「友雅殿……」
名前を呼ばれた時にわかった。君が、私の片割れなのだと。
生まれ落ちる前に手放した存在。
砕けて2つに割れたまま、無くしてしまった半身。
真面目な顔でそう言ったら、君は怒るだろうか、笑うだろうか。
それとも…
八葉の一人と聞かされ、勝手に「地の白虎」と位置づけられた。
面倒なことになったな……と、内心では辟易していたが、帝の勅命では逆らえまい。
覚悟を決めた胸に、星の姫君から「もう一人、天の八葉に位置づけられる白虎がおります」との言葉が降りて、心惹かれた。
名のない一介の治部少丞。
だがしかし、彼の噂を集めるのは容易いことだった。
女人達は一様に「色恋沙汰には無縁の寂しいお方」と笑い、頭の回りの宜しくない御仁は皆「勤勉で真面目なばかりが取り柄の、面白味のない奴」だと云う。しかし信頼のおける筋から聞けば「朴訥に見えるが、あれでなかなか話せる男なのだ」とくる。
他人の恨みや反感を買うことなく、地味に生きている一文官。
それならば何故こうも、宮中の人々に知れ渡っているのか……これは面白い。
「しばらくは退屈しないで済みそうだねぇ」
楽しげに響く己の声に、こんな事に興じてしまう程、それだけ意味のない人生なのだと思い知りつつも。
知れ渡るのも無理はない。存外、京人の趣味も解りやすいものだ。
治部少丞殿を前にして、すぐに謎が解けた。
つまらない男と云いながらも皆が記憶の中に留めている理由は、その顔の造作にあるものらしい。
つまり…本人は自覚していないようだが…、美しいのだ。
強いて云えば華が足りないが、桜の陰でひっそりと咲く木蓮のような、つつましい美しさが、むしろ良い。
こんな男が恋に疎いなら、それは女人にとっては気の毒なことだな…。込み上げる笑いを噛み殺しながらの会話は、それでも楽しいものだった。
「これからは君を『鷹通』と呼ぶ。私のことも下の名前で呼びなさい」
身勝手な宣言は、すんなり受け入れられた。
『……友雅殿』
遠慮がちな声が、別れた後も耳に残る。
一瞬で気付いた私と、まるで感ずる所のない鷹通との温度差。
焦ることはない。
自分にそう言い聞かせても、吹き荒れる嵐のとどまる気配は、ない。
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出ましたゲームアイテム『木蓮』・・・友雅への手紙に添えると喜んでくれる花です。鷹通のキャラにピッタリじゃないかと喜んで、勝手に使ってますが。鷹通の好きな花は『桜』と『しゃくなげ』でしょ?これまた友雅にピッタリじゃないか、と。なんとも細かい所に萌えてます(自爆) →イラスト【恋の嵐】 |