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【酔恋譚】 ~Suirentan-10~

 本気になるというのは、残酷なものだと知った。
 想いを遂げても、壊れても、信じても、地獄の責め苦と共に在る。
 自分だけなら耐えられもしようものだが、恋しい人までをも巻き込み、狂おしい嵐となる。
 しかし何故か、その嵐の中へと。もっと狂おしい場所へと、心は向かってゆく。

 情熱を感じることのない場所へは、もう戻れない。
 たとえ君を失う日が来ても、あの安らかな虚無の中へは、戻れない。



 待ち人来たらず。
 そんな言葉に恐怖を感じるなぞ、想像したこともなかった。
 行くと宣言して夜を待たせるのは、うぶな鷹通には酷な話だろうと思い、選択権を委ねたのだ。
 小さな配慮だったが、時を踏むごとに確信へと変わる。

 戯れの恋ならば、酒でも愉しみながら、来るの来ないのと笑うこともできただろう。
 片膝を抱えて丸く座り込んだまま。
 夏の花を揺らす風に苛立ちを隠せぬまま。
 月をかくす雲に悲しみを映しながら。ただ、ひとりの人を待ち続けていた。

 初めて得た情熱の代償は、あまりにも重く悲惨なものであったが、こんな気持ちで鷹通を待たせることがなかったと思えば、その苦しみさえも甘美なものに変わる。

 そして届いた想いは。
 戸惑いながらも、その胸に私を抱き、静かな声色で、しかし毅然と鼓膜を揺らした。
「貴方の手を取るために、忍んで参りました」
 恋に疎いはずの男が、恥ずかしげもなく其れを言う。そこには真実の響きのみが宿り、照れも迷いも溶けていない。全てを覚悟して参ったから、あとは任せる…と、そういう意味にも取れたので、手を引いて部屋へと向かった。

 狂おしさばかりが募り、前置きもなく背後から抱きすくめて紐を解く。
 滑り込ませた指で胸先をやんわりと弄ぶと、息を乱しながらその腕を絡ませて、痛いほど引き寄せてくる。ぴたりと胸に着いた腕の皮膚から、その飛び出しそうに強く速い鼓動を感じて、愛しさにいたたまれなくなる。
「鷹通。私の願いを聞いてくれるかい」
「何とでも致しましょう」
 倒れそうなほどの鼓動に灼かれて、すっかり掠れた声。
「私は、君の声を聞きたいのだよ。吐息でもよい。この腕の中に在るのだと、絶えず示してもらえないだろうか。……我が侭かい?」
 はぁ…と、甘やかな吐息を漏らしながら微笑む腕の中の人は、記憶の中で一番に美しい。
「そんなことですか。ええ、お望みのままに」
 嬉しい言葉を聞き、利き手を封じられたまま、耳朶に口を寄せて艶めかしく舐め取った。
「…………ふぅっ」
 わざと音を漏らして、耳の中までも犯していく。
「は………っ、あ、あ、あぁ…っ」
 顎をぐっと反らしたままの、可愛い鳴き声。
 少しやりすぎたか、膝をガクガクと震わせて不安定に揺れ始めた。

 耳から離れて肩越しに回り込み、接吻をする。
 脱力して身を任せる鷹通を座らせてから、自分の衣服を解いて、はだけた胸元をすりあわせた。
 相も変わらず、激しく打ち付ける鼓動。
 少し落ち着かねば身が持つまいと、何もせずに抱きしめていても、一向に落ち着く気配がない。
「鷹通………そんなに怖ろしいのかい?」
 身体を離し、胸に手を当てて問うと、ほわっと息を吐きながら笑顔になった。
「怖くなどありませんよ。友雅殿があまりにも美しいので見惚れて緊張しているのです。そんな経験などありませんでしたが、想い人の肢体というのは、どうにも強烈なものですね」
 ああ、そうだ。
 だから私の胸も平常ではいられないのだが。
「しかしそれにしても強く思えたものでね。倒れてしまうのではないかと心配になったのだよ。……苦しいようなら、いつでも言いなさい」
 他愛のない会話は、鷹通の鼓動を少し落ち着けたようだった。
「………ふふ。苦しいと言えば、ずっと苦しいですね。ですが、貴方を想う心で逝くのならば良いのです。そこまで素晴らしい死に様など、他にありましょうか」
 物騒で儚げな告白をゆったりと語りながら身を寄せる、愛しい人。
「そうか……余計な心配だったね。それでは、黄泉の旅路までも連れていくとしよう。手加減はしないよ、鷹通」
「……………お手柔らかに。友雅殿」
 
 
 
 
 
 
 
小説TOP09 || 目次 || 11
 
 

やっと辿り着いたエロエロ(笑)待ち遠しかったよエロエロ(笑)そろそろ美味しくなっている頃だろう、と。
今回の目標はポルノにならないエロ、だったりします。だから露骨な単語とか伏せ字とか、グチャ系の効果音も使用せずにいきます。男の想像力じゃ、とても楽しめないエロです(ククク)