記事一覧

[友鷹]ヒメハジメ

『共に年を越しながら、読経でもしないかい?』

 珍しいお誘いもあったものだと、少し驚いた。
 頭から疑ってかかるのはいけないと思いつつも、読経などといって、また、私をからかうおつもりなのではないかと。意地の悪い笑みを浮かべて『本気にしたのかい?』などと宣うつもりではなかろうかと、思っていた。
 まさか本気で百八つの鐘の間、読経を続けるとは。

 

 ……期待、していた?

 

 鐘の音が三十を過ぎた頃、ふと気付く。
 煩悩に駆られているのは自分自身なのではないのかと。
 鐘の音が六十を過ぎた頃、想いに沈む。
 友雅殿は私の望みを知った上で、ただそれを叶えてくださっていたのではないかと。
 鐘の音が九十を過ぎた頃、解放される。
 それを愛と説くのならば……私こそ、貴方に捧げていたい。貴方が求める愛を解いて、貴方を包み込める存在となれるように。
 それこそが、私の望み。

 百八つの鐘を過ごし、読経を終えた友雅殿は…神聖な空気を纏うように見える。
 二人だけの年越し。
 それをこんなにも静かな気持ちで迎えられるとは、なんと幸せなことだろう。

「鷹通。話をしようか」
 僅かに首を傾げる仕草が優しくて、ついフラフラと身を寄せてしまう。
 煩悩を祓ったばかりだというのに……。
 煩悩を……、…?
 背に回された友雅殿の手に抗えない力を感じて顎を反らすと、唐突に唇を奪われた。
 それは深く激しい接吻。
 息をすることすら忘れそうなほど、とろけるような悩ましい交わり。
「友雅殿!?」
 ようやく解放され、腕の中で問いただすと、いつも以上に底意地の悪い笑顔でニコリと笑う。
「どうしたんだい、鷹通。無事に年を越せたというのに……何を愁うことがある」
「どうした…ということはないでしょう。たった今、煩悩を祓い、清らかな心持ちとなったばかりではないのですか」
 おや?
 しれっと笑う小憎らしいほどの余裕顔が、不安を煽る。
「当然だろう。行く年の煩悩を持ち越してはいけない。煤払いと同じでね、一年に一度くらいは真っ新になる必要があるからだよ。解っているだろう?」
「……ふ…ぅ、…ハ…ッ」
 人生を説くように滑らかな言葉を放ちながら、その手は快楽の炎を煽っていく。
 わけがわからない。
「そうだね。お喋りはやめて、啼いていればいい。すぐに私もそちらにいくよ」
「んぁ…っ」
 高まる塊を握り込まれて襟元に縋ると、よしよしと云うように背中をさする腕。……ああ、どうして、こんなことになるのか解らない。
「まだ腑に落ちないといった風情だね。解らないかい。これまでの煩悩は捨て去る必要がある」
 少し乱暴に着物を乱して、固く貫かれる。
「はあっ」
「この欲は、一度静まった心に、たった今、新たに沸き上がるものだからね。……また一年は連れ添って生きていくのだよ」
 何度も何度も突き上げながら、荒い息づかいで囁き続ける。
「…っ。……もっとも君と生きる限り、欲望は尽きることを知らないままだろうがね…。……ぁ…っ」
 その声に思考を焼かれ、腕の中に堕ちていく。

 

 期待、していた…。

 それはきっと私だけの望みではなく、貴方の心にも適った望みであることを。
 独りよがりではなく、通い合う希望であることを。

 私は、貴方を愛して…求めてよいのですね。……友雅殿。
 
 
 
 
 
 
 
小説TOP目次
 
 

正月早々、パタパタと家事をこなしていたら、頭の中でイチャイチャし始めましたよ、このバカップル(馬鹿は俺だよ)そんなわけで「百八つの鐘を聞いた所で煩悩の元凶が傍に居ちゃあ、意味がないよね」なんてクダラナイ妄想でございました。あー書いてて楽しかった(笑)

[友鷹]領域

 珍しくたて込んだ仕事に翻弄され、気付けば夜も白々と明けている。
 通い慣れた屋敷へと足を運ぶ暇もなく…寂しい想いをさせてしまっただろうか。…いや、寂しいのは私の方なのかもしれない。あの人が私を恋うて「寂しい」などと言ってくれるのならば、今からでも……次の夜明けを見るまでも、抱きしめ続けていたいと願うのに。
 普段通り出仕してきた者へと引継を済ませる途中、女妾から静かな視線を頂いた。

