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[友天]水上我欲

 なんでこうなっちまうんだ。
「天真、あれは‥‥?」
「あれはボートつって、手漕ぎでこの辺プカプカするだけの乗り物」
「湖に小舟‥‥風雅な遊びだね」
 気色悪ぃっ、んなキラキラした目ぇすんなっ!!
 絶対、お前となんか乗らないぞ。
「天真」
 コラ、手ぇ引くな。
「・・・・・」
 期待の籠もった目で見るなーーーーっ。
 なんでいっつもベラベラ喋りまくる癖に、こんな時は黙ってんだよ、何も言わなきゃ反論もできないだろ、このクソオヤジ!!
「い、一回だけだぞ」
「すまないね」
 手に持った扇子をパッと開いて、口元を隠して笑ってる。
 こういう所に、あの頃を思い出して‥‥不意に。

 男同士でボートにのってる寂しい奴らだと思われないように‥‥間違ってもコイツが、そんな好奇の目で見られないように、グイグイとパドルを漕いでいく。
 岸から充分に遠ざかった辺りで顔を上げると、驚くほど近くに友雅の顔があった。
「な、なんだよ。ボートの上じゃ危ないから、ちゃんと座‥‥」
 目の前に広がる鮮やかな扇子の柄。
 こっちに来てから一度も交わしていなかった‥‥キス。
 遠く離れた岸からも、俺を隠すように。
「私は何処へも行かないよ」
 僅かにもボートを揺らすことなく席に戻った友雅は、不意にそんなことを言う。
「何の話だよ」
 ああ、そういえば武官だとか言ってたか。
 意外と運動神経はいいんだよな。
「儚いものを見るような目をしていたから‥‥ね」
「うるせー」
 どうしてこんな妙なところが鋭いんだか。
 そんなことを聞いたら、俺のことを見てるからだとか好きだからだとか、恥ずかしい言い回しで口説き倒されるんだろう。冗談でも勘弁してほしい。
「帰れとは言わないのかな」
「言うか」
 あかねが蘭と一緒に、こっちの世界に帰ると決めた時‥‥正直、俺は向こうに残るつもりでいた。
 蘭が戻れば、不安要素は何もない。
 後は好きに決めろというなら、俺は‥‥。

「天真、私と付き合ってくれないか」

 は。
「はあっ?」
 何言ってんだっつーか、なんだそりゃっ。
「おや、違ったのか。こちらでは恋仲になるために、そのような言い回しを使うのだと聞いたのだが」
 何の話だよっ。
「ってゆーか、恋仲って今は違うのかコラ」
 お前が言ったんだろ、俺に興味があるからこっちに来るって。恥ずかしげもなく龍神脅してまで付いて来たんじゃねぇか。
 俺が残れば済むことだったのに。
「ふふ。今のは告白だと思って良いのかい」
 誘導尋問かよっ。
「今さら言わせんなっつってんだ、恥ずかしいとか無いのかお前にはっ」
「無いね」
 くっそーーーー。
 あまりの悔しさにパドルを水面に打ち付けていたら、濡れる濡れると笑ったままの友雅に手を取られる。
「これでは岸に着く頃には濡れ鼠になってしまうよ」
「転覆しないだけ良いと思え」
「いっそ転覆させてしまおうか」
 クスクスと笑いながら「君となら溺れてみたいものだ」なんて、どこまで本気か知らないけど。
「ばぁか。溺れるなら、俺の中だけにしとけ」
 笑い飛ばしてくれるだろうと油断して、どっかで聞いたような恥ずかしい台詞を吐いた俺の前で、怖ろしい変化が起きた。
「あ‥‥赤くなんなーーーっ」
 本気に取る馬鹿がどこにいるっ。
 見てる俺の方が恥ずかしいだろコノヤロウ!
「不意打ちは心臓に悪いものだよ‥‥」
 汚れるからやめとけって言いたいような場所にクテッと腰掛けて俺の足に凭れてる友雅を、不覚にも『可愛い』だなんて思ってしまう脳味噌がオカシイことは、とっくに自覚してる。
 ‥‥‥くそっ。
 おかしかろうがなんだろうが、世間の常識とどう食い違おうが。
「ぅん‥‥っ」
 目隠しの扇子はいらない。
 誰に見られても、何を言われても、俺はお前が好きだし可愛いし惚れてるし‥‥‥どこへも帰さない。
 鬼にも、龍神にも、誰にも渡さない。
「傍に居ろ」
 触れたら消えそうで、無駄な距離を置いてた。
 確かに此処にいると確信できるまで、朝は怖くて‥‥いつも、いつもいなくなる夢ばかり見て。
「何処へも行かぬと言っているだろう?」
 宥めるような声に泣きそうになりながら、フワフワ遊ぶ髪を抱いて、不安定なボートの上で体温を分け合う。

