「そこに腰掛けなさい、鷹通」
優しげに命令をする友雅殿が指定した場所は、本来、腰をかけるべき場所ではなかった。
「机に……ですか?」
「そうだよ。早く」
行儀が悪いとは思ったが、渋々と腰を下ろす。
すると先程のように友雅殿は私の定位置に腰を下ろして、ジッと見上げてきた。
「…友雅…殿?」
何も言わず、腰に絡みついた腕。
膝の上に甘えるように預けてきた横顔が愛しくて、やわやわと髪を梳く。
しばらくうっとりと身を預けていた友雅殿が、するすると裾の中に忍び込んできた。
「まだ何もしていないのに、元気なものだね。……私の自由になることが嬉しいのかい。ふふ。どんなことを想像しているのやら」
言われて初めて、恥ずかしくなる。
このまま膝枕をしろと言われるかもしれないのに。私は……どんな淫らな要求をされるのかと、どこかで期待していたのだ。
恥ずかしくなって、赤く染まる顔を、背けた。
「いや、それでいいんだよ。君は正しい。……まさかこのまま眠らせてほしいなどと、そこまで弱りきったつもりはないからね、私は」
言いながら足首を掴んだ手が、それを机の端に誘導する。……気付けば仕事のためにあつらえた机の上に開脚をして、友雅殿の視界に全てを晒していた。
「こちらを見てごらん、鷹通」
怪しげな声に促されて手元を見れば、どこから出したのか、小さな姿見。そこに映るものが自分の秘所だと理解するまでに、殊の外時間がかかる。
「よく見ているんだよ?」
甘やかに囁きながら、指を唇で濡らして……そこへ…ずぶずぶと突き入れる。
「あ……そんな…っ」
目を反らせず見つめていると、音を立てて掻き回してきた。否定したいのに、あがる声は甘えきった響きしか持たず、情けない気持ちになる。
「これから君は此処に座るたびに、これを思い出して身悶えするのだろう?……想像するだけで、私も感じてしまう」
そうだ……。こんな場所で、こんな事をしている自分。
寝所の中や月夜の縁側で、友雅殿の面影を見て身悶えることはあったけれど…。
「そんな……酷い…」
これでは仕事になどならないではないか。
「酷い男なのだよ。……私は優しくなどない。いつでも君を惑わせたくて、いつでも君に思い出してほしくて、いろんな罠を探しているんだ。……ああ、君の此処は綺麗だね。先走りの露に濡れて、淫らに誘っているよ。よく見てごらん」
大袈裟ではない。それが事実なのだから、余計に質が悪い。
「いや………。もう、嫌です………降ろして…」
この先に続く切なさを想うと、絶望的な気分にさえなる。こんな所で貴方に抱かれてしまえば、この家に帰ることすら怖ろしくなるような気がして…。
「泣かせるつもりはなかったのだけどね。……鷹通、おいで。もういいから」
ふわりと身体が宙に浮いた。
目を見張れば、大の男である自分を、衣でも抱くように軽々と横抱きにして、友雅殿が笑っている。
「続きは、このまま行おう。泣かせたお詫びに、ずっと抱いていてあげるから……抵抗してはいけないよ?…鷹通」
足が地に着いていないというだけで、こんなに不安な心地になるものだろうか。思わずその首にしがみついた私を笑うこともなく、艶の増した声が耳元に囁いた。
「しっかり掴まっておいで」
そう言うと横抱きのまま腰掛け、胡座をかいて、その上に……私をつなぐ杭の上に、ゆっくりと降ろしていく。
「んああぁあっ」
背と足をしっかりと抱きかかえられたまま、結ぶ契り。
慌てて首にしがみついても、友雅殿が背を下ろせば何の意味もない。どうしたって重心はその一点にかかる。
姿勢を直すことも、僅かに反らすことも叶わぬ。当然いつもより深く突き刺された滾りは、どうにもならない場所をまっすぐに射抜く。
「あ、あ、あ、あああああっ」
軽々と抱き上げられて、また落とされて。
それが内側を擦る刺激だけで、ザワザワと全身が波打つというのに。貴方の短い吐息だけで、脳髄が灼かれるというのに。絡みつくその視線だけで、気が触れそうになるというのに。
こんなに奥に。掠めるだけでも意識が飛びそうな、その場所に…こんな……こんな……。
「ああ、や、いやぁっ」
涙が溢れてくる。
気持ちが良いなどとは到底思えない。これは、快楽の地獄だ。
「また泣くのかい?……泣くほどよいということかな」
視線を流す冷たい横顔を、睨みつける事しかできない。
「私が壊れてしまいます…っ」
驚くほど声が掠れていた。羞恥と快感で身体中に溢れた熱が、身の内側から焦がしているようだ。
深く貫いたまま一瞬動きが止まり、冷徹な声が降る。
「壊れちゃいなさい」
頭から冷水をかけられたようにその顔を見つめると、苛立たしげな視線が斜めに射抜いていた。
「乱れて狂って私のことだけを考えていればいいと……そう思う自分を止められないよ、鷹通。君から使命も思想も信念も全てを奪って、私の中に閉じこめてしまいたい。……そんな抜け殻のような君を、朝も昼も夜も飽くことなく抱きたい。まったく酔狂なことだ。どうあっても君がそんな風にはならないと知っているくせに」
