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[アク詩]ヒトジチLife 完結編

以前書いた【ヒトジチLife】の続きです。今回はエロがないので、期待してた人には土下座モノですが(笑)ひとまずあの二人をなんとかしてやらねばならんだろう!!と。



「詩紋くん!!」
 抱きついてきた白龍の神子は‥‥ボクの神子は、やっぱり揺るぎない瞳を失わずに、それがどれだけ無謀なことでも必ず叶える力を掲げて、ボクの手を取った。
「ただいま」
 蘭がいない。
 皆、それに触れない。天真先輩ですら‥‥。
 ボクと引き替えになったなんて、誰も口にしない。それが凄く悔しかったけど、それは紛れもなく『優しさ』なんだって知ってるから、何も言えやしない。

「アクラムを、倒しに行こう?」

 だったらボクが何も聞かないことが、ボクの意思表示になるだろう。
 知ってるから、隠さなくていい。
 面倒臭いことは抜きにして、結末を迎えたい。
 こんな茶番は、早く終わらせるんだ。
 ボクの意志をいち早く酌み取ったのは、他ならぬ天真先輩だった。
「ああ。その為に、お前を待ってたんだ」

 ここに来る途中で降り出した雨が、状況を教えてくれた。
 あかねちゃん達の仕事は終わり。
 アクラムが施した罠は全て解除されて、京には怨霊の姿すら無かった。片っ端から封印して回ったんだな‥‥って。やっぱりね。数の計算をすればすぐに解る。鬼の一族が勝てる道理は無いんだよ、はじめっから‥‥‥そんなの、あの人に解らないはずもないのに。
「ほんと、バカなんだから」
 空に投げた声は、雨音に吸い込まれるように消えていった。


 決戦当日。
 天真先輩の手を取ったあかねちゃんは、その隣にボクを据えた。
「頼りにしてるぜ?」
 苦しそうに笑う先輩は、ボクの本音を知ってる。


「元の世界に帰らないって、どういうこと!?」
 驚いた顔のあかねちゃんに、ボクがちょっと驚いた。
 もうすっかりバレてるんだと思ってたボクは、今の気持ちを説明する言葉を持ってなくて。一瞬迷って、つい反射的に救いを求めてしまった視線の先で、天真先輩が大人びた笑顔を作る。
 あ‥‥こんな顔、する人だったんだ‥‥。
「仕方ねぇだろ、コイツにはコイツの事情があるってことだよ。そんな風に追い込むな」
「追い込んで‥‥る、の?」
「だーかーら、まずは話を聞いてやれ。お前の後を付いてくるのがアタリマエってわけじゃねぇだろ?」
「そんなっ、風には‥‥思って、なかった‥‥けど‥」
 段々と小さくなる声が今にも泣き出しそうで、思わず抱きしめた。
「天真先輩、苛めちゃダメだよ」
 意志が強くて真っ直ぐ笑ってる太陽みたいな人。
 ボクがずっと憧れてた女の子は、時々こんな風に弱い顔をしてみせる。
 守ってあげなくちゃ。
 ずっと傍にいて、ボクが守ってあげなくちゃ。
 きっとボクもそんな風に思ってた。
 あかねちゃんと離れる日が来るなんて、そういえば考えたこともなかったよね。
 天真先輩は、そんなボクの気持ちも知ってる。

 損な役を引き受けて、それでも文句も言わないで付き合ってくれる瞳に見守られながら、ボクが見てきたことを‥‥感じたことを、ゆっくりと話して聞かせる。
 ボクは、あの人の傍にいたい。
 正しい力だけじゃ救えない存在も、きっとあるから。

 ねえ、アクラム。ボクは貴方の傍に行くよ?
 逃げないで‥‥受け止めてね。

「うん、頼りにしてて。絶対に勝つって、ボクが決めてるから」


「いやあああっ!」

 蘭の身体から黒龍の瘴気が噴き出した時、一つだけ解ってしまったことがある。
 蘭は‥‥‥ボクに、似てるのかもしれない。
 利用されるだけだと知っても、天真先輩を苦しめたくなくて悩んでも、それでもアクラムを一人にできなかった。もしかすると彼女が戻ってきたのも、そういう理由なんじゃないかって気がした。
 それを確かめる術は、今はないけど‥‥。
「蘭を利用するなんて許さないよっ」
 あかねちゃんはアクラムを睨みつけながら凛と前を向いてる。
 その声に大きく頷きながら、八葉としての役目を果たす。