 それは、公の書類とは別口で、静かに届いた文。

 まるで恋文を運ぶかのような経路で……だがしかし、開いてみるとそれは、治部省の堅物【藤原鷹通】…非公開の役職で私の対を勤める【天の白虎】であり、もう少し非公開の話になれば、私の【恋人】でもある、身堅い男からの文であった。
 鷹通からの文など珍しくもない。……しかし、なんだろう、この違和感は。あの男からの文ならば、さりげなく公務の書類を匂わせる形で舞い込んでくるのが常であった。
 そこには素っ気ない書跡で、今すぐに会いに来いという内容の詩が記されている。

 珍しいを通り越して、不安に駆られる。
 これが本人の意志としても、何か別の意図があるにしても、あまりにも不自然だ。……あの男の有り様からは、想像すらできない。

 鷹通…?

 勝手知ったる他人の屋敷を忍び歩く。
 文机の部屋を通り越して、寝室として使う部屋に滑り込むと、ぼんやりと夜着を纏った鷹通の姿が…。
「これは、お早いお着きで」
 どうしたというのだろう。他人を見るような冷ややかな視線が、服の裾を見つめている。
「……具合でも悪いのかい」
 口の中が乾くのは、緊張しているせいだろうか。
 鷹通が何かに怒っているように見える。…そしてこの男がこんな顔をする時は、私の方に落ち度があると…なぜだか、そんな心持ちになる。
「いえ、体の調子は悪くありません」
 ならばどうして、夜着の中に身を沈めたまま、動こうともしないのか。
 傍に寄り、片膝を着こうとした刹那、低く厳しい声が響いた。
「こないでください…っ」

 涙も流さずに、泣いている姿。
 何が君をそこまで追い詰めたのか、見当もつかない。
 夜毎、逢瀬を重ねて…その身体も心も知り尽くした気持ちになっていた。それは私の奢りだというのか。
 来ないでほしいと泣くのならば、なぜ私を呼んだのか。

 続く言葉の響きを怖れて、その領域を踏み越える。
 言霊を紡ぐことなく夜着ごと抱きしめた、その腕の中で…小さな呻き声のようなものが、意味のある言葉を紡いでいた。
「もう……お別れしたいのです」
 何故だろう、そんな言葉を聞く気がしていた。
 今までに何度も聞いた、恋の終わり。
 だがしかし、過去の恋のように言葉のまま受けることも、ましてや聞き流すこともできはしない。……どうして、こんなに本気になってしまったのか。失うことが怖いのならば、何も愛さなければいい…誰も心の奥底に住まわせなければいい。それが解っていながら、なぜ、この男を抱いたのだろう。
「離すことなどできないと、わかっているくせに…」
 どうにかしぼり出した声は、自分で聞いたことのない程に掠れて枯れていた。
「貴方の都合は知りません。…私は、これ以上、己を失いたくはないのです」
 己を、失う?
「恋いに狂い、泣き暮らすような…まるでか弱い女のような、そんな自分を認めるのは、もう嫌なのです。仕事も手に着かず、貴方を待ち侘びて…これほどまでに己を厭わしいと思ったことは、過去になかった」
 驚くほど熱い言葉を聞きながら、そっと夜着を覗き込めば、桃色に染まった肩先が震えている。
 ……何も着けていない。
 それが鷹通を苦しめた業であることは、解った。
「それでも。……君を苦しめると解っていても、諦めることなどできないと。私の答えは知っているのだろう?」
 苦しいのだと。なんとかしてほしいのだと。……限界だったのだろう。鷹通がこんなに素直に甘えてくるとは思わなかった。
 取り乱してすがりそうになった自分を……否、そんな姿を晒してしまえなくて、焦がれる心ごと切り捨ててしまいそうになった私を、鷹通の弱さが救った。
 ずっと一緒だと。
 そんな誓いを立てることが、これほど難しいとは考えてもみなかった。
「君が欲しい」
 今の私に言えるのは、そんな小さな言葉だけだと。

 だから、夏も秋も冬も……ふたたび巡る春も、躊躇うことなく君を抱き寄せよう。
 この腕の中へ。…君が帰るべき場所へ。
 
 
 
 
 
 
 
小説TOP目次
 
 

