『共に年を越しながら、読経でもしないかい?』
珍しいお誘いもあったものだと、少し驚いた。
頭から疑ってかかるのはいけないと思いつつも、読経などといって、また、私をからかうおつもりなのではないかと。意地の悪い笑みを浮かべて『本気にしたのかい?』などと宣うつもりではなかろうかと、思っていた。
まさか本気で百八つの鐘の間、読経を続けるとは。
……期待、していた?
鐘の音が三十を過ぎた頃、ふと気付く。
煩悩に駆られているのは自分自身なのではないのかと。
鐘の音が六十を過ぎた頃、想いに沈む。
友雅殿は私の望みを知った上で、ただそれを叶えてくださっていたのではないかと。
鐘の音が九十を過ぎた頃、解放される。
それを愛と説くのならば……私こそ、貴方に捧げていたい。貴方が求める愛を解いて、貴方を包み込める存在となれるように。
それこそが、私の望み。
百八つの鐘を過ごし、読経を終えた友雅殿は…神聖な空気を纏うように見える。
二人だけの年越し。
それをこんなにも静かな気持ちで迎えられるとは、なんと幸せなことだろう。
「鷹通。話をしようか」
僅かに首を傾げる仕草が優しくて、ついフラフラと身を寄せてしまう。
煩悩を祓ったばかりだというのに……。
煩悩を……、…?
背に回された友雅殿の手に抗えない力を感じて顎を反らすと、唐突に唇を奪われた。
それは深く激しい接吻。
息をすることすら忘れそうなほど、とろけるような悩ましい交わり。
「友雅殿!?」
ようやく解放され、腕の中で問いただすと、いつも以上に底意地の悪い笑顔でニコリと笑う。
「どうしたんだい、鷹通。無事に年を越せたというのに……何を愁うことがある」
「どうした…ということはないでしょう。たった今、煩悩を祓い、清らかな心持ちとなったばかりではないのですか」
おや?
しれっと笑う小憎らしいほどの余裕顔が、不安を煽る。
「当然だろう。行く年の煩悩を持ち越してはいけない。煤払いと同じでね、一年に一度くらいは真っ新になる必要があるからだよ。解っているだろう?」
「……ふ…ぅ、…ハ…ッ」
人生を説くように滑らかな言葉を放ちながら、その手は快楽の炎を煽っていく。
わけがわからない。
「そうだね。お喋りはやめて、啼いていればいい。すぐに私もそちらにいくよ」
「んぁ…っ」
高まる塊を握り込まれて襟元に縋ると、よしよしと云うように背中をさする腕。……ああ、どうして、こんなことになるのか解らない。
「まだ腑に落ちないといった風情だね。解らないかい。これまでの煩悩は捨て去る必要がある」
少し乱暴に着物を乱して、固く貫かれる。
「はあっ」
「この欲は、一度静まった心に、たった今、新たに沸き上がるものだからね。……また一年は連れ添って生きていくのだよ」
何度も何度も突き上げながら、荒い息づかいで囁き続ける。
「…っ。……もっとも君と生きる限り、欲望は尽きることを知らないままだろうがね…。……ぁ…っ」
その声に思考を焼かれ、腕の中に堕ちていく。
期待、していた…。
それはきっと私だけの望みではなく、貴方の心にも適った望みであることを。
独りよがりではなく、通い合う希望であることを。
私は、貴方を愛して…求めてよいのですね。……友雅殿。
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正月早々、パタパタと家事をこなしていたら、頭の中でイチャイチャし始めましたよ、このバカップル(馬鹿は俺だよ)そんなわけで「百八つの鐘を聞いた所で煩悩の元凶が傍に居ちゃあ、意味がないよね」なんてクダラナイ妄想でございました。あー書いてて楽しかった(笑) |