 この力が貴方を傷つけることになるんだとしても。鬼の一族にとっての救いにはならないんだとしても。たとえ‥‥たとえ、貴方を失うことになるんだとしても。
 今は。
 貴方とボクの間にある壁を、全力で壊すんだ。

 絶対に負けない。

 それはボクの想いでもあるけど、天真先輩の、あかねちゃんの、八葉全員の意志だったんだと思う。
 光が生まれて、何かを包みこむように消えていく。
 あっちでも、こっちでも。
 まるでスローモーションみたいに弾ける目映い光の中で、フと目を上げると、目を閉じて立ち尽くす貴方が見えた。
 蘭の手を離して、誰をも寄せ付けず。
 こんな眩しい光の中で‥‥たった独り、立ち尽くす貴方の姿が。

 アクラム!

 叫んだ声が言葉になったのかは知らない。
 だけど、時空の狭間に消えようとする影に必死で手を伸ばした。
 これでいいんでしょう?
 もう、貴方の役目は終わったんでしょう?
 京には龍神の加護が。
 蘭には新たな未来が。
 きっとみんなが何かを手にして、時が流れ始める。

 アクラム!

 声の限りに叫ぶ。
 そこがどんな暗闇でも、ボクは怖くないよ。
 何もできなくていい。

 傍にいたい!

 ボクの手からすり抜けた影。
 それでもその場所に辿り着けると思ったボクは、いつの間にか大好きな天使の影響を受けていたのかな。

「追って‥‥‥来たのか‥‥」
 静かに呟いた声は、そんなに驚いてる風にも見えなかった。
「うん」
 鬼の結界の中。アクラム以外の誰にも開けられない扉のこっち側。
 辿り着けるって知ってた。
 だって、貴方は道を閉ざさないでしょう?
「馬鹿な奴だ」
 その言葉は、貴方が降参したって意味にとっていいかな。
「なんとでも言って?」
 疲れたように座り込んだ貴方を、包みこむように抱きしめてクスクス笑う。
「つかまえた♪」
 貴方の孤独はボクが貰っちゃうよ。もう二度と、返してあげない。
 ボクを捕らえても簡単に逃がしちゃう貴方になんか、もう身を任せたりしないから‥‥‥ね、ここから先は。

 ボクが貴方を捕まえて、離さないからね?

-END-

[アク詩]ヒトジチLife 4

 続く、平和な日々。

 平和…そう呼ぶのは、絶対にオカシイ。
 僕は地の朱雀で、あかねちゃんの八葉で、アクラムに囚われた人質なんだ。

 

++ ヒトジチLife 4 ++

 

 逃げ出した蘭を探し出して、アクラムに差し出す。それが解放の条件になるんだと思う。……たぶんアクラムは知っているんだよね。逃げ出したんじゃなくて僕たちが彼女を保護していることを。泰明さんが施した結界の中に彼女はいて、鬼の人達からは手出しができない。
 あの中に居る以上は、きっと心配ない。
 判ってるから、あかねちゃんは無謀にもアクラムに会いに行ったんだ。
 ……バカだなって、思う。
 あかねちゃんが囚われたら、泰明さんは容赦なく蘭を取引の駒として使うだろう。そんな簡単なことが判らない人じゃないのに…。判っていて、それでも。何の確信もなくても「なんとかなる」って動き出すのが、あの人の怖いところ。
 無謀な行動を取っても必ず生き残る……その望みを叶える。それこそが『龍神の加護』なのかもしれない。

 だけど、今度は、よく考えてね?
 今の京に必要なのは、何?
 僕を切り捨てられないようじゃ、守れるものも守れなくなる。

 アクラムは、何を考えているのか。
 僕を追い出すためだけに暴走して壊れていくセフルやシリンを面白そうに見つめながら、今日も僕が作ったご飯を食べてる。
 何もせずに身を寄せている時、ほんの僅かに、くつろいだ表情を見せるようになった。
 そして夜は……。