譲葉が晒した萌え絵に、見事なまでに食いつきました。
→イラスト【恋いる領域】
鷹通が壊れてますが、これはアレなんですよ、あの「書斎」辺りから連なる流れで、鷹通が「疼く」という状態を覚えてしまいまして。自分でしちゃって罪悪感で死にかけてるというか(笑)壊したのは確実に友雅なので、責任持って鎮めてあげてくださいねー。ワクワク

[友鷹]束縛

「んうっ…………友雅、殿っ」
 さしてキツク括られたわけではないが、手首を拘束する布地に動きを封じられ、全てを晒している。隠すことも抗うことも叶わぬ状況に…どこかで悦を感じている己が羞恥心を煽る。
「抵抗することを諦めたのかい?…そんな投げやりな瞳をしても、私を煽るだけと知っているくせに」
 そんなつもりはないけれど…こんな風に動きを奪われ好きに嬲られれば、退廃的な気分になるのは確かだ。
「友雅殿……楽しそうに仰いますが、こうされることが、どれほど恥ずかしいものか…ご存じないから笑えるのですよ」
 いつも好きなように動くのは貴方で。…私はただ後手に回り、はしたなく鳴くばかり。そんな状況に不満も出ないほど溺れているのだから、手に負えない。
「ふふ。そうかもしれないね。しかし鷹通、経験する機会の無かった者を責めるのは、酷と思わないかい?……そうだね。鷹通が教えてくれるというのならば、甘んじて受けるつもりだが」
「……本気で仰っているのですか」
 立場を逆に。身動きの取れない友雅殿を、この手の中に…?
「ああ、もちろん。……縛ってみたいのだろう?」
 欲を煽るように掠れた声が、心の臓を鷲掴みにする。
 ただ狼狽えるばかりの自分が腹立たしい。
「友雅殿っ。からかうと痛い目をみますよ」
「………みせてごらん」

 布地を裂く音が、この関係をも切り裂いていく。
 暴走する己を止めることは、もうしない。

 友雅殿。貴方は私の欲望を甘く見ていらっしゃいます。
 本当は……本当は貴方を柱にでも括り付けて、この私以外のどんなものをも瞳に入れぬよう、閉じこめてしまいたい程なのに。
 貴方の時間を、貴方の人生そのものを、独占して…支配して、二人で朽ちてしまいたいと思うほどに、ただ貴方に狂っていく私を貴方は知らないから、そんな風に笑っていられるのです。
「少し……キツイのではないかな」
「いいえ、これでも緩いくらいです。跡を残してでも……貴方がここから逃げ出せぬように。…これが私の本心なのですよ、友雅殿」
 可愛げのないワガママで貴方を縛ったら、愛想を尽かしてしまうだろうか。扱いづらい情人などいらぬと、捨てられてしまうのだろうか。
 不安で髪の先まで震えた私に届いたのは、楽しげな笑い声だった。
「ふふ。なかなか情熱的なことを云うね。…ならばいいだろう。好きにしてくれて構わないよ。さて。縛り上げたはいいけれど、ここからどうしようというのかな?」
「………っっ」
「これでは私から手出しはできないのでね。…当然、君が悦くしてくれるのだろう、鷹通」
 堪えていないどころではない。
 友雅殿は、こんな状況を…こんな私を、楽しんですらいらっしゃる。
「どうしたんだい。拘束したらそれで満足だなんて、そんな可愛らしいことを言うと………お仕置きしてしまいそうだよ」
 顔だけでない。全身が。視界に入る指の先まで、全て赤く染まっていくのが判る。
 貴方には勝てないと、知っていたはずなのに。
 決して勝ちたいと願っていたわけではないというのに。
「泣かなくともいいのにね…。ほらおいで。自分で沈んで腰を振ればいい……何度かしただろう?」
 妖艶な笑みに誘われるように、その膝を跨ぐ。
 肌をすり合わせると、それまでの不安が掻き消えてしまう。
 ただ、貴方が欲しくて。
「私は文字通り手も足も出ないが…。ふふ。お任せするよ、私の可愛い人」
 そう言って床に肢体を投げた友雅殿は、気持ち良さそうに背を伸ばして、うっとりと笑ったまま瞳を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
小説TOP目次
 
 

