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[アク詩]ヒトジチLife 完結編

以前書いた【ヒトジチLife】の続きです。今回はエロがないので、期待してた人には土下座モノですが(笑)ひとまずあの二人をなんとかしてやらねばならんだろう!!と。



「詩紋くん!!」
 抱きついてきた白龍の神子は‥‥ボクの神子は、やっぱり揺るぎない瞳を失わずに、それがどれだけ無謀なことでも必ず叶える力を掲げて、ボクの手を取った。
「ただいま」
 蘭がいない。
 皆、それに触れない。天真先輩ですら‥‥。
 ボクと引き替えになったなんて、誰も口にしない。それが凄く悔しかったけど、それは紛れもなく『優しさ』なんだって知ってるから、何も言えやしない。

「アクラムを、倒しに行こう?」

 だったらボクが何も聞かないことが、ボクの意思表示になるだろう。
 知ってるから、隠さなくていい。
 面倒臭いことは抜きにして、結末を迎えたい。
 こんな茶番は、早く終わらせるんだ。
 ボクの意志をいち早く酌み取ったのは、他ならぬ天真先輩だった。
「ああ。その為に、お前を待ってたんだ」

 ここに来る途中で降り出した雨が、状況を教えてくれた。
 あかねちゃん達の仕事は終わり。
 アクラムが施した罠は全て解除されて、京には怨霊の姿すら無かった。片っ端から封印して回ったんだな‥‥って。やっぱりね。数の計算をすればすぐに解る。鬼の一族が勝てる道理は無いんだよ、はじめっから‥‥‥そんなの、あの人に解らないはずもないのに。
「ほんと、バカなんだから」
 空に投げた声は、雨音に吸い込まれるように消えていった。


 決戦当日。
 天真先輩の手を取ったあかねちゃんは、その隣にボクを据えた。
「頼りにしてるぜ?」
 苦しそうに笑う先輩は、ボクの本音を知ってる。


「元の世界に帰らないって、どういうこと!?」
 驚いた顔のあかねちゃんに、ボクがちょっと驚いた。
 もうすっかりバレてるんだと思ってたボクは、今の気持ちを説明する言葉を持ってなくて。一瞬迷って、つい反射的に救いを求めてしまった視線の先で、天真先輩が大人びた笑顔を作る。
 あ‥‥こんな顔、する人だったんだ‥‥。
「仕方ねぇだろ、コイツにはコイツの事情があるってことだよ。そんな風に追い込むな」
「追い込んで‥‥る、の?」
「だーかーら、まずは話を聞いてやれ。お前の後を付いてくるのがアタリマエってわけじゃねぇだろ?」
「そんなっ、風には‥‥思って、なかった‥‥けど‥」
 段々と小さくなる声が今にも泣き出しそうで、思わず抱きしめた。
「天真先輩、苛めちゃダメだよ」
 意志が強くて真っ直ぐ笑ってる太陽みたいな人。
 ボクがずっと憧れてた女の子は、時々こんな風に弱い顔をしてみせる。
 守ってあげなくちゃ。
 ずっと傍にいて、ボクが守ってあげなくちゃ。
 きっとボクもそんな風に思ってた。
 あかねちゃんと離れる日が来るなんて、そういえば考えたこともなかったよね。
 天真先輩は、そんなボクの気持ちも知ってる。

 損な役を引き受けて、それでも文句も言わないで付き合ってくれる瞳に見守られながら、ボクが見てきたことを‥‥感じたことを、ゆっくりと話して聞かせる。
 ボクは、あの人の傍にいたい。
 正しい力だけじゃ救えない存在も、きっとあるから。

 ねえ、アクラム。ボクは貴方の傍に行くよ?
 逃げないで‥‥受け止めてね。

「うん、頼りにしてて。絶対に勝つって、ボクが決めてるから」


「いやあああっ!」

 蘭の身体から黒龍の瘴気が噴き出した時、一つだけ解ってしまったことがある。
 蘭は‥‥‥ボクに、似てるのかもしれない。
 利用されるだけだと知っても、天真先輩を苦しめたくなくて悩んでも、それでもアクラムを一人にできなかった。もしかすると彼女が戻ってきたのも、そういう理由なんじゃないかって気がした。
 それを確かめる術は、今はないけど‥‥。
「蘭を利用するなんて許さないよっ」
 あかねちゃんはアクラムを睨みつけながら凛と前を向いてる。
 その声に大きく頷きながら、八葉としての役目を果たす。

 この力が貴方を傷つけることになるんだとしても。鬼の一族にとっての救いにはならないんだとしても。たとえ‥‥たとえ、貴方を失うことになるんだとしても。
 今は。
 貴方とボクの間にある壁を、全力で壊すんだ。

 絶対に負けない。

 それはボクの想いでもあるけど、天真先輩の、あかねちゃんの、八葉全員の意志だったんだと思う。
 光が生まれて、何かを包みこむように消えていく。
 あっちでも、こっちでも。
 まるでスローモーションみたいに弾ける目映い光の中で、フと目を上げると、目を閉じて立ち尽くす貴方が見えた。
 蘭の手を離して、誰をも寄せ付けず。
 こんな眩しい光の中で‥‥たった独り、立ち尽くす貴方の姿が。

 アクラム!

 叫んだ声が言葉になったのかは知らない。
 だけど、時空の狭間に消えようとする影に必死で手を伸ばした。
 これでいいんでしょう?
 もう、貴方の役目は終わったんでしょう?
 京には龍神の加護が。
 蘭には新たな未来が。
 きっとみんなが何かを手にして、時が流れ始める。

 アクラム!

 声の限りに叫ぶ。
 そこがどんな暗闇でも、ボクは怖くないよ。
 何もできなくていい。

 傍にいたい!

 ボクの手からすり抜けた影。
 それでもその場所に辿り着けると思ったボクは、いつの間にか大好きな天使の影響を受けていたのかな。

「追って‥‥‥来たのか‥‥」
 静かに呟いた声は、そんなに驚いてる風にも見えなかった。
「うん」
 鬼の結界の中。アクラム以外の誰にも開けられない扉のこっち側。
 辿り着けるって知ってた。
 だって、貴方は道を閉ざさないでしょう?
「馬鹿な奴だ」
 その言葉は、貴方が降参したって意味にとっていいかな。
「なんとでも言って?」
 疲れたように座り込んだ貴方を、包みこむように抱きしめてクスクス笑う。
「つかまえた♪」
 貴方の孤独はボクが貰っちゃうよ。もう二度と、返してあげない。
 ボクを捕らえても簡単に逃がしちゃう貴方になんか、もう身を任せたりしないから‥‥‥ね、ここから先は。

 ボクが貴方を捕まえて、離さないからね?

-END-