「んあ……ダメ…ぇ、アクラム…」

 甘えきった声が空気に乗って、僕に返ってくる。
 否定の言葉もコレじゃ意味がない。
 何度も教えられて知ってしまった、自分の身体とアクラムの熱。
 否定しても抵抗しても、同じ結果になることも……ううん、無理に抵抗すると、もっとキツク責められることも。
 意地になって抵抗してみた時もある。
 だけどそれは、もしかすると…僕の欲なのかもしれないって、本当はアクラムに酷くされたくて抗ったのかもしれないって思ったら、逆らう方が恥ずかしくて。
 僕はただ、貴方にしがみつく。
 上手に甘えられなくて、されるがままに任せていたら、僕の熱を解放させずに放り出して独りにしたりする。たった独りの部屋。自分で自分を慰めるのは……恥ずかしくて虚しくて、やるせなくて。
「もっと……もっと、シテ」
 アクラムに快楽の塊を握られて、どうなってもいいような気持ちになる。
 恥ずかしくていい。もっと触って……イかせて…、お願い。
「お前が今どんな顔をしているのか、見せてやろうか…」
 差し出された鏡。
「や…だ…。見たく、ない」
「偽りない己の姿を知っておくがよいであろう?……鏡を取れ」
「んはぁ…ああっ……」
 握っていたソレを、お菓子でも食べるみたいにパクッと口に入れて、わざと音を立ててしゃぶり始める。
「ひっ……は……ぅああっ」
 強烈な刺激。
 涙がポロポロ零れて、背中がビクビク痙攣して、陸に上がった魚みたいに腰が跳ねた。
 上り詰めて…耳鳴りが上がってきた時。
 フッと、刺激が止まる。
「……ぇ…………」
 何も知らなかった頃なら、助かったと思ったかな。
 今は、ここで止められることが、どれだけキツイか知ってる。
「鏡を取れ」
 僕をいたぶって悦ぶアクラムは、残酷な子供みたい。
 溜息をついて鏡を覗くと、僕の知らない僕が居た。
「目を反らさず、そのまま見ているがよい」
 少し感覚の戻った場所を、さっきよりも乱暴に責め立てられる。
 鏡の中の誰か。ああ……あの高い声は、君が出していたんだね。理性なんて微塵もない姿で啼いて、淫らに誘う顔、切なく乞う顔、悦びに震える顔。
 恥ずかしいね。僕はこんなにも貴方を求めてる。
「もういいよ。僕は、貴方の顔が見たい」
 こんな僕は知ってる。鏡を見なくても知ってる。
 貴方に啼かされて、貴方に甘えて、グチャグチャになってる自分を、僕は知ってる。
「貴方を、ください…」

 虚勢を張るほどの時間は、残されていない。
 駆け引きをしている暇がない。
 髪の一房、流れる血の一滴さえも、貴方を刻みつけるように。
 永遠の別れが来ても、けして忘れないように…。

 

「お館様!!蘭を捕らえて参りました」
「何言ってんだよっ、コイツを捕まえたのはボクだぞっ」
 誇らしげなシリンとセフルの声が響く。
「やっ、いやあああああっ」
 先に連絡を受けていたアクラムは、その声に応えることもなく蘭に術を施して、また元の人形へと戻していった。
 取り引きした形跡がない。セフルもシリンも無傷…。
「自分で出てきたのだな……愚かなことだ」
 アクラムは本気で追ってはいなかった。それなら皆に任せておけば、京の結界を直して鬼の力を削いで、それからここに宣戦布告してくるはず。…何があったのか知らないけど、君が出てくる必要なんかなかったのに。

 僕は、どうしようかな。
 一瞬迷う。
 迷って、アクラムの横顔を見つめる。
 止めてくれたら…攫ってくれたら、どこにでも着いていくけど。
 こっちを見ようとしない貴方が、無言のまま『立ち去れ』と命じている。…未来のない戦いと知っているのに、それでも貴方は自分の運命から逃げられない。貴方が「やめる」と決めれば、消えてなくなる運命なのに。戦いに勝ったからといって、貴方が得るものは何もないのに。
 僕は、どうしようかな。
 一瞬迷う。
 迷いを振り切って、背を向ける。

 僕は八葉だから、貴方との道は歩めない。
 もしもそれが叶う時が来るとしたら、それは……全てを終わらせた時。
 僕が貴方を倒すよ。
 全力で戦って、貴方が受け入れたものを全て壊してやる。
「さよなら」
 全部終わった時に貴方が生きてたら、僕も生きよう。

 もう、迷いはなかった。
 
 
 
 
 
 
 
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最終決戦後にアクラムEDがあるなら、詩紋とのEDだってあるはずだ!・・・と決めつけるアタシは腐女子(笑)。機会があったら、ぜひ続きを書いてみたいもんだと思うんですが。ホホホ。