絵茶で譲葉が、友雅を縛ったりするもんだから・・・つい(笑)で、出来心ですよっ。鷹通だって暴走するでしょ、あれじゃあ!!といいつつ、友雅に誘導されないと固まっちゃう鷹通が、やっぱり可愛くて大好きだっ。アハハッ。

続きを書けと言われそうだけど。これはここで終わるのが、私の趣味です。クックック
妄想で悶えてください(鬼)

[友鷹]書斎

「そこに腰掛けなさい、鷹通」
 優しげに命令をする友雅殿が指定した場所は、本来、腰をかけるべき場所ではなかった。
「机に……ですか?」
「そうだよ。早く」
 行儀が悪いとは思ったが、渋々と腰を下ろす。
 すると先程のように友雅殿は私の定位置に腰を下ろして、ジッと見上げてきた。
「…友雅…殿?」
 何も言わず、腰に絡みついた腕。
 膝の上に甘えるように預けてきた横顔が愛しくて、やわやわと髪を梳く。
 しばらくうっとりと身を預けていた友雅殿が、するすると裾の中に忍び込んできた。
「まだ何もしていないのに、元気なものだね。……私の自由になることが嬉しいのかい。ふふ。どんなことを想像しているのやら」
 言われて初めて、恥ずかしくなる。
 このまま膝枕をしろと言われるかもしれないのに。私は……どんな淫らな要求をされるのかと、どこかで期待していたのだ。
 恥ずかしくなって、赤く染まる顔を、背けた。
「いや、それでいいんだよ。君は正しい。……まさかこのまま眠らせてほしいなどと、そこまで弱りきったつもりはないからね、私は」
 言いながら足首を掴んだ手が、それを机の端に誘導する。……気付けば仕事のためにあつらえた机の上に開脚をして、友雅殿の視界に全てを晒していた。
「こちらを見てごらん、鷹通」
 怪しげな声に促されて手元を見れば、どこから出したのか、小さな姿見。そこに映るものが自分の秘所だと理解するまでに、殊の外時間がかかる。
「よく見ているんだよ?」
 甘やかに囁きながら、指を唇で濡らして……そこへ…ずぶずぶと突き入れる。
「あ……そんな…っ」
 目を反らせず見つめていると、音を立てて掻き回してきた。否定したいのに、あがる声は甘えきった響きしか持たず、情けない気持ちになる。
「これから君は此処に座るたびに、これを思い出して身悶えするのだろう?……想像するだけで、私も感じてしまう」
 そうだ……。こんな場所で、こんな事をしている自分。
 寝所の中や月夜の縁側で、友雅殿の面影を見て身悶えることはあったけれど…。
「そんな……酷い…」
 これでは仕事になどならないではないか。
「酷い男なのだよ。……私は優しくなどない。いつでも君を惑わせたくて、いつでも君に思い出してほしくて、いろんな罠を探しているんだ。……ああ、君の此処は綺麗だね。先走りの露に濡れて、淫らに誘っているよ。よく見てごらん」
 大袈裟ではない。それが事実なのだから、余計に質が悪い。
「いや………。もう、嫌です………降ろして…」
 この先に続く切なさを想うと、絶望的な気分にさえなる。こんな所で貴方に抱かれてしまえば、この家に帰ることすら怖ろしくなるような気がして…。
「泣かせるつもりはなかったのだけどね。……鷹通、おいで。もういいから」
 ふわりと身体が宙に浮いた。
 目を見張れば、大の男である自分を、衣でも抱くように軽々と横抱きにして、友雅殿が笑っている。
「続きは、このまま行おう。泣かせたお詫びに、ずっと抱いていてあげるから……抵抗してはいけないよ?…鷹通」

