コトン、と、心に落ちるものがあった。
知らずに押し殺していた何かを、強引に開く声。
出逢った瞬間から、素直に笑えていた自分。
他人に触れることが怖かった私を、なんなく抱きしめる腕。
心を許していた。
貴方と、共に在りたかった。
それは自然に訪れた感情だったというのに……。
「四神が奪われた!?」
八葉の任を仰せつかった者は、何故か全部で6名。
星の一族の末裔であり、幼いながらもその占いの力を帝に評価されて、この任の中枢に据えられた『藤姫』にも、他2名は予言できなかったらしい。
急速に力を付けた鬼の一族が四神を奪い、龍の玉まで奪い去って、龍神の神子を召還しようとしているのだと、…混乱の中、告げられた。
「やれやれ。大変なことになったね」
場の緊張感を根こそぎ奪うような声に、なぜか安堵して振り返る。
「友雅殿。…ご無事でしたか」
貴方が無事なら、勝ち目はある。
根拠のない自信に我ながら呆れるが、いつの間にか懐に入り込んだ貴方は、私の中で何よりも強い輝きを放つ、陽光のような存在になっていた。
「そんなに手放しで喜ばないでおくれ。戦いなど放り出して、君を抱きたくなるじゃないか」
なっ。
「何を言っておいでですか、このような時にっ」
「おや?こんな時でなければ聞いてくれるというのかい?…ふふふ。しかしそんな無粋な声を出すものじゃないよ。無理に隠すつもりはないが、今後の志気に影響すると困るからね?」
幼子をあやすように耳元で囁かれて、顔が朱に染まった。
こ、こんなところで醜態を晒してしまうとは。
冷や汗を掻きながら周囲に視線を飛ばせば、龍の玉の気を辿る泰明殿に続いて、皆が部屋を後にしていた。
「わ、私達も追いましょう」
慌てて駆け出そうとする私の二の腕を、ぐっと引き寄せる筋張った指。
「走らなくていいんだよ、鷹通。落ち着いて、時を待てばいいんだ。…私がついているだろう?」
振り向けば、困ったような笑顔が優しく揺れている。
「友雅…殿…」
「暴走できる若さは羨ましいが、置いていかないでおくれ。私の対は、君しかいないのだから」
フッと力が抜ける。
差し出された手を強く握りしめてから、そっと離して藤姫達の後を追う。
繋がっているのだから、あの手を離しても平気なはずだ。
平気な、はずだった。
龍神の神子を奪い返し、息を付いたその時に、それはやってきた。
……パリン…ッ。
それは、なんと表現したらよいのだろう。
記憶や知識はそのままに、心の中…想いの核をしまい込んだ箱が、割れた音。
満たされるということを知らずにいれば、こんな喪失感はなかったのかもしれない。…大切な記憶など、自分には元より無かったのかもしれない。
だけど……だけど……だけど……。
……友雅、殿…。
空気を揺らすその声には、空虚な響きのみが残っていた。
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そしてゲームスタートで主人公が召還されるイベント、鬼との遭遇です。ここで八葉全員の心のカケラも散りますね。今回はこれを話のアイテムとして使っているのですが。これじゃ神子様が頑張って取り戻しても、恋愛イベント起きないじゃん(アハハ)あくまで腐女子設定でお楽しみ下さいませ。 |