[アク詩]ヒトジチLife 3

 視界が暗い。
 淡い光に包まれていたはずの部屋で、僕の視界だけが暗い。

 

++ ヒトジチLife 3 ++

 

 アクラムが、僕を、抱いてる。
 何度気を失っても腕の中から解放されることはなく、その矛盾した感情を叩きつけられるかのように、時に酷く優しく、時に酷く冷たく、時に酷く激しく、この身を翻弄されている。
 何も語らず夢中で貪る姿が、悲しい。
 こんな時にばかり正直な貴方が、愛しい。
 怠い腕を伸ばしてキレイな金の糸を梳くと、少し驚いたようにこっちを見た。
 闇を抱く、青い瞳。
 もっとハッキリ見たくて、ちょっとだけ髪を引っぱってみる。戸惑いながら近づいてくる顔を触りたいな。さっきから愛おしげに身体を滑ってた柔らかい唇に触れたいな。
 届いた頬を撫でて、唇を、鼻を、睫毛を滑って、また髪を梳く。
 キスして。
 言葉にしなかった僕の心を、貴方は知ってるの…?
 啄むように何度も何度も合わせて、そのうち深くなったキスは、ビックリするくらい気持ち良い。
 深く差しだされたアクラムの熱に口の中を隅々まで探られていくと……どうしてだろう、背中に電気が走るみたいな感覚になる。腰の辺りがムズムズして、胸がザワザワして、たまらなく切なくなる。
 気持ち良いのに「もうやめて」って、言いたくなる。
 今度は僕の気持ちが聞こえないみたいに…ううん、聞こえてるのに無視してるのかもしれない。うっすらと開いた目が弓形になったもん。きっと僕を笑ってるんだよね。
 キスしたままで貫かれる……もう、こんなのにも慣れちゃったみたいだ。
 さっきから、身体がおかしい。
 アクラムにされると痛くて苦しくてたまらなかったのに、今は……痛いより、切ない。感覚が全部飛んじゃうみたいに自由になって、宇宙に投げ出されたみたいに身体が浮いて、何かに縋りたくなって……アクラムに抱きつく。やっと安心してしがみついてると、クルンと身体を回されて布団に押し付けられる。
 目の前に広がる布の海は、あまりにも不確かで…涙が溢れてくる。
 しゃくりあげる僕をクツクツと笑いながら、抉り込むように挿し貫いて、後ろから身勝手に抱きしめる。なのに………背中にピタッとくっついた身体が、温かくて、嬉しくて…。こんなの理不尽だよ。
 軽々と抱き上げられて身を起こすと、僕の胸を弄りはじめる。
「や…っ、ヤダってば」
 さっきから何度もやめてってお願いしてるのに……意地悪…。
「…………ぅ、んっ」
 歯を噛みしめて我慢してると、アクラムの吐息が耳にかかった。
「声を上げれば楽になるものを……なぜ、堪える」
 だって、こんな声をセフルに聞かせるわけにはいかない。
「人に……聞こえちゃうと、嫌だから」
 貴方以外の誰かに、こんな僕を知られたくない。
 殴られてあげる悲鳴なら、まだにせろ。
「誰にも聞こえぬ。ここは鬼の術が創りだす別世界……私以外に開けるものはない」
 あ……そうなんだ…。
「うあ…っ」
 ドンッと、乱暴に突き上げられて、一瞬わけがわからなくなる。
「遠慮せず啼くがよい、地の朱雀。淫らな声をあげても、私以外に知るものはない」
「んあぁっ」
 安心して、たがが外れちゃったみたいだ。……止まらない。
「あっ………あん…っ」
 声を上げないと苦しい。だけど…。
「やあぁ、あー…っ」
 こんな声、恥ずかしいよ。自分で聞きたくないのに…っ。
「アクラム…ぅ、やぁ、やめて…ぇ」
 どうしよう。止まらない。
 自分が悦んでるって……こんなに悦んでるって、知りたくないのに。
「ふ…。淫らなものだな」
「あ、…くぅ…」
 閉じることもままならない口元に、アクラムの指が入ってきた。
 チュッとしゃぶると声が止まったから、安心して……安心したら、今度はソレが離せなくなる。
 口の中を遊ぶように動く指を、舌で絡め取っていく。
 口を閉じることも唾液を飲み込むこともできなくなって、溢れたものが首を伝っていくのが判る。……こんな僕は、アクラムの目にどう写っているのかな。恥ずかしいよね…嫌われちゃうかな。
 なんだか悲しくなって、ポロポロと涙が流れてくる。
「泣くほどよいのか。恥ずかしい男よの…」
「………嫌い…?」
 ムリヤリ振り向いて顔を覗き込むと、楽しそうに笑っている。
「淫靡な姿だ……美しいものだな」
 美しい…?
 こんなに汚れて欲にまみれて……まだ求めてる、僕の姿が?
「まだ青臭い子供かと思ったが、これはこれでよい。淫欲に溺れ正直に求めるお前は美しい」
「あっ、……んあ、ん…っ」
 急に激しくなった動きに翻弄されて、意識が飛びかける。
 肩越しにアクラムの頭を抱くと、首筋に生暖かい感触が走った。
「やあ…。舐めちゃダメ…」
 甘噛みされるたび、全身に電気が走る。
「誘っているようにしか見えぬな」
 耳元で囁かれる自分の痴態に、体温が上がるのがわかる。
 ピリッと痛みが走って身を縮ませると、噛んだ耳朶を今度は優しく弄ぶ。どうしてそんなことが気持ち良いのかな。もう自分が自分で解らないよ…。
 ドクン…と、身体が、何かを解放する。
 わけが判らないまま背を反らした僕の背中で、アクラムが笑う。
 ああ……さっきも、こんな感覚があった、かも…。
 遠くなる意識を引き寄せるように乱暴に突き上げられて、壮絶な圧迫感に身を縮ませると、どこか優しい腕が僕を包み込んだ。
「まだだ……まだ、解放してやる気にはならぬ」
「壊れ、ちゃうよ…」
 求める腕の強さが嬉しいくせに、つい弱音を吐いた僕を、楽しげで意地悪な声が笑う。
「ククク……ならば、壊れてしまうことだ。痴態を晒したまま、この腕の中で悶え狂うお前をこそ私は所望する。理性を捨て、私のものとなれ……詩紋」
 名前…呼んでくれた…。
 ぼんやりとしたまま、アクラムに向き合う。そのまま身を投げ出すようにしがみついた僕を、抱き返して、笑う。