 足が地に着いていないというだけで、こんなに不安な心地になるものだろうか。思わずその首にしがみついた私を笑うこともなく、艶の増した声が耳元に囁いた。
「しっかり掴まっておいで」
 そう言うと横抱きのまま腰掛け、胡座をかいて、その上に……私をつなぐ杭の上に、ゆっくりと降ろしていく。
「んああぁあっ」
 背と足をしっかりと抱きかかえられたまま、結ぶ契り。
 慌てて首にしがみついても、友雅殿が背を下ろせば何の意味もない。どうしたって重心はその一点にかかる。
 姿勢を直すことも、僅かに反らすことも叶わぬ。当然いつもより深く突き刺された滾りは、どうにもならない場所をまっすぐに射抜く。
「あ、あ、あ、あああああっ」
 軽々と抱き上げられて、また落とされて。
 それが内側を擦る刺激だけで、ザワザワと全身が波打つというのに。貴方の短い吐息だけで、脳髄が灼かれるというのに。絡みつくその視線だけで、気が触れそうになるというのに。
 こんなに奥に。掠めるだけでも意識が飛びそうな、その場所に…こんな……こんな……。
「ああ、や、いやぁっ」
 涙が溢れてくる。
 気持ちが良いなどとは到底思えない。これは、快楽の地獄だ。
「また泣くのかい?……泣くほどよいということかな」
 視線を流す冷たい横顔を、睨みつける事しかできない。
「私が壊れてしまいます…っ」
 驚くほど声が掠れていた。羞恥と快感で身体中に溢れた熱が、身の内側から焦がしているようだ。
 深く貫いたまま一瞬動きが止まり、冷徹な声が降る。
「壊れちゃいなさい」
 頭から冷水をかけられたようにその顔を見つめると、苛立たしげな視線が斜めに射抜いていた。
「乱れて狂って私のことだけを考えていればいいと……そう思う自分を止められないよ、鷹通。君から使命も思想も信念も全てを奪って、私の中に閉じこめてしまいたい。……そんな抜け殻のような君を、朝も昼も夜も飽くことなく抱きたい。まったく酔狂なことだ。どうあっても君がそんな風にはならないと知っているくせに」
 最後は自嘲的に、呟くように告げられた……きっとそれも、貴方の真実なのだろう。
 そんな風になれたら、いっそ、なりたいものだと……そしてこれは、私の真実。
「そのようには、なれませんが…」
 首に回した手に力を込めながら、腰を回す。
「んはぁ…っ」
 強い刺激に自滅しそうになる。
 打ち捨てられるように腹に乗った塊が、涙のように何かを滴らせている。
「……鷹通?」
「今だけなら、狂い咲く自分を許しましょう。貴方の腕の中にある時のみ……私は、私を捨てましょう。……もっと…貴方を、ください。……友雅殿…」
 突き上げられる激情に身を委ねながら、あられもない声で鳴く。
 そんな浅ましい姿すら、貴方が望むのだから。
「ああっ、………く、……ん…っんあぁ」
 隠すこともない。晒してしまえ。私がこんなに貴方を欲しがっているということも。悦んで腰を振る姿も。
「ぁ…ん………っ、んーっ」

 弾けたものを胸で攫うように覆いながら、それでもまだ責め苦は続いた。
 まわした腕に爪を食い込ませて、飛びそうになる意識を繋ぎ止める。
 友雅殿から注ぎ込まれるものも感じていたが……一度も抜かれることはなく。繋がった部分が淫靡な水音を立てて、それを零していた。
 大腿をさらう腕も背を抱く腕も、もう限界だろうと思うのに。友雅殿は私を抱きしめて離さない。何かに怯えるように。何かに抗うように。いつまでも力を込めたまま突き上げ続けた。
「ん……はぁん…」
 意識があるのが不思議なくらい、長い長い時間だった。
 さすがに身が持たないと降参していたのに、そっと床に降ろされて、それが抜かれた時……寂しいとすら、思ってしまう。いつまでも抱きしめていたいのに、首から外された腕は鉛のように重く、それは叶わない。

 しばらくすると、向こうの部屋で私達を捜す声。
「もう……夕餉の時間なのですね…」
 ここを見られても取り繕うことすらできないだろうと、隣に転がる人を見た。
「見つからないといいけどね」
 悪戯な顔で笑うその人にとっては、どうでもよいことなのだろう。
「見つかっても構いませんよ」
 主人の睦言を触れ回るような者は置いていない。
 この屋敷の中で話題に上る程度なら、むしろこの先の手間が省けてよいだろう。
 友雅殿は艶めいた視線で物言いたげに見つめた後、怠そうに着物を引き寄せて私にかぶせた。
「それは構わないけれど……君の身体は、独り占めしたいものだね」
 ここまでしたくせに、まだ可愛い独占欲などを見せる貴方に、笑ってしまう。
「ならば隠しましょうか。ご主人様の仰るとおりに」
 そして顔を見合わせて笑った後、どちらからともなく意識を手放した。
 数刻後に目覚めた時も夜着は無く、なるほど書斎への出入りは控えるように言い含めていたと思い返す。どうやら淫らな『かくれんぼ』は成功したらしい。

