情熱とは、何処にあるのか。
愛とは、どんな色なのか。
生まれ落ちた意味。この身が朽ちぬ理由。虚しい心の理由。
全ての答えが、此処にあった。
もう生きる意味もないほど、全ての答えに手が届いた。
まずは確実な方から。
そういって、神子殿の助言通り、鷹通のカケラが戻ってきた場所を今一度訪ねる。
急に静かになり、覚悟を決めたように目を閉じた鷹通を見守るが、鉄の意志で閉ざした表情を読みとることは不可能だった。
今までのカケラとは違うようだ。
動揺して、助けを求めるように向けられた視線を思い出す。
忘れるべきではないことを思い出すのだから、確かに心地良いものではないのだが…。
半刻ほども立ち尽くしていただろうか。
躊躇いがちに開いた視線がスルリと音を立てるように絡みつき、心の臓を掴んだ。
奥深い沢の水のような緑の湖面が、静かに見つめている。
「戻ってきたのかい?」
念のために問うてみると、何かを押しとどめるように利き手を抱いて、掠れた声で応えた。
「長らくお待たせいたしました。……全てが済んだら、事情をお話しいたします。友雅殿の場所へ、参りましょう」
事情を話す?
冷静な鷹通を、こんなにも乱れさせる傷み。……聞いて良いものなのかと、おののく気持ちもあるが、好奇心が遙かに勝って先を急いだ。
自分のカケラなど、たいしたこともあるまい。
鷹通は、何を思い出したのか。
印象がガラリと変わるような熱っぽい視線と、情欲に灼かれた声。まるで発情期の牡のようなソレを暴きたい欲望に駆られて、身を捩る。早足で向かう私を咎めることもなく黙々と後を追う鷹通の、跳ねた息づかいに欲情している自分を感じていた。
発情期の牡は、私の方か……?
こんな事情でもなければ、振り向いて口づけて、髪を梳きながら…。
次々と浮かぶ煩悩に、頭痛を覚える。
私はとうとうオカシクなってしまったのか。
しゃくなげの色が見えた。
気付けば鷹通は、しっかりと私の手を握りしめて、隣に立つ。
他人に触れるのが苦手だと聞いていた。だから一度も触れていなかったはずの……。
バクン、と、心臓が跳ねる。
あまりの質量に失神するのではないかと危ぶむほど。
……これは、カケラではなく……心そのものなのではないか…?
耳鳴りが大きすぎて、何も聞こえない。
痙攣をしたかのように身体が震えて膝を落とそうとすると、何か、大きなものに包み込まれるように、強く支えられた。
奥歯を噛みしめて僅かに目を開けば、慈愛にも似た視線が降り注ぐ。
ああ……。
「君だったのかい」
スゥと波が引くように震えが止まり耳鳴りの消えた今、世界が閉ざされたような静けさの中に、鷹通だけがいた。
「友…雅殿…」
涙を流さない方が、不自然なのだ。
忘れていたことに対する罪悪感も、それを奪った敵に対する憎しみも、何もない。
ただ、この男の傍に在ることを…生まれ落ちたという幸運を、感謝した。
「鷹通…。…逢いたかった…」
生まれ落ちた時からずっと、君に逢いたかった。
逢えずに終われば、何度でも君に逢うために生まれてきた。
情熱を忘れていたわけではない。
君に向かわぬ情熱は、何も意味がなかったというだけの。
それだけの、ことなのだ。
深く、深く、深く。
忘却の彼方で、しかし、とどまることなく育ち続けた想い。
「友雅殿……私の、最後のカケラは…」
その唇を深く奪ってから、耳元で叱る。
「言うのかい。……無粋な男だな」
困ったような視線を消すために、目蓋に接吻を落として、抱きしめた。
「愛している……いや、そんな言葉では足りないな。…君の存在が、私の心そのものなのだよ、鷹通。……君が、全てだ。…わかるかい?」
わからなくともいい。
言葉で想いの全てを伝えられる筈などないのだから。
「鷹通」
それならばいっそ、その名を呼ぶ、響きだけで…。
「鷹通。………鷹通」
伝わったのか、熱に浮かされたように胸苦しい溜息をつきながら、もどかしい視線が絡みついた。
「友雅殿…っ」
感極まって瞳を濡らす涙を見て、少しばかり正気が戻る。
こんな場所で、これ以上どうするつもりだったのか。
「君に覚悟があるのならば、闇に紛れて忍んでおいで。…朝まで待っている」
小説TOP ≪ 07 || 目次 || 09
そんなわけでアリエナイ設定を突っ走っております。神子無しでカケラ探し(笑)今だけ特別にお許し下さい。しかも過激なことに?鷹通は半刻(1時間もっ)立ち尽くしてます。黙って付き合う友雅も凄い。しゃくなげは、夏(ゲーム後半)に咲く花。あんまり殺風景な場所で告白もアレですからね(どーせ見てないだろうけど) |