貴方は私の憧れ。麗しの君。
それは貴方が、まだ私に名があることさえ知らなかった頃。
宴の席を抜け出し、上弦の月に目を細めていた貴族に目を奪われた。
橘少将殿。
昼の貴方を知るものがその姿に気付くことなどあろうかと感ずるほど、儚く脆くある立ち姿に、息を吐くこともままならなかった。
世を儚むのではなく。
己を愁うのでもなく。
その姿は、まるで月光そのものであるかのように。
手を伸べれば消えてしまう気がした。
いつまでそうしていたか。
ザワザワと人の動く気配がして、貴方は私に気付くこともなく人としての姿をまとい、現の世界へと交じり合った。
忘れることのない出逢いを秘めたまま、私は天の青龍となり、貴方は地の白虎となり。
親しげに会話を交わすまでになれど。
仄暗い炎は消えることなく‥‥しだいに激しさを増していった。
「暖めてくれるかい」
「お望みとあらば、喜んで」
こうして身体を重ねる仲になった今も、この恋を貴方が知ることはない。
「‥‥っあ、頼久」
その身を壊せとばかり激しく乞う貴方を、優しく抱くことをこそ、叶わぬ望みとなりはしても。
「また、そのように顔を隠さず‥‥取り繕うことなど、もう何もございませぬでしょう。良い声でお啼きになればよろしいかと」
手中に堕ちた、光。
「あ‥‥あ、あ‥‥‥もっと、酷く‥‥っ」
「御心のままに」
儚い月光。
貴方が真に求めるものは‥‥私ではありますまい。