 碁盤のある部屋には、行方知れずの主人を気遣うように、軽い食事が二人分。気の利くことに布団も二組敷かれていたので、友雅殿を起こして、そちらへ移動して頂いた。
「随分と気が利いているね。主人の教育がいいのかい」
「いえ。私は必ず部屋に戻ると信頼されているのでしょう。フラフラと彷徨うような真似は、まず致しませんから」
「……言うね、鷹通」
 別に誰と比較しているとも言ってはいないのですが。
「思う所があるのなら、居住まいを正したらよいのです」
 ハッキリと申し上げると、不機嫌に口を尖らせて夜着の中から伸ばした腕で、私を引きずり込んだ。
「このまま姿を乱して、この家の者達にも鷹通がどんなに可愛い人間だか、教えてさしあげようか」
「お好きにどうぞ。どうあれ、貴方にそうされたのだと、それを疑う者もありますまい」
「生意気な口だな……」
 言うなり噛みつくように唇を奪われ、いつの間にか立ち上がったもので前置きなく腰を貫かれた。
「…んあっ」
 先程の激しさとは違い、ねっとりと絡みつくような動きをする。
「本当に……まだ、なさるのですか」
 一眠りして回復してしまったらしい強者が、呆れるほど楽しげな笑みを浮かべる。
「まだ宵の口じゃないか。……夜はこれからだよ、可愛い鷹通。私の我が侭を聞いてくれるのだろう?」
「………身が持ちません」
 私を殺す気なのだろうか、この方は。
「若いのに、体力が足りないな。……鍛えてあげよう」
「結構です…」

『今日一日は君を好きにさせてくれるかい』

 これからは『日のあるうちだけ』という条件をつけよう…。
 そんなことを心に誓いながら、それでも、もう二度とご免だとは思わない自分に呆れていた。
 
 
 
 
 
 
 
小説TOP目次
 
 

エロエロだわ、ゲロ甘だわ・・・。さすがに書いてて胃凭れしました。友雅がドンドン鬼畜になるし、だけど鷹通が泣けばゲロ甘大魔神になるし。鷹通は際限なくエロくなるし、とにかく友雅が望めば許しちゃうし。だー、もうーぅ(脱力)何書いてんだー、私ーー(自滅)

[友鷹]賭事

 まさか、負けるとは。
 あんなにふざけていたのに。ちっとも真面目に考えているようには見えなかったのに。

 

 何をやらせても完璧な人間というのはいるもので、友雅殿はその典型のように見えた。文武両道、楽も舞も唄も遊びも、何も真面目にやらないくせに、要領よくこなしてしまう。……そんなだから、情熱が足りないなぞと贅沢なことを云って愁うのだろう。
 とにかく一度は「負ける」という経験をしてみればよいのだ。
 すぐに「あーあ」と諦めてしまうことではなく、何か……そう、何か、友雅殿をその気にさせる餌のようなものがあれば、それでいい。
 なんでもいい。悔しい顔をさせてみたい。
 それでムキになる事があれば、今までは上手くいきすぎていただけで、本当は人並みの心を持っているのだと、あの方を安心させられるのではないか。

 だからあの方が自分を条件にしてきた時は、それもいいと思った。
 囲碁など、友雅殿にとっては退屈なもの。
 こればかりは経験の差がモノを言うだろうと思ったのだ。
 実際に動かし方1つから確認を取る辺り、とても勝負になるとは思えなかった。

 しかし。
 なぜか。

「ふふ。………もしかして、勝てたりするかな」
 そう言って、思いもしないような場所に置かれた石。
 油断していたのは、対局中も延々とやまない話し声のせいか。それにしても『負ける』という結果は、断じて有り得てはならないものだった。
 あまりのことに、二の句を失う。
「………どうする? 続けたら、勝敗は変わるかな」
 よく解らないのだけれどと云って笑う人に、殺意すら覚えた。
 確かに終局と云うには早い段階だが、このまま続けても打開策が出るようには思えなかった。……いや、いつもの相手なら知らぬ顔で続けてしまう所だが、どうやら友雅殿には『この段階での勝敗』が見えたらしい。そういう相手に盛り返して勝つことはできない。
 気持ちが重くのしかかる。
「それで?…本当に、思い通りに動いてもらえるのかな」
 楽しそうな友雅殿には悪いが、あまり色っぽい気分にはなれなかった。
 賭けの内容など、この際どうでもいい。
 慣れぬこの身では、どちらにしても貴方の導くままに動くことしかできぬ逢瀬の時間。それを今さら『好きにさせて』などと云われても、負担には思わない。
 しかし……何故負けたのだろうか。
「鷹通。…鷹通。そんなにショックだったのかい? 今日はもう帰ろうか?」
 あまり長い時間固まっていたものだから、友雅殿にいらぬ心配をかけてしまった様子だ。
「あ……いえ、大丈夫です。そろそろ昼の支度をさせますね……」
 フラフラと部屋を出て女房達に声をかける。
 なんとはなく味のしない食事を口に運びながら、やはり言葉を交わす気にはなれなかった。

