないのかもしれない。
「それでは友雅殿。たまにで構いませんので、私の相手をしてくださいませんか。貴方の腕なら相手に不足はありません」
 ここのところ囲碁の相手をしてくれる者もなく、勘が鈍っていた節はある。
 たかが勝負事とはいえ、負けたままで終わるには心が残る。
 それに、こんなに他愛のない時間を友雅殿と過ごせること自体が、もう楽しくて仕方がない。
「ふぅん………構わないよ、今日と同じ条件で良ければ、ね」

『もし私が勝てたら、今日一日は君を好きにさせてくれるかい』

 これも賭事の一つなのだろう。
 それを言って窘めても、友雅殿は意にも介せず『ご褒美というのだよ』などと返してくる。元より負けるつもりのないものだったし、それで友雅殿が本気になるというならば……その『ご褒美』とやらを手に入れられずに口惜しがるのならば、妥当な条件だと思った。
 だから、少し吹きかけるような言い方をした。

『かまいませんよ。私が負けたら、何でも貴方のお好きなようにいたしましょう』

 確かに、そう言った。
 ニコニコと上機嫌な友雅殿は少し怖いが、命に別状があるわけでなし。他人に迷惑をかけるでなし。一日くらいは、それもいいかと……むしろ、そこまで云う友雅殿が、いったい何をさせようとしているのか、少し好奇心が湧いたのかもしれない。
「よろしいですよ?……して、私は何をすればよいのですか、ご主人様?」
 友雅殿の頬に紅が差す。それを可愛いなどと思ってしまうのは悪い癖だ。
 一日は主従関係を結ぶという意味ならば、家の使用人と同じ。
 何をお望みですか、友雅殿。
 なんでも致しましょう。
 そう思うことも楽しいのだから、どうかしている。
「こんなことでも真面目にこなすのだから、君は本当に面白いね……まったく、退屈しない。それでは鷹通、君の書斎に案内してくれるかい」
「書斎、ですか?……別に構いませんが、何もありませんよ?」
 不可解に思いながら部屋を渡る。
 そこは机一つがポツリと置かれた素っ気ない空間。
 友雅殿は机の前に腰を下ろすと、なにやら大切そうに机を撫でて小さく笑った。
「長く居る場所なのだろう……鷹通の気配が在る」

 なんだ……。

 ふと、気が抜けた。
 別に私が心配せずとも、この人の心は既に安定しているのだ。
「何を笑っているんだい?」
「いえ。愛されているものだと……。嬉しかったので」
 穏やかな気分で笑うと、友雅殿の笑顔が意地悪く崩れた。
「愛しているさ。しかし、だから優しいばかりとは限らないのだよ。……さて、どう料理をしようかな。なんせ今日は、君のご主人様だからね」
 ええ、構いませんよ。
 何をお望みですか、ご主人様。
 貴方が私を望むのならば、なんでもして差し上げたいのです。
 
 
 
 
 
 
 
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続きのエロが読みたくば、裏に忍んでおいで。ふふふ。でも本当に、エロしかありませんからっ!!(強調)心の充足を求める方は、ここでやめておいた方がよろしいかと(笑)

[友鷹]囲碁

「橘の少将殿が、男の元に通い詰めているらしい」
 そんな噂で内裏が盛り上がっている。
 しかしその真相を、私に直接聞くものはない。

「何故ですか?」
 それが二人の間で話題に上がった時、鷹通はとても不思議そうに聞いてきた。
「ふふ。当ててごらん」
 鷹通は碁盤を睨んで眉間に皺を寄せたまま、身じろぎもせずに考え込んでいる。
「こらこら。そんな顔をしていたら、今に般若のようになってしまうよ」
 額にかかった髪をかき上げてやると、少し照れたように微笑む。あまりに愛おしくて、唇を奪いたくなるが……今は、ダメだ。約束を違えることになっては、後が怖い。
 なかなか良い位置に石を置いてから、思い出したように顔を上げた。
「わかりませんね。噂されている相手の氏素性が高位なのでしょうか」
「いやいや。相手は君だということも、皆、承知の上なのだよ」
 それは初耳とばかりに眉を上げて、少し表情が曇る。
「ご迷惑を、おかけしていますか……?」
 いや、むしろ迷惑をかけてもらいたいくらいなのだが……。
 あまり深く考え込まずに、しかし脈のある場所へと石を置く。
「なんせ皆、私には聞いてこないのだよ。何故だろうね」
「全く想像が付きません。私の方には、不穏な空気すらないのですが……本当に名前まで挙がっているのですか?」
 不穏な空気すらない。
 それは、まさしくその通りなのだろう。
 鷹通はまたも長く考え込んでから、石を置く。
「ふふふ。どうやら最近の私は、女遊びを辞めて君と囲碁に耽っているという、まことしやかな噂があってね……休みとなれば君のもとへ通う私を、皆口を揃えて『ご隠居なされたか』と宣うそうだよ。女が抱けない身体になったとまで言う輩が出るほどだ」
 くつくつと笑いながら石を置く。
 その噂は、事実無根というわけではない。現に今、囲碁に耽っている。
「なるほど。それでは友雅殿に聞く人はいないでしょうね。そんな怖ろしいことを口にするなんて」
「帝には聞かれたけれどね?」
 手から落とすように置いた石が、勝負を分ける。
「帝に………ですか…」
 誘った罠にすんなりと填るなんて、らしくもない。
 こんな他愛のないお喋りに夢中になるなんて。
「あまり熱心に聞かれるものだから、事実を投げておいたよ。口の軽い方でもないからね」
 わざと軽く音を立てて置いた石に、鷹通の動きが止まる。
 最後の詰めで心理戦に負ける辺りが君の限界だよ。
「あ………そんな」
 しばらく碁盤を見つめた後で、俯いた顔。
 耳朶が真っ赤に染まっているのは、悔しさのせいではないのだろう。
「…………………参りました」