 口を開けば憎まれ口ばかり。
 青物の野菜が嫌いで、酒と果物に目が無くて、晴れた日は意味もなく窓辺でニコニコしてたり、地震に怯えたり。
 あの頃見てた完璧な男は誰だったんだろーなーと笑えるほど、普通な友雅に、病気かってくらい惹かれてる。

 いつもお前のワガママに付き合ってんだ。
 一つだけ‥‥俺が、ワガママ言ってもいいよな?
「いいから、傍にいてくれよ」
「‥‥ハイハイ」
 呆れたように呟く友雅は、なんか幸せそうな顔で笑ってた。



創作企画で「キャラ・シチュ・決め台詞」をアミダで決めて、指定通りに書いたもの(笑)
ちなみにオイラが引いたのは
--
・キャラ→友雅
・シチュ→湖のボートの上で
・決め台詞→付き合ってください
--
相手は自由だけどBL指定。
なんせ引いたのが友雅だったから、そのまま書いたら余裕過ぎてツマンナイかなーってことで初書きの友天にしてみた。
好きなカプだけど、書く機会がなかったからさ。

捻らず素直にサクサク書けました。
天真はBLになるとスゲー弄りやすいです。マトモだから。

[天永]武士だと思え

「あ、あの‥‥天真殿‥‥」
「ばか、殿はやめろって、ここ教室だぞ!?」
「え、あ、ス、スミマセン」
 ビクビクと謝る姿に苛つく自分を持て余す。
 優しくしてやりたい。
 俺ですら、異世界に飛んだ時はそーとーショックだったんだ。元々気の小さいコイツが、そんなに早く馴染めるわけがないのは、わかりきってたことなのに。
「あ‥‥‥‥‥あの‥‥‥」
 教室の椅子にドッカリと腰掛けてイライラしてる俺の肩口で、気弱な指がウロウロしていた。
「なに?」
 優しく‥‥‥が、無理ならせめて、傷つけるような言い方は避けようと視線を投げると、真っ赤に熟れた顔で耳打ちしてきた。
「あの‥‥それでは、なんとお呼びしたらよいのでしょうか‥‥」
「呼び捨てでいいだろ。男同士なんだし」
「敬称を抜くのですかっ!?」
 なんだその悲鳴みたいな声は。
「抜きたくないなら勝手に付けろよ。でも『殿』は無い。この世界じゃそれはオカシイんだから、しょうがねぇだろ?」
 あー、でも‥‥天真、くん?‥あかねならともかく、コイツが呼ぶ姿は想像できない。天真、さん?‥なんかイタイことやるガキ共のボスみたいでキショイな‥‥。天真ちゃん、却下。天真様、却下。‥‥消去法じゃ、全部消えちまうな‥‥。
「いいんじゃねーの、呼び捨てで」
 ダメだ。俺のボキャブラリーじゃ何も浮かばない。
「そんな‥‥っ」
 だーもー、泣きそうな顔すんなーっ。

 ‥‥‥あれ、ちょっと待て?

「お前、頼久のことは呼び捨ててなかったっけ?」
「‥‥‥‥‥はい」
 あれって身分の違いなんだろうな。
 頼久は武士だから、敬称なんか付けちゃマズイ。
 その頼久は俺のことをテンマテンマ呼び捨ててた気がするぞ。
 んー‥‥‥‥。