 罠に堕ちた僕は、この身と引き替えに、貴方を手に入れた。

 その後に続いた狂宴は、とても人と人の交わりではなかったけれど。
 僕は、僕を求める貴方を手に入れた。
 この時間が永遠に続くものではないと知っているのに。
 今、僕と貴方は、幸せだった…。
 
 
 
 
 
 
 
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意外にも書き手の罪悪感を煽らない、大人な詩紋(笑)もっと恥ずかしいかと思ったら、あれれ?そうでもなかったな・・・。アクラムの方がテンパってるじゃんとか笑いながら書いてみました。詩紋・・・最強。

[アク詩]ヒトジチLife 2

 これは、食べ物…?

「すまない、地の朱雀。口に合わなかっただろうか…」
「あの……えっと…」
 一生懸命作ってくれたイクティダールさんには悪いけど、お世辞を言って済ませられるレベルじゃない。
 こんなのばっかり食べてたら、心が荒んじゃうよー!!

「もし、よろしかったら……僕が作りましょうか…?」

 

++ ヒトジチLife 2 ++

 

 セフルがやたらと怒りっぽいのとか、シリンさんが常にヒステリックなのとか、アクラムが溜息ばっかりついてるのとか、全部コレが原因なんじゃないかって気がする。
 マズイ。
 不味いだけじゃなくて、栄養が偏りすぎてる。
 油と炭水化物しか無いんじゃないかって思うような、ヘンテコなご飯。それを美味いとも不味いとも言わずに、黙々と口に入れて飲み下す食事。
 この人達は、何かが変だ。
「鬼の一族って、ずっとこんなご飯を食べて生きてきたんですか?」
 だとしたら、京が呪われるのは当然だよ…。
「いや…まだ集落が残っていた頃は、畑から穫れるものもあったのだが…」
 言葉を濁すイクティダールさんが哀れに思えてならない。
 異世界から来た天真先輩ですら、職をみつけて町で暮らすことができたくらいの世界。…確かに、羅城門で寝起きしていた子供達は、いつもお腹を空かせていたけど、それでも「人」だから、救われてたし助けられてた。……こんなに酷いものを口に入れてる人は、いなかったと思う。
 土地を奪われる。
 大地に根付いて生きてる人達にとって、それがどれくらい酷いことなのか、ちょっとだけ解った気がする。イノリくんが怒るわけだ。
 だけど、イクティダールさんが追い出したわけじゃない。
「すまない……。山に入って肉を刈ることもできるのだが…」
 うん。…京を襲うのに忙しくて、生活のために割く時間はなかったんだよね。少し薄暗い気分になりながら、イクティダールさんの肩をポンポンと叩く。
「食べられる草は見分けられますか?」
「いや……私には」
 そういう役目を果たしていた人達がいなくなったから、こうなったのかもしれない。
「それじゃ僕を河原に連れていってください。教えます」
「それは…っ、……すまないが、君を解放することはできない…」
 狼狽したイクティダールさんの叫びをさえぎるように、彼のボスの声が空気を割った。
「よい。……そやつは、逃げぬ」
「お館様っ」
 どこから現れたのか、いつから覗いていたのか。
