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【想双歌】〜Sousouka〜 《目次》

一部18禁要素を含みます。
赤星(*)は絡みや宜しくないものです。ご注意を。

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【想双歌】 ~Sousouka~ 本編 // 長編小説(全20話)

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11 *1213141516 **17 *181920

翡翠×幸鷹。ゲーム版 【遙か2】 設定が基本。
ちなみに地のシナリオ(帝サイド)なので、翡翠の欠片が散ります。
世間的にはもっと喧々囂々とした元気な翡×幸が多いと思うんですが、うちの子達は吐くほどベッタベタな仕様です。ご了承ください。
[ 2008/09/01~2008/09/26 完結 ]




 
 
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[翡幸]想双歌 〜20〜

「さて。面倒事もこれで終わり。救われる謂われのない京も救えて、神子殿も守りきった。私の仕事はここまでだと思うのだが?」
 楽しげな翡翠の声で我に返る。
 ついにこの時が来た。
 なんと切り出したものかと口籠もる私を置いて、翡翠は迷いなく言を続ける。
「どうかね。私としては今すぐこのまま、君を伊予へと連れ去りたいところだが」
 まさに『私を連れて行け』と申し出ようとした刹那の言葉。出鼻を挫かれる形となり、しばらく間抜けにも口をパクパクさせたままで固まってしまう。
「い、今すぐなど出られるわけがないっ」
 ようやく発した言葉は‥‥さすがに我ながら、素直とは縁遠いものだ。
 ところが翡翠は気を悪くする素振りもなく上機嫌な笑顔を咲かせて、壮絶な色気を垂れ流しながら流し目をよこした。
「ほう。‥‥今すぐでなければ、応じる気があると」
 腹立たしい。
 なんとも、腹立たしい。
 そんな私の気持ちを汲んだかのように、神子殿が呑気な笑顔で腕を絡めてきた。
「幸鷹さんは、私と一緒に元の時空に帰るんですよね?」
 翡翠には背を向けて、悪戯な上目遣いでペロリと舌先を覗かせて‥‥。その愛らしい仕草のままで「どうします?」と首を傾げた。
 自然、笑顔になる。
「お連れ頂けるのですか?」
「もちろん幸鷹さんさえよければ、龍神様にお願いしてみますよ♪」
「っ、神子殿」
 さすがに慌てた顔の翡翠が愛おしい。
「なんですか〜、翡翠さん。だって幸鷹さんは元々、龍神様が無理な力で強制的に連れて来ちゃった『向こうの世界の人』でしょう。龍神様には応じる責任があると思うんですよね?」
「それは‥‥‥」
「神子殿、その辺で」
 これ以上は冗談にもなりませんから。
 それに、この問答を万が一にも龍神に聞かれて、選択の余地もなくここから消えることがあってはたまらない。
「翡翠。‥‥少し時間が欲しい」
「如何ほどの」
「仕事の引継と、実家‥‥‥両親への、挨拶を」
「‥‥幸鷹?」
 今すぐこのまま、というわけにはいかない。それは心の準備などという不確かなものではなく、もっと現実的な部分で。
 ‥‥本当に、飛び立つつもりで。
「大急ぎで片付けます。待っていては、くれませんか」
 実質的な了解のサイン。今になって、そんな当然のことを驚く翡翠に『私を信じていなかったのか』と嫌味の一つも零したい気持ちはあるとして。
 不似合いなほど手放しの笑顔が、あまりにも美しかったから。
 そんな翡翠に息を飲む仲間の、そして神子殿の反応が、とても楽しく思えたから。
 満足して笑う。
「先に向かっていても良いですよ」
「まさか。それでは幾年かかるものかとヤキモキしてしまいそうだよ」
「見くびられては困ります」
「ふふ‥‥‥いや、一刻が一月にも思えそうだと。ところで皆に聞かせてもよいものだったのかい?」
「今更でしょうね」
 かまわない。滅びるはずの都が救われたのだ。私一人の世迷い言など、砂塵のように消えて無くなるだろう。
 それに‥‥‥。
「いや、幸鷹殿の居場所を誰も知らぬ方が、問題がありましょう」
「そうだな。‥‥‥まぁ、知ってても困るような場所ではあるが‥‥」
「いーじゃねーか!こんなめでてぇ日に頭抱えてグチャグチャ云ってんじゃねーよ、勝真!」
「あのそれでは、幸鷹殿は今一度『伊予の国主』という形で旅立たれては如何でしょう。微力ながらお力になれるかと」
「ええ。その方が自然かと存じます‥‥」
「力が必要とならば呼べ」
「そーですねっ。私も京に残りますから、あっちの世界が恋しくなったら会いに行きます。沢山お喋りしましょう♪」
 どうやらここでは、それはそれということにして頂けるようですし。甘えてしまいましょう。

