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[頼友]情人

「あ‥‥‥あ、頼久、そんな」
 ねじ伏せられて、喘ぐのは‥‥決して屈辱からではない。
「お好きなのでしょう。無理にされるのが」
「あぐっ‥‥、ン‥‥ッ」
「友雅」
 ゾクンと背筋に何かが走る。
 ただ、名を呼び捨てられた‥‥それだけなのに。
「こんなに罪な身体で、男をくわえ込んで」
「ひあっ」
「喘いでいるなんて‥‥‥そうでしょう、友雅殿」
「あ‥‥‥」
 名を、呼んで。
「どうしましたか。よもや、一介の武士などに呼び捨てられて感じ入るなどと、そんな不埒な事を仰るのでしょうか。‥‥友雅殿?」
 縋るわけにはいかない。そんな女々しい私では、君の執着はすぐに薄れてしまうだろう。
「こんな時くらい、煩わしい身分など忘れさせてほしいものだ」
 故意に、吐き捨てるように告げる。君に価値など求めぬと告げるように。
「過当な期待だったかい?」
 君が私を求めるのは、私が決して堕ちぬ華であるからだ。
 他に価値など‥‥何一つ有りはしない。
「いえ、お望みのままに。‥‥友雅」
 欲心に艶を増す声色。
「今の貴方は、ただの情人ですゆえ」
 貴族である私を、組み敷く。それが君の悦楽を煽るのだから。
 私は気高い私のまま、君に膝を屈する。
「腰を上げていただけますか。この手に届くように、高く」
 これは倒錯した遊び。
「これでいいかい、頼久‥‥」
 早く、触れて。
「ええ。私を望む場所が、よく見えます‥‥貴方は欲深い人だから、ほらこんなにヒクついて」
「あ、う」
 満たして。
「どうなさいましたか」
「ん‥‥あまり焦らすものではないよ。酷い男だね」
「そんな私を望むのはどなたでしょうか。酷くされて‥‥感じている癖に」
「はあぁっ」
 熱い舌に舐め取られて、堪えきれず背が踊る。
 いけない。
 そんな温く心地よい刺激は毒にしかならない。
「やあっ‥‥早く」
 頼久、頼久‥‥どうか何も聞かずに私を奪い去ってくれないか。気を抜けば君ばかり求めているこの心を暴かずに、どうか‥‥。
 私は同情でなく、君の情熱に抱かれていたいのだよ。
「急かさずとも捧げましょう。力をお抜きなさい、‥‥友雅」

「うわ‥‥ぁ、あ、ああ」
 押し広げるように、君の質量が割り込んでくる。
「‥‥ア‥‥無理‥」
「無理なことはありません。貪欲に飲み込んでいらっしゃいます」
 幾度こなしても慣れぬ、強烈な異物感。
 それが君であるということが、唯一の意味なのだ。
「よりひさ‥‥ぁっ」
 どれほど執着しても、決して得ることのできぬもの。
「頼久、頼久‥」
 命という儚いものに何か意味や価値があるのだとしたら、それは。
 この温もりに、他ならない。

「友雅」

 熱く濡れた声が、この名を呼ぶ。
 立場も身分も言葉も、いっそ現の世界全てが無意味なものと思えるまで。
「頼久‥‥‥」
 君に抱かれていたい。

 このまま君に溺れてしまえたなら。
「あっ、あ‥‥‥もっと、深く‥‥っ」
 無意味な日常など全て捨てて、君の下僕に成り下がることができるのなら。
「お望みのままに」
「っつあ‥‥っ」
 もう何も、望みはしないのに。
「私に捧げられるものならば、この身の全てなりとも」
「‥‥‥っ」
 それを君が許すことはないけれど。
 せめて。
「ん‥‥君を、注いでくれるかい」
「御意」
 引きつるように反らした背で君に甘えて。

 意識を手放した。