「そうであろう?…地の朱雀」
「…うん。今逃げる意味がないから」
 視線が絡む。試すように誘うように見つめる瞳。
 仮面……外してた方が、好きだな…。
「…早く戻れ」
「ハッ」
 条件反射みたく返事をしたイクティダールさんを視界に入れず、僕を見てる。
 返事してほしいのかな。

「うん。美味しいの作るから、待っててね」

 結局イクティダールさんが釣ってくれた魚と、摘んできた野草でも、マシなものが作れることがわかった。自然の恵みってすごいな…。穀物は貯蓄があるみたいだし(どうやって手に入れたのか知らないけどね)明日からはイクティダールさんが材料を調達してくれるって言ってたから、作るだけでいいみたい。
 アクラムは、美味しいとも不味いとも、やっぱり言わなかったけど……全部、食べてくれた。
 セフルとシリンはずっと怒ってたけど、どうやら「お館様の命令だ」と言われて食べたみたい。……ふふっ。返ってきたお皿が舐めるようにキレイになってる。
 美味しいものが嫌いな人なんか、いないよね?

「ご苦労なことだ」
 呆れた声が真後ろから聞こえた。
「……余計なことを、とは、言わないんだね」
 フッと鼻で笑いながら、冷たい指先が首を滑る。
「これ、洗い終わるまで待っててください」
「……知らぬ、な」
 カチャカチャと食器を片付けていく。その動きに合わせるように、からかうように、アクラムの手が身体を滑って…。
「く……くすぐったい…っ」
 首とか脇とか、触れる場所によっては、お皿を落としちゃいそうになる。
「ふ、あ…っ」
 ヴァンパイアを思わせるような、首筋へのキス。
「やだ……やめて…」
 クチュクチュ…と耳のそばで音がする。本当に血を吸われちゃいそうで、くすぐったくて……なんか変で……身を捩る。

 いつの間に、部屋に飛んだのか。
 押し倒された先が柔らかいベッドだったことに、ホッとしてる場合じゃなくて。
「アク…ラム……?」
「……黙れ」
 身の下にある僕ごと、肩からかけていた大きめの衣で覆うと、無言で衣を解く。
 何をされるのか判らないわけじゃない。どうするのか…どうなるのか、詳しいことは知らないけど……なるようにしか、ならないしね。
 少し投げやりな気分で、いつの間にか仮面を外した顔を見つめていた。
 キレイな顔。
 天使と悪魔なら、悪魔の方が美しいんだって聞いたことがある。美しいから、人は間違えるんだって。イケナイと思っても、悪魔に魅入られるんだって。
 なんとなく…わかる。
 きっと、あかねちゃんは天使だ。いつも前向きで頑張ってて優しくて可愛くて…、僕を導いてくれる天使。
 だけど、僕は。
 不安定で後ろ向きで冷たくて、悲しい、この人をこそ守りたいと思ってる。
 それが罪なら…罪の中にこそ堕ちたいと。
「目を閉じていろ。最初は、どうあろうが辛い…」
 気が遠くなるほどの痛みと苦しみが襲いかかってきた。それでも…悲鳴をあげちゃダメだ。きっと彼が、セフルが扉の向こうで涙を流してるから。
「……ぐぅ…っ」
 奥歯を噛みしめて苦痛に耐える僕を、楽しげに見つめる瞳。
 残忍で冷ややかな視線。
 遠くなる意識の中でボンヤリと、思った。