 紫姫の屋敷で催される宴は、やんわりと辞退して。
「さて、祝杯といこうか」
「‥‥せめて差し向かいになりたいものですが」
「それは聞けない相談だねぇ」
 背後霊よろしく背中に張り付いて離れない翡翠は、まるで子供のようだ。
「甘ったれるな。海賊の頭が聞いて呆れる」
「海賊は宝を抱いて眠るものだよ、別当殿」
「もう、別当などでは」
 急かされたせいばかりではない。決心の鈍らぬうちにと、検非違使の役を降りた。まだ内々の話ではあるが‥‥。
「国主の任は、受けるのかい?」
「どうだろうな」
 正直を云えば、またお前を追う立場になるのは気苦しい。
 だが、理不尽な国主を迎えて、伊予の国が歪むのも耐え難い。
「住み良い場所になればと思うのだが‥‥」
 生真面目に悩む私に「ならば君がやるしかないだろうねぇ」などと、のんびり笑う。
 やはり、そうなるのだろうな‥‥。
 海賊という言葉が悪いのならば、水軍として管理下に置けばよい。
 規律や規則で縛るのではなく、私が伊予に留まるために、彼らが自由に生きるために、目的を確認するだけでいい。そんな案を話せば、翡翠は「別当殿も変わったねぇ」などとからかうだろうが。
 どうあれ、穏やかな土地であればと願う。私が‥‥翡翠が、その場所に生きると決めたのなら。
「まぁ、難しい顔は、その辺にして」
「‥‥そうですね」
 私達は、独りで生きていくわけではないのだから。


 私をこの時空へと呼んだのは、翡翠かもしれない。

 誰もが『出逢うべき対』を待つものならば、それは貴方なのだと断言できる。
 だから時空を越えて、引力は働いたのではないかと。私はただ貴方に出逢うために、此処へと降り立ったのではないかと。

 それはきっと、遠い昔に交わした約束のように。
 この星に海が生まれた奇跡のように。

 悠久の誓いを綴るように。
 
 
 
 
 
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[翡幸]想双歌 〜19〜

「これはこれは‥‥‥さすがに厄介な敵だねぇ」
 怨霊と一口に言えど、無数の集合体ともなれば手に負えたものではない。
 うんざりとした気分になった時、幸鷹が楽しげに声を上げた。
「泣き言をいっている場合ではありませんよ、翡翠。この世に悪が栄えた例しはありません。正義は必ず勝つのですっ。ですね、神子殿!」
「幸鷹さんって、もしかして小さいころ戦隊モノとか好きな子でした?」
「そうですね。私の憧れはブルーの仮面の持ち主でした」
 会話の内容は、あとで解説してもらうとしても。
 すっかり憑き物が落ちた顔で笑う横顔を見つめながら、あの夜の言葉を思い出す。

『今は私達に与えられた使命を果たしましょう。全てを終えた時、道は示されるはずです』

 力強く笑った幸鷹からは悲痛な気配は感じられず、私はそれ以上の追求をやめた。
 君が信じる未来なら私も信じてみよう。
 これが酔狂ならば、生きることは全て喜劇のようなもの。後悔ならば、事の後ですればよい。今は、君の笑顔を。
 守る。
「さがりなさい。‥‥ッグ」
「翡翠っ!」
「どうということもないよ、さて次の攻撃を」
「すみません。借りはいつか返します」
「貸したつもりなどないさ。私には、勝たねばならない事情があるものでね」
 身勝手な事情で君を傷つけるわけにもいくまい?
 ニヤニヤと笑うと、私へと斬りつけた攻撃を幸鷹が薙ぎ払った。
「私にも私の事情がありますから」

 京の空を覆う魑魅魍魎。それを吸収しては力とする、百鬼夜行。
 目の前にあるそれを倒しても、新たに生じる怨念までは手が届かず、焦る。
「まだだ」
「もう一度行きましょう」
 声を重ねた時、神子殿が凛と立ち、空へと手をかざした。

「龍神を呼びます」

 神子殿を護る白龍の力。そして手渡された黒龍の加護。陰と陽を司るそれが、何かの象徴のように空へと舞い上がる。
「神子殿っ!」
 ふわりと舞うように、空の色に神子殿が霞む。
 捕らえることのできない刹那の出来事に、全身の血が煮える。

 幸鷹が、消えてしまったら。

 恥も臆面も無く、手を伸ばす。
 神子殿は龍神の許か、それとも役目を終えて元の世界に降り立ったのか。
 これで京が救われたというのならば、君は‥‥?