 休日になると、鷹通の大好きな囲碁の相手をしている。
 そのまま酒を交わして泊まっていくのは、自然な流れであって。…まさか不埒な想像をする輩もない。
 相手が、この堅物ではね。
 クスリと笑って、堅物様の顎をしゃくる。
「友雅殿……」
 困ったような恥ずかしいような表情で、しかし抵抗する素振りはない。
「今日は、……そうだな。自分でしてもらおうか」
「自分でって、まさか…っ」
「心配しなくとも、やり方くらいは教えてあげるから。……それとも先日のような格好で抱かれたいかい?」
 そっちでも構わないよ。
「いえ。あれは……ご勘弁下さい…」

 とても上機嫌な午後。
 そろそろと着物をはだけさせる鷹通を不躾なほど見つめながら、酒を呑む。
「友雅殿は、何もお考えになっていないような早さで手を進めていくくせに、何故そんなにお強いのですか」
 上目遣いの恨み言が、またそそる。これ以上の肴はないだろうよ。
「碁盤の上の数手先などよりも、私は君に興味を持っているからね」
 君の考えは、おのずと見えてくるものだ。
 どうしたら君を追い込めるのかと、どうしたら君が罠にかかるのかと、それだけを考えて、誘いをかける。
「ほら、しっかり指を絡めて……そう。上手だよ」
「っ…………はぁ…」
 声を殺してつく溜息が、壮絶なばかりの色香を帯びている。
 すぐに抱いてしまいたい衝動を宥めながら、極上の肴を満喫して……酒と君に、酔う。
 しどけない裾の乱れ。
 甘やかな吐息。
 恥ずかしげな表情も、ひとたび火が灯れば別人のように。
「……ん、あぁ……ぅ…、ぅ……あ…っ」
 見つめる視線に犯されて、正気を失うように乱れていく。
 視線を絡めたまま。
 視線で犯したまま。
 杯を片手に近づいて……酒臭い舌で、うなじを舐め取る。
「ふあぁ…っ」
 背筋に何かが走ったように身を震わせて、甘えるようにしなだれかかる身体を軽く支える。
 しかし手は出さず、ただ見つめるのみ。
「…っ……んぅ……ぁ…、…友雅殿、ん…んぁっ、助けて……くださ…い…」
 自分で上げた熱に浮かされて、不安で泣きそうな君。
「ふふっ……。いいよ、許してあげる」
 後を継ぐように口で包み込んでやると、涙を溢れさせて身を捩った。
「う…っ、…ああっ、もう、もう……っ。んあぁっ」

 賭事の類は嫌いだと、言っていたくせに。
「ほら、鷹通。……自分で足を持つんだよ?」
 得意な囲碁で勝負を挑んで、今日一日の主導権まで賭けて。
 すっかり堕落した堅物様を抱きながら、ご隠居様は上機嫌極まりない。
「んああっ、あぅん、…あ、あ……友雅殿……んは…ぁっ」
 なんとでも言えばいい。
 このまま朝まで離さずに愉しむのだから。
「ひあぁ、ん………と、もまさ…どの…ぉ」

 すっかり可愛くなった、恋人とね…。
 
 
 
 
 
 
 
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エッチの主導権を賭けた戦い。・・・もうその時点で惨敗決定ですから、鷹通さん。気付いてください、この男の煩悩力を!!(激しく偏見)でも世間的には「堅物に影響されて、すっかりおとなしくなってしまった橘少将殿」なので、まあ・・・被害者(打ち捨てられる女性)が減ってヨカッタじゃないですか。鷹通さん、頑張ってね(何を!?)たぶん帝と二人でコソコソと「おや、なんのことやら」なんてやってんだろーな(笑)

【酔恋譚】 ~Suirentan~ ≪目次≫

一部18禁要素を含みます。
赤星(*)は絡みや宜しくないものです。ご注意を。

++

【酔恋譚】 ~Suirentan~ 本編 // 長編小説(全20話) →イラスト

01020304050607080910 *
11 **12 **13 **14 *15 *161718 *19 **20

友雅×鷹通。ゲーム版 【遙か1】 設定が基本。
心の欠片とか鬼とか、使えるアイテムは全て使う方向で大真面目に恋愛小説。
キャラは木ノ葉の脳内で既に壊れているので、お覚悟の程を。
[ 2006/09/07~2006/09/26 完結 ]



【酔恋譚】 外伝 ~恋綴り~

友雅×鷹通。長編小説 【酔恋譚】 の世界に繋がる小話。

侍従鷹通と神子しか出てこない話(?)
囲碁 **大人しく囲碁だけやってりゃいいけど。
賭事どうして賭け囲碁なんかやり始めたのか。「囲碁」の前にあたる話。
書斎 ***「賭事」 の続き。色々恥ずかしい。
束縛 ***譲葉の絵茶絵(11/16 白虎縛り)から伝染したお遊び。
領域別れ話をさせてみようという実験(笑)
ヒメハジメ *除夜の鐘を聞きながら、真面目に読経デート。‥‥失敗。

 
 
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