「まあ、そんなに落ちこむことではないよ。確かに、完璧だと思うことを相手に出し抜かれると、良い気はしないものだがね。……私は君より多く生きているのだよ。さすがに碁を囲んだのは久しぶりだったから、初心者のように色々聞いてしまったが、それなりに相手をさせられてきたこともあるのだから」
 易しく諭されて、我に返る。
 初心者でないのなら、確かにあまり落ちこむことではないのかもしれない。
「それでは友雅殿。たまにで構いませんので、私の相手をしてくださいませんか。貴方の腕なら相手に不足はありません」
 ここのところ囲碁の相手をしてくれる者もなく、勘が鈍っていた節はある。
 たかが勝負事とはいえ、負けたままで終わるには心が残る。
 それに、こんなに他愛のない時間を友雅殿と過ごせること自体が、もう楽しくて仕方がない。
「ふぅん………構わないよ、今日と同じ条件で良ければ、ね」

『もし私が勝てたら、今日一日は君を好きにさせてくれるかい』

 これも賭事の一つなのだろう。
 それを言って窘めても、友雅殿は意にも介せず『ご褒美というのだよ』などと返してくる。元より負けるつもりのないものだったし、それで友雅殿が本気になるというならば……その『ご褒美』とやらを手に入れられずに口惜しがるのならば、妥当な条件だと思った。
 だから、少し吹きかけるような言い方をした。

『かまいませんよ。私が負けたら、何でも貴方のお好きなようにいたしましょう』

 確かに、そう言った。
 ニコニコと上機嫌な友雅殿は少し怖いが、命に別状があるわけでなし。他人に迷惑をかけるでなし。一日くらいは、それもいいかと……むしろ、そこまで云う友雅殿が、いったい何をさせようとしているのか、少し好奇心が湧いたのかもしれない。
「よろしいですよ?……して、私は何をすればよいのですか、ご主人様?」
 友雅殿の頬に紅が差す。それを可愛いなどと思ってしまうのは悪い癖だ。
 一日は主従関係を結ぶという意味ならば、家の使用人と同じ。
 何をお望みですか、友雅殿。
 なんでも致しましょう。
 そう思うことも楽しいのだから、どうかしている。
「こんなことでも真面目にこなすのだから、君は本当に面白いね……まったく、退屈しない。それでは鷹通、君の書斎に案内してくれるかい」
「書斎、ですか?……別に構いませんが、何もありませんよ?」
 不可解に思いながら部屋を渡る。
 そこは机一つがポツリと置かれた素っ気ない空間。
 友雅殿は机の前に腰を下ろすと、なにやら大切そうに机を撫でて小さく笑った。
「長く居る場所なのだろう……鷹通の気配が在る」

 なんだ……。

 ふと、気が抜けた。
 別に私が心配せずとも、この人の心は既に安定しているのだ。
「何を笑っているんだい?」
「いえ。愛されているものだと……。嬉しかったので」
 穏やかな気分で笑うと、友雅殿の笑顔が意地悪く崩れた。
「愛しているさ。しかし、だから優しいばかりとは限らないのだよ。……さて、どう料理をしようかな。なんせ今日は、君のご主人様だからね」
 ええ、構いませんよ。
 何をお望みですか、ご主人様。
 貴方が私を望むのならば、なんでもして差し上げたいのです。
 
 
 
 
 
 
 
小説TOP目次
 
 

続きのエロが読みたくば、裏に忍んでおいで。ふふふ。でも本当に、エロしかありませんからっ!!(強調)心の充足を求める方は、ここでやめておいた方がよろしいかと(笑)

ページ移動