 私の腕の中で、幸鷹は静かに空を見上げている。
 腕に添えられた掌が、まるで焦る心をあやすように温かい。
「神子殿‥‥」
 震えるように呟いた視線を追えば、雲の中からゆうるりと天女が舞い降りる。

「えへっ。帰って来ちゃった♪」

 京の平和と加護は約束されたのだという。
 そして神子殿は。
「まだやり残したことがあるから、どうしても帰りたくなった時は空に向かってお祈りします!って云ってきました。龍神様は暫く沈黙してたけど、呆れてたのかな?」
 肩をすくめて笑った神子殿に、張りつめた空気は一気に弛んで和んでしまう。
 八葉の面々に小突き回される少女は、とても世界を救った方とは思えない程あどけない笑顔を見せたけれど。
 君の八葉でよかったと、心から思う。

「‥‥‥そろそろ私を解放しなさい」
 云うが早いか足を踏みつけて、軽やかに神子殿の元へと駆けだした幸鷹の背中は、とても幸せそうに見えた。
 
 
 
 
 
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[翡幸]想双歌 〜18〜

「つあ‥‥‥‥っ」
 神子殿と手を触れ合わせた刹那、燃えるような、凍てつくような、壮絶な感覚が体内に流れ込んできた。
 頭の中で黒い影が暴れる。
「あ、ああああああ‥‥‥」
 割れるような激しい痛みの中に浮かぶのは、懐かしい灯り。
 それは海を行く舟灯りのような幻想的なものではなく、どこか無機質で機械的な美しさを持つ‥‥そう、あれは街路樹を飾るイルミネーション。
 そして隣で手を取る、優しい存在。
『幸鷹』
 私を呼ぶ人の名前を思い出せない。いや、そもそも名前でなど呼んだ覚えがない。パパ。ママ。そう呼ぶことが多かったようにも思う。幼さのせいばかりでなく、それは習慣として。
 心配をかけただろうか。
 すっかり忘れ去っていたと知れば嘆くだろうか。
『いつでも君の幸せを祈っているよ‥‥』
 耳の奥に残る、口癖のようなそれ。
 まだ幼かった私が留学を決めた時も、動揺を見せることもなく背中を押してくれた声。
 その直後。
 突然に襲った、大地の軸がブレるような感覚。
 思えばあの瞬間に、この時空へと落とされたのだ。意図は解らない。意味など無いのかもしれない。右も左も解らぬ私を抱きしめてくれたのは‥‥。
『幸鷹っ』
 この身に降りかかった事件のトラウマに、毎夜泣き崩れた私を抱く、母の腕。
 どれほどの心配をかけたか。
 自分ではそれなりに現実を受け止めているつもりでいたが、理性で抑えが効くのは日のあるうちだけ。そうだ‥‥だから記憶を。私を苦しめる酷い事件の記憶を封じた‥‥京の父と母は、とにかく優しい人で、少しばかり心配性で。
『貴方がしたいようになさい。いつでも見守っているから』
 愛を疑うことなど無かった。
 まやかしの生い立ちを疑う余地もないほど、惜しみない愛情を注いでくれた人。

 痛みの中で目を開く。
 気遣わしげな神子殿の眼差しに、僅かに笑い返して、もう一度目を伏せる。

 そこに浮かぶのは鮮やかな海の色。
 異国の海を思わせる、エメラルドグリーンの湖面‥‥翡翠色の瞳。
 何を考えているのかは解らない。
 まるでこの世界へと運んだ神の御手のように、あれの言動は理解の範疇を越えている。
 だが、それでも。
 私は翡翠の全てを信じると決めたのだ。

 恩に報いたい気持ちがあるのならば、まずはこの京を救うことだろう。
 末法の世など、認めぬ。
 淀みない優しさが涙に変わるような世界を許してはいけない。
 神子殿が、その為に舞い降りたのならば、私の存在にも意味があるのだと信じよう。
 私は白虎に選ばれた、神子殿の守護者なのだから。

 夜分遅くに連れ出したことを詫びながら、神子殿を屋敷へと送り届けて、その足であの場所へと向かった。

 私を待つ、あの人の許へと。
 
 
 
 
 