最後は自嘲的に、呟くように告げられた……きっとそれも、貴方の真実なのだろう。
そんな風になれたら、いっそ、なりたいものだと……そしてこれは、私の真実。
「そのようには、なれませんが…」
首に回した手に力を込めながら、腰を回す。
「んはぁ…っ」
強い刺激に自滅しそうになる。
打ち捨てられるように腹に乗った塊が、涙のように何かを滴らせている。
「……鷹通?」
「今だけなら、狂い咲く自分を許しましょう。貴方の腕の中にある時のみ……私は、私を捨てましょう。……もっと…貴方を、ください。……友雅殿…」
突き上げられる激情に身を委ねながら、あられもない声で鳴く。
そんな浅ましい姿すら、貴方が望むのだから。
「ああっ、………く、……ん…っんあぁ」
隠すこともない。晒してしまえ。私がこんなに貴方を欲しがっているということも。悦んで腰を振る姿も。
「ぁ…ん………っ、んーっ」
弾けたものを胸で攫うように覆いながら、それでもまだ責め苦は続いた。
まわした腕に爪を食い込ませて、飛びそうになる意識を繋ぎ止める。
友雅殿から注ぎ込まれるものも感じていたが……一度も抜かれることはなく。繋がった部分が淫靡な水音を立てて、それを零していた。
大腿をさらう腕も背を抱く腕も、もう限界だろうと思うのに。友雅殿は私を抱きしめて離さない。何かに怯えるように。何かに抗うように。いつまでも力を込めたまま突き上げ続けた。
「ん……はぁん…」
意識があるのが不思議なくらい、長い長い時間だった。
さすがに身が持たないと降参していたのに、そっと床に降ろされて、それが抜かれた時……寂しいとすら、思ってしまう。いつまでも抱きしめていたいのに、首から外された腕は鉛のように重く、それは叶わない。
しばらくすると、向こうの部屋で私達を捜す声。
「もう……夕餉の時間なのですね…」
ここを見られても取り繕うことすらできないだろうと、隣に転がる人を見た。
「見つからないといいけどね」
悪戯な顔で笑うその人にとっては、どうでもよいことなのだろう。
「見つかっても構いませんよ」
主人の睦言を触れ回るような者は置いていない。
この屋敷の中で話題に上る程度なら、むしろこの先の手間が省けてよいだろう。
友雅殿は艶めいた視線で物言いたげに見つめた後、怠そうに着物を引き寄せて私にかぶせた。
「それは構わないけれど……君の身体は、独り占めしたいものだね」
ここまでしたくせに、まだ可愛い独占欲などを見せる貴方に、笑ってしまう。
「ならば隠しましょうか。ご主人様の仰るとおりに」
そして顔を見合わせて笑った後、どちらからともなく意識を手放した。
数刻後に目覚めた時も夜着は無く、なるほど書斎への出入りは控えるように言い含めていたと思い返す。どうやら淫らな『かくれんぼ』は成功したらしい。
碁盤のある部屋には、行方知れずの主人を気遣うように、軽い食事が二人分。気の利くことに布団も二組敷かれていたので、友雅殿を起こして、そちらへ移動して頂いた。
「随分と気が利いているね。主人の教育がいいのかい」
「いえ。私は必ず部屋に戻ると信頼されているのでしょう。フラフラと彷徨うような真似は、まず致しませんから」
「……言うね、鷹通」
別に誰と比較しているとも言ってはいないのですが。
「思う所があるのなら、居住まいを正したらよいのです」
ハッキリと申し上げると、不機嫌に口を尖らせて夜着の中から伸ばした腕で、私を引きずり込んだ。
「このまま姿を乱して、この家の者達にも鷹通がどんなに可愛い人間だか、教えてさしあげようか」
「お好きにどうぞ。どうあれ、貴方にそうされたのだと、それを疑う者もありますまい」
「生意気な口だな……」
言うなり噛みつくように唇を奪われ、いつの間にか立ち上がったもので前置きなく腰を貫かれた。
「…んあっ」
先程の激しさとは違い、ねっとりと絡みつくような動きをする。
「本当に……まだ、なさるのですか」
一眠りして回復してしまったらしい強者が、呆れるほど楽しげな笑みを浮かべる。
「まだ宵の口じゃないか。……夜はこれからだよ、可愛い鷹通。私の我が侭を聞いてくれるのだろう?」
「………身が持ちません」
私を殺す気なのだろうか、この方は。
「若いのに、体力が足りないな。……鍛えてあげよう」
「結構です…」
『今日一日は君を好きにさせてくれるかい』
これからは『日のあるうちだけ』という条件をつけよう…。
そんなことを心に誓いながら、それでも、もう二度とご免だとは思わない自分に呆れていた。
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エロエロだわ、ゲロ甘だわ・・・。さすがに書いてて胃凭れしました。友雅がドンドン鬼畜になるし、だけど鷹通が泣けばゲロ甘大魔神になるし。鷹通は際限なくエロくなるし、とにかく友雅が望めば許しちゃうし。だー、もうーぅ(脱力)何書いてんだー、私ーー(自滅) |