差し込む朝日に混じる雨の音。
瞼の向こうに絡みつく視線を感じて、目覚めることを止めてしまう。
私の顔に何かついているのかい?
そうでないなら‥‥まるで、君は私を愛しているかのようだ。
幸せそうな含み笑いを噛み殺しながら、飽くことなく私を見つめている。優しげで甘やかな吐息を零しながら‥‥。
息をしているだけで幸せな気分だと言えば、君は笑うだろうか。
不意に、柔らかな感触が降りた。
まるで神聖な誓いのように、まんじりとも動かず押しつけられた唇に降参する。
やられたね。
「おはよう」
「起きましたか。そろそろ出仕の支度を‥‥‥っ?」
このまま帰れるなどと、本気で思うのだろうか。
おあつらえむきに朝日は翳り、雨足は増していく‥‥まるで君を足止めするように。
「別当殿も一日くらいは神隠しに遇うといい」
どうせ足腰も満足に動くまい?
乱れた足元の着物を割り、膝の裏から股尻までを一気に撫で上げる。
「翡翠、貴様‥‥っ」
それは胸ぐらを掴んでいるのか、胸元に甘えているのか。はたまた、私の着物を乱して‥‥誘っているのか。そう言えば顔を赤くして怒るのだろう。それが濡れ衣だとしても、図星を突いているのだとしても。
狡い人だね。
本気で拒絶するつもりなら、いくらでもやりようはあるだろうに。
どんな理由が欲しい?
「今日は雨だよ。人の往来も少ない」
「ならば河川の氾濫に気を配らねばなるまい」
面倒な人種だね‥‥。
「京の危機も治安の悪化も今に始まったことでなし、一日くらいは待っていてくれないものかねぇ」
「そんな悠長なことを言っている場合ではっ」
悠長か、ならば聞くが。
「‥‥‥‥いつから休んでいない?」
「は?」
「神子殿の世界では、五日や六日働けば一日くらいは休みを取るのが決まり事となっているらしいよ。私に言わせればそれでも働きすぎなくらいだが」
君のような仕事人間には、強制的な休日も不可欠だろう。
「何を」
「さて。いつ以来だい?」
予想通りでないことを祈るが、そうもいくまいね。
「物忌みの、時は‥‥‥」
「家で仕事をしていては同じことだよ」
言葉に詰まって沈黙する肩を押して、上から覆い被さるように口付けで縛り付ける。
「伊予以来‥‥かな?」
呟いた言葉に唇を尖らせる君を、少し憎らしく思う。
もういいよ。私のせいにしてしまいなさい。
確かに伊予にいたはずの君を思い出せない自分に腹も立つが。
「‥‥‥ふ、うぅ‥‥ぅっ」
戸惑う身体を強引に割り開けば、怖ず怖ずと絡みつく‥‥この腕の中の君を抱けるのは今だけ、この私だけならば。
すれ違う運命すらも愛おしい。
「幸鷹‥‥愛しているよ」
記憶を取り戻せば言えなくなりそうな言葉は全て、君に捧げてしまおう。
「‥ひ‥‥す、い‥‥?」
魂に、誓いを立てるように。