「武士だと思え」

「は???」
 だーかーらー。
「俺を武士だと思えばいいんだ。そーすりゃ呼び捨てるのがアタリマエだろ?」
「そ、そんな」
「そんなも何もねーよ。あっちの世界でだって、頼久の下で働いてたコトがあるくらいだ。問題はないはずだぞ」
「それは、あの‥‥」
「練習」
「はい?」
「習うより慣れろってヤツだよ。天真って呼んでみな」
 結論が出てホッとした俺は、そのまま永泉を観察した。
 熟れすぎて落ちそうなくらい真っ赤に染めた顔で、横見て下見て、視線を散々彷徨わせた後で、でかい瞳に涙を浮かべてフルフルと首を振る。
 マズイ。
 相手は男だ。
 だから‥‥可愛いとか、絶対マズイ。
 くそーっ、そんな縋るような視線を投げてくるんじゃないっ。俺はそーゆーのに弱いんだーっ。
「無理、です‥‥天真殿‥‥っ」
 バカッ、泣くな!!!
「距離がっ」
 あ、ヤバイ。変なこと言いそう。
「距離が近くなんだろ? 名前ってのは相手との距離だとか言うぜ?‥‥お前は、俺の傍には来たくないってことか」
 何言ってんだ俺のバカーーーーー!!!
「そんな、そんなことは」
 オロオロと首を振る永泉に苛ついて、制御が利かなくなる。
「せっかくこっちの世界に来たってのに、まだ僧侶だとか仏の教えだとか辛気くさいこと言う気か。お前は俺に付いてきたんじゃなかったのかっ」
 ちょっと違う。
 あのまま、若いのに人生を捨てたような生活じゃダメだと思ったから、無理言って引っ張ってきたんだ。
 たぶん、俺が、無理矢理。
「天真殿‥‥っ」
 認めたくない。
 お前の意志で俺の傍に来たんだって、勝手でもワガママでも、そう思いたいんだよ、俺はっ。
「兄上様の所に帰りたくなったのかよ」
「そんなことありません。天真殿の‥‥天真‥‥‥の、傍に、居たいデス‥‥‥」
 消え入りそうな声で、上着の肩をキュッと掴んで俯く姿が頼りなくて。
「二人だけの時なら、なんて呼んでもいいから‥‥」
 自分の顔まで赤くなるのを自覚しながら、途方に暮れていた。

[頼詩]困らせないで

 そんな瞳で見つめないでほしい。

 これ以上焦がれてはいけないと、水に打たれても。
「風邪引いちゃいますよ。はい、手拭いと着替えを持ってきましたから。‥‥頼久さん、どうかしたんですか?」
「いや‥‥‥すまない‥‥」
 煩悩は消えることがなく。

 これ以上求めてはならないと、無理に遠ざけても。
「よかったぁ。何処に行ったのかと心配してたんですよ?‥‥貴方がいないと、お屋敷が広すぎて‥‥たまに泣きたくなっちゃいます。ダメですね、もっと強くならなきゃいけないのに」
「無理もない。慣れない世界に迷い込んだのだから」
「はい。‥‥でも、なるべく心配かけないようにしますからね。だから‥‥傍に、いてくださいね」
「‥‥‥‥‥もちろん、だ」
 いつの間にか隣で笑っている。

 これ以上惹かれては危険だと‥‥もう、私は私という男を保っていられる自信もなく、お前の前から消えてしまおうかとさえ考えたのに。
「だ〜れだ♪」
「!!!?!?」
 無邪気な笑顔に、振り回されてばかり。

「だって頼久さんてば、最近相手にしてくれないんだもぉん♪」

 いけない。狼が子兎を狩るようなものだと知りながら、私は己を律する自信すらない。お前の前にいると、獰猛な欲が嵐のように吹き荒れるのを感じるのだ。
 詩紋。私は‥‥‥危険だ。
「頼久さぁん。また眉間に皺が寄ってますよ? そういう顔ばかりしていると、そういう顔になっちゃうんだから」

「頼久、ダメだ。コイツのは『確信犯』っていうんだ。騙されんじゃねーぞ」
「うんうん♪ 無邪気な顔して、詩紋くん最強だからねー♪」
 天真‥‥神子殿‥‥?
「天真先輩もあかねちゃんも、変なこと言わないでよ。頼久さんに誤解されちゃう」
「その目が曲者なんだっ!!」
「頼久さん、頑張ってねー♪」

「今のは‥‥‥その‥‥」
「うーん、あの2人はボクをからかって遊んでるだけですから、気にしないでくださいね。隠してもバレちゃうみたいで‥‥」
「隠す?」
「うん。ボクが頼久さんのこと、大好きだってこと」

 不意に後ずさったせいで無様に倒れた私の頭を優しく膝に乗せて、堪え切れぬように笑う詩紋を、ぼんやりと見つめる。
「狼狽えた振りしたってダメですよ。もうすっかり知っていたくせに‥‥ねえ、頼久さん、ボクのこと嫌いですか?」
 目を反らせぬままに力無く首を振ると、答えを知っていたかのように小さく笑う。
 近づいてきた顔を好きにさせて、柔らかな唇に触れる。