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[翡幸]想双歌 〜17〜

 腕の中でとろける寝顔に、凶暴な欲が暴走をやめない。

 全身で答えを示した幸鷹に、これ以上の何を求めようというのか。
「‥‥‥‥胸が」
 どれだけ満たされても、それ以上に求めることをやめない胸が、明らかな痛みを覚える。
 苦しい。
 何も辛いことなどないというのに。
 これ以上に満たされることなど有り得るはずもないというのに。
「幸鷹‥‥早く‥‥」
 目を覚まして、私を抱いてくれないか。
 愛の痛みに胸を焦がす。そんな冗談のような逸話が現実のものとしてこの身に降りかかるとは、想像だにしていなかった。
 片恋の傷みより、すれ違う歯痒さより、想い合うこの時が苦しいなどと誰が想像するものか。私を想う幸鷹の傷みまで、あたかもこの心であるかのように胸を締め付けてくる、これほどに理不尽な痛みなど‥‥。


「翡翠。起きてください、翡翠‥‥っ」

 次の瞬間には、重たげな着物を整えた幸鷹がいた。
 腕の中が、寒い‥‥。
「行ってしまうのかい」
 グッタリと布団に倒れ込んで恨めしげに呟くのは、どこか計算も混じるのだろうと。期待通りに困り果てる幸鷹を眺めながら、他人事のように思う。
「決心が付いたのです。今一度、神子殿の御手に触れる決心が」
 君の決意は解る。
 それが避けられない流れなのだということも。
「っ‥‥‥翡翠?」
 これではまるで、ダダをこねる子供だ。
「離せ」
 だが、幸鷹。
 その後も私の許へ留まるという保証は?
「離し‥‥‥ん‥っ」

 君が消えれば、私は。

 白虎の試練は終えた。
 神子殿も暫くは他の四神との話もあり、忙しい御身なのだから。
「翡翠っ」
 消えないという君の言葉を信じないわけではないよ。
 ただ。
「足りない‥‥‥」
 君が足りない。
 呼吸さえままならないほど、君が欲しい。
「まったく‥‥お前は」
 僅かな言葉に全てを悟り、諦めたように笑う幸鷹を、眩しく思う。
 大人びた笑顔のまま無邪気に誘いかける吐息に甘えて、これでは君への呪縛は強くなるばかりだというのに。
「‥‥すまないね」
「いい。お前のワガママなら‥‥ン‥‥‥、翡翠‥っ」

 優しく抱きとめる腕に溺れて、空気を求めるように唇を奪う。
 執拗に。絡みつくように。
 くちゅりと隠微な水音が響けば、君の頬が染まる。
 常ならば一度に解いてしまうはずの着物を意図的に一枚残して、布地の上から戯れるように探ると、熱い溜息に隠すような声が届く。
「もどかしい‥‥‥」
 ぞくりとくるほど切ない響きで。
「‥‥今日は君から誘われたい気分なのだが、それは過ぎた望みというものかな」
 試すように呟いた先、暫しの時を止めたあと。
「そう、ですか」
 覚悟を決めたように頷いた。

 寝そべりながら背を抱く私の目前で、そろりそろりと開脚されていく様子は、怖ろしく情欲をそそる。
「この程度では許されませんか‥‥?」
「いや、充分だよ。‥‥触れても構わないかい」
 こくりと頷いた赤い頬に口付けながら、ほろりと零れた物を包みこむように揉みしだく。
「ん‥‥んっ‥‥」
「足りないようなら、胸を刺激してみては如何かな」
「私、が?」
「そう、君自身の指先で‥‥できるだろう?」
 躊躇うようにジッと指先を見つめた後で、そろそろと胸元へ滑りこむ動きを楽しむ。
 無理矢理に奪うのもいい。
 私の波で攫うような交わりをこそ、君は求めているのだから‥‥。
 しかし。
「自ら乱れることは怖ろしいかい?」
「怖ろしくなど‥っ、‥‥‥‥ッハン‥」
 言葉で煽られて動揺する君も、挑むように登り詰める君も、愛しくてたまらない。
 欲望を吐き出しながら涙目で振り向いて、不機嫌に縋りつく腕も。
 押しつけた胸の上で、さりさりと肌を擦る前髪も。
「怖ろしいわけではなく、ただ、もどかしいだけだっ。私が欲しいのは快楽ではなく、お前の熱なのだから!」
 新たな君を知るたび、切なさは上塗りされていくばかりで。
「君が望むだけ差し上げるよ。私は、その為に生きているのだから」

 いっそ二人で消えてしまえたらいいのにと思う。

 叶うなら、どこか遠く。
 神の御息すらも届かぬ場所へと‥‥。
 
 
 
 
 
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