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[アク詩]ヒトジチLife 3

 視界が暗い。
 淡い光に包まれていたはずの部屋で、僕の視界だけが暗い。

 

++ ヒトジチLife 3 ++

 

 アクラムが、僕を、抱いてる。
 何度気を失っても腕の中から解放されることはなく、その矛盾した感情を叩きつけられるかのように、時に酷く優しく、時に酷く冷たく、時に酷く激しく、この身を翻弄されている。
 何も語らず夢中で貪る姿が、悲しい。
 こんな時にばかり正直な貴方が、愛しい。
 怠い腕を伸ばしてキレイな金の糸を梳くと、少し驚いたようにこっちを見た。
 闇を抱く、青い瞳。
 もっとハッキリ見たくて、ちょっとだけ髪を引っぱってみる。戸惑いながら近づいてくる顔を触りたいな。さっきから愛おしげに身体を滑ってた柔らかい唇に触れたいな。
 届いた頬を撫でて、唇を、鼻を、睫毛を滑って、また髪を梳く。
 キスして。
 言葉にしなかった僕の心を、貴方は知ってるの…?
 啄むように何度も何度も合わせて、そのうち深くなったキスは、ビックリするくらい気持ち良い。
 深く差しだされたアクラムの熱に口の中を隅々まで探られていくと……どうしてだろう、背中に電気が走るみたいな感覚になる。腰の辺りがムズムズして、胸がザワザワして、たまらなく切なくなる。
 気持ち良いのに「もうやめて」って、言いたくなる。
 今度は僕の気持ちが聞こえないみたいに…ううん、聞こえてるのに無視してるのかもしれない。うっすらと開いた目が弓形になったもん。きっと僕を笑ってるんだよね。
 キスしたままで貫かれる……もう、こんなのにも慣れちゃったみたいだ。
 さっきから、身体がおかしい。
 アクラムにされると痛くて苦しくてたまらなかったのに、今は……痛いより、切ない。感覚が全部飛んじゃうみたいに自由になって、宇宙に投げ出されたみたいに身体が浮いて、何かに縋りたくなって……アクラムに抱きつく。やっと安心してしがみついてると、クルンと身体を回されて布団に押し付けられる。
 目の前に広がる布の海は、あまりにも不確かで…涙が溢れてくる。
 しゃくりあげる僕をクツクツと笑いながら、抉り込むように挿し貫いて、後ろから身勝手に抱きしめる。なのに………背中にピタッとくっついた身体が、温かくて、嬉しくて…。こんなの理不尽だよ。
 軽々と抱き上げられて身を起こすと、僕の胸を弄りはじめる。
「や…っ、ヤダってば」
 さっきから何度もやめてってお願いしてるのに……意地悪…。
「…………ぅ、んっ」
 歯を噛みしめて我慢してると、アクラムの吐息が耳にかかった。
「声を上げれば楽になるものを……なぜ、堪える」
 だって、こんな声をセフルに聞かせるわけにはいかない。
「人に……聞こえちゃうと、嫌だから」
 貴方以外の誰かに、こんな僕を知られたくない。
 殴られてあげる悲鳴なら、まだにせろ。
「誰にも聞こえぬ。ここは鬼の術が創りだす別世界……私以外に開けるものはない」
 あ……そうなんだ…。
「うあ…っ」
 ドンッと、乱暴に突き上げられて、一瞬わけがわからなくなる。
「遠慮せず啼くがよい、地の朱雀。淫らな声をあげても、私以外に知るものはない」
「んあぁっ」
 安心して、たがが外れちゃったみたいだ。……止まらない。
「あっ………あん…っ」
 声を上げないと苦しい。だけど…。
「やあぁ、あー…っ」
 こんな声、恥ずかしいよ。自分で聞きたくないのに…っ。
「アクラム…ぅ、やぁ、やめて…ぇ」
 どうしよう。止まらない。
 自分が悦んでるって……こんなに悦んでるって、知りたくないのに。
「ふ…。淫らなものだな」
「あ、…くぅ…」
 閉じることもままならない口元に、アクラムの指が入ってきた。
 チュッとしゃぶると声が止まったから、安心して……安心したら、今度はソレが離せなくなる。
 口の中を遊ぶように動く指を、舌で絡め取っていく。
 口を閉じることも唾液を飲み込むこともできなくなって、溢れたものが首を伝っていくのが判る。……こんな僕は、アクラムの目にどう写っているのかな。恥ずかしいよね…嫌われちゃうかな。
 なんだか悲しくなって、ポロポロと涙が流れてくる。
「泣くほどよいのか。恥ずかしい男よの…」
「………嫌い…?」
 ムリヤリ振り向いて顔を覗き込むと、楽しそうに笑っている。
「淫靡な姿だ……美しいものだな」
 美しい…?
 こんなに汚れて欲にまみれて……まだ求めてる、僕の姿が?
「まだ青臭い子供かと思ったが、これはこれでよい。淫欲に溺れ正直に求めるお前は美しい」
「あっ、……んあ、ん…っ」
 急に激しくなった動きに翻弄されて、意識が飛びかける。
 肩越しにアクラムの頭を抱くと、首筋に生暖かい感触が走った。
「やあ…。舐めちゃダメ…」
 甘噛みされるたび、全身に電気が走る。
「誘っているようにしか見えぬな」
 耳元で囁かれる自分の痴態に、体温が上がるのがわかる。
 ピリッと痛みが走って身を縮ませると、噛んだ耳朶を今度は優しく弄ぶ。どうしてそんなことが気持ち良いのかな。もう自分が自分で解らないよ…。
 ドクン…と、身体が、何かを解放する。
 わけが判らないまま背を反らした僕の背中で、アクラムが笑う。
 ああ……さっきも、こんな感覚があった、かも…。
 遠くなる意識を引き寄せるように乱暴に突き上げられて、壮絶な圧迫感に身を縮ませると、どこか優しい腕が僕を包み込んだ。
「まだだ……まだ、解放してやる気にはならぬ」
「壊れ、ちゃうよ…」
 求める腕の強さが嬉しいくせに、つい弱音を吐いた僕を、楽しげで意地悪な声が笑う。
「ククク……ならば、壊れてしまうことだ。痴態を晒したまま、この腕の中で悶え狂うお前をこそ私は所望する。理性を捨て、私のものとなれ……詩紋」
 名前…呼んでくれた…。
 ぼんやりとしたまま、アクラムに向き合う。そのまま身を投げ出すようにしがみついた僕を、抱き返して、笑う。

 罠に堕ちた僕は、この身と引き替えに、貴方を手に入れた。

 その後に続いた狂宴は、とても人と人の交わりではなかったけれど。
 僕は、僕を求める貴方を手に入れた。
 この時間が永遠に続くものではないと知っているのに。
 今、僕と貴方は、幸せだった…。
 
 
 
 
 
 
 
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意外にも書き手の罪悪感を煽らない、大人な詩紋(笑)もっと恥ずかしいかと思ったら、あれれ?そうでもなかったな・・・。アクラムの方がテンパってるじゃんとか笑いながら書いてみました。詩紋・・・最強。