 私は罠にかかったのだと、そこで気付いた。

「よかった。ボク、誰に何を言われてもいいんだ‥‥貴方が傍にいてくれたら、それだけで」
「傍にいてもいいのか?」
 今更‥‥と、私の中の私が笑う。
「頼久さん、大好き!」
 無邪気な顔をした子兎に牙を抜かれた気分で。

 木漏れ日の色をした柔らかな髪を、そっと引き寄せた。

[頼鷹]白と黒

なんかホストっぽい絵だったから、鷹通がこんな、まさか!!みたいな(笑)感じで、勝手に記憶喪失にさせました。あっはっは。そんでたぶん頼久は「手荒な手段を使ってでも、取り戻す」みたいな使命感なんじゃないかと、そーとーワケワカンナイようなパラレルです。妄想の自己完結?(ゲラゲラ)


「困りましたね。‥‥愉しいですか?」
 どれほど汚しても追い詰めても、余裕の笑みは壊れることがない。
 それは‥‥貴方が。
 もう既に、壊れているから?

 いや、それでは困る。
 こんな茶番を演じるために、こんな所まで足を運んだわけではない。
「一緒に来ていただけますか?」
「何のためでしょう」

「貴方のために。‥‥貴方の失った記憶を、私は握っています」

 それを聞いた貴方は一気に青ざめて、逃げるように身を捩った。
「いりません。捨てようとして捨てた記憶なのは、ぼんやりと覚えているのです。‥‥私には、必要のないものだと」
「思い出されたのですか!?」
「いえ。何度か思い出そうとするたびに、私の心が悲鳴をあげたものですから‥‥どうか知っているのなら、そして私を救おうとしてくださるのなら、捨ておいてはいただけませんか」
 項垂れた貴方が悲しくて、その心に私がないのが悔しくて。
 刻みつけるように、抱いた。
 貴方は抵抗する素振りもなく、何かに縋るように私を求めてくる。

 その時、ふと。
 私の中の黒いものが蠢いたのが解った。

 貴方は神子殿を忘れようと必死だ。
 私は‥‥その隙間に、この身を割り入れることが、できる‥‥?
「名前。ア‥‥名前、を‥‥‥ん、あふ‥っ」
「頼久と申します」
「頼久殿‥‥?」
「殿は余計です。ただ、頼久と」
「ならば私のことも、んあ‥っ‥‥鷹通、と」
 畏れ多いと辞退すべきだと、頭では解っていた。
 ただ‥‥。
「鷹、通」
 せめて貴方を抱く時だけ。
 せめて偽りの契りを結ぶ間だけは。
「頼久‥‥‥ぁあっ、よりひさぁ‥‥」

 私に罪があるのは存じ上げているのです。
 貴方が記憶を取り戻した時は、腹を切ることも厭わない。
 ただ、この胸に縋る貴方が愛しくて恋しくて、もう狂おしいばかりで。
 鷹通殿、お許しください。‥‥‥貴方を、愛しているのです。

[×頼久]飢餓感

 与えられる刺激。湧き上がる悦楽。
 激しく攻め立てられながら、朦朧とした意識の中で短い夢を見た。
『兄上‥‥』
 口走りそうになった名前を、苦く飲み下す。

 これが本音か。

 吐き捨てるように項垂れながら、身体は軽い絶頂を迎える。
 どうしてこれほどまでに男の身体が恋しいのかと‥‥女を愛せない身体なのかと諦めもした。
 違う。違うのだ‥‥私は、私は‥っ。

 あ な た に 愛 さ れ た か っ た の だ。

 溢れた涙を快楽のためと決めて、優しく抱き留める腕の中。
 前後も解らなくなるほど強烈な飢餓感に襲われる。
 何をしても届かない。
 疼き続けるこの身を持て余して、ただ生きていくのだ、これから先もずっと。
 貴方が与えてくれた命なれば、捨てること叶わず。
 欲に溺れて、命を繋いで。

 兄上。兄上。兄上。兄上‥‥っ。

 誰か私を、穢して。
 この傷みを忘れるためならば、どんな仕打ちにも耐えるから。
 どうか私を‥‥‥‥。

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