 アクラムの瞳はキレイだな……って。
 
 
 
 
 
 
 
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[アク詩]ヒトジチLife 1

「アクラム……僕が、人質になるよ」
「詩紋!!」
「詩紋くんっ」
 とても、静かな気持ちだった。
「ほう……地の朱雀、お前か…」
 面白いものでも見るように薄く細められる目を、真っ直ぐに見つめかえす。
「うん。…だから、あかねちゃんを離して」

 

++ ヒトジチLife 1 ++

 

 返事を聞かずに前へ出る。
「詩紋っ、罠だ。戻れっ!!」
 天真先輩の血を吐くような叫び声に、振り返って笑いかける。
「お札も取り返したし、朱雀の加護も戻ってる。もう僕がいなくても大丈夫だよ。あかねちゃんを……守って」
 手に届く位置まで近寄れば、謀ることなく彼女を解放して僕の手を取る。
 一瞬の耳鳴り。
 瞬きをする間に飛んできた鬼の結界の中で、いきなり僕を抱きしめた貴方は……泣いているように、みえた。
「なぜ私を信じた」
 独り言のように呟いたソレは、僕に向けてるものじゃない。
 貴方が、貴方自身に向けている問い。
 なんで龍神の神子を手放して、僕の手を取ったのか……もしかすると本当に解らないのかもしれない。
「知っていたから」
 貴方が知らない貴方の望みが、僕には見える。解っているから恐怖だって感じない。……僕は、今の貴方が怖くないんだ。
 龍神の神子。京。一族の望み。本当の貴方は何も望んでいないのに……ただ、愛されたかっただけなのに。
 愛される術を知らない人だから。
「ふん。生意気な口をきくな」
 異形の姿を隠しながら京の街を歩いていた時。八葉としての役目に悩んで、静かな場所に逃げ込んだ時。使命に燃えて走り回っていた時。何度も目の前に現れた貴方と、何度も言葉を交わした。
 どうして僕の前に現れるの…?
 答えをくれるはずがなかったから、自分で考えた。ずっと……今日までずっと、一人で考えてきた。
 腕を解いて、少し離れた所に腰を下ろした後ろ姿。
 僕に、何を求めているの…?
 龍神の神子でもない。一族の切望でもない。権力でもお金でも力でもない。
 たった一つ……貴方が求めているもの。
 それが手に入らなかったから、全てを壊そうとしてた。
「アクラム……」
 貴方を表す記号を言ノ葉に乗せて、後ろからギュッと抱きしめる。
「……っ」
 苦しげに身を捩るくせに、本気で逃げようとしないのは……どうして?

 僕が、貴方を、手に入れてあげる。

「僕をあげるよ」
 この命ごと全部差し出して、抱きしめて、包んであげる。
 貴方が抱える飢えも渇きも……なんでかな、僕には見える気がするんだ。
「全部、あげるよ」
 不機嫌そうな顔をして宙を睨んでいるくせに、言葉を失くしている貴方が、すごく愛しい。
「…………おもしろい」
「うわっ」
 クツクツと仮面の下の顔が笑い声を立てて、僕を振り払うように立ち上がると、その腕の中に囚われた。
 カラン…。
 仮面が地面に触れる音を、どこか遠くで聞きながら。
「………ん…っ」
 それは、熱くて甘くて乱暴なキス。
 ちょっとビックリした。
 キスされたことより、それを嫌だと思わない自分に。
 僕は……どうしちゃったんだろう。
 身を任せて好きなように嬲られながら、少しドキドキしてる。
 抱きしめたいな…。
 囚われて自由のきかない腕を、なんとか背中に回してキュッとしがみつく。
 長く長く……目の前がボーッとして何も見えなくなるくらい、すごく長い間、キスされて。その身体が離れた時にはもう、立っていることすらできなかった。
 ペタンと座り込んだ僕の耳元で、残酷な笑い声が響く。
「全てを差し出すのだろう?……これで終わるなどとは思わないことだ。地の朱雀…」
 言葉の響きと裏腹に、抱き上げる腕は…。
「優しい……くせに」
 呟いた言葉を鼻で笑って、そっとベッドのような所に降ろすと、部屋から出ていってしまった。

「もしかして……照れてるの、かな?」
 まだちょっと掴めない。

 

 これからここで、僕の人質生活が始まる…。
 
 
 
 
 
 
 
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