私のような者に心を砕く方がいらっしゃるとは、ついぞ思っておりませんでした。
必要とされるのは、自分に能力があるからで。
利用価値のない自分など、生きている意味も価値もまるでない、吹けば飛ぶ塵のようなものだと。
そんな自分が、八葉だと知らされた時……あの方と、対の存在であると知らさせた時。
正直を申しますと、悪戯な運命に反吐が出る想いで…。
私などと同列に並べられたあの方が、不憫でなりませんでした。
八葉に選ばれたと聞いた同僚達は、私のひたむきな姿勢が評価されたのだろうと素直に祝ってくれた。しかし対になる者の名前を聞いて、皆一様に溜息をついて異口同音の忠告をくれる。
「橘少将殿か…その辺りに疎いお前は、耳に遠い所だろうが…」
人を見てくれや噂で判断するのはどうかと思う。そう言って窘めても、栓がないので、途中でやめた。
「どんな相手であろうと、京を守るという目的は同じですから」
そう言いきって耳を貸さないことにする。
気の毒になぁ。気の毒になぁ。…聞こえるように囁く声に、少し胸が悪くなる。
変な噂など吹き込まなくとも、その方の存在くらいは知っている。
地位も色も力も揃った、華の武官。
しかし実際に会って感じたのは、そんな気取りをまるで感じさせない、物腰の柔らかさだけだった。
「君が私の対になるのかい?……気の毒に」
世間話のようにサラッと紡いだ言葉が、胸に落ちる。
この方の心は、私と同じ色をしているのかもしれない。
「ええ。私もそう思っていた所です。橘少将殿」
すると言葉の意味を取り違えたらしい少将殿が、皮肉気に、しかし楽しそうに笑った。
「言うね、君も」
鮮やかな笑顔に、訂正すべき事も忘れて魅入ってしまいそうになる。
「あ、いえ、私も、…私などと対になど、なんと気の毒な方だと思っていたのですよ」
にっこり笑って告げると、珍しいものでも見るように目を見張ってから、満足げに頷いた。
「噂以上に頭の回りも良いようだ、私は君が気に入ったよ。…藤原鷹通殿といったね。どうやら私達は白虎という名のもと、避けられない運命の輪に巻き込まれるようだ。……これからは君を、鷹通と呼ぶ。私のことも下の名前で呼びなさい」
いきなり無茶を言う人ですね…。
「私を名前でお呼びになるのは構いませんが…」
「嫌だとは、言わないでもらいたいね」
ぴしっと言い切ってから、やれやれという風情で首を傾げる。
「頼むよ……鷹通くん。位を付けて呼ばれると、どうにも気が抜けずに意地の悪い態度を取ってしまいそうだ。私は……君とは、仲良くしていきたいと思っているのでね?」
なるほど…。
靡く女性が数知れずという醜聞も解る。
人の心に自分の場所を作るのが、異常に得意な方なのだ。
「そういうことでしたら、……友雅殿。これで宜しいでしょうか」
「いいね。…鷹通、君の声は、なかなか私好みだ」
「私は女子ではありませんよ?」
「女性だったら困るじゃないか…こんなに美しくては、仕事にならない」
「お戯れを」
ほんの冗談だと、そんなことは聞くまでもない。
それでも素直に嬉しいものだと思う。
出逢いというのは、第一関門。ならばそこは、なんなく素通りできたらしい。
橘少将殿…否、友雅殿の、お心遣いで。
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友×鷹設定になると、鷹通が小さい頃から知り合いだったという話が多いのですが、今回は『お互い全く知りませんでした』という所から入ってみます。 |