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【酔恋譚】 ~Suirentan-20~

 身体をめぐる甘い血は、君と交わり恋に酔う。
 綺麗なままでは恋と呼べず。しかしどこまで落ちても輝きを失わず。

 光と闇を抱いて回る星のように。
 生と死を抱いて巡る魂のように。
 大きな流れに翻弄されるばかりの想い。…漂う波に浮かぶ小舟のような、儚い恋。

 儚くともよい。
 どうか君を失う時は、私の心も共にありますよう。

 儚くとも……この心が、永久のものでありますよう。



 雨が降る。これは玄武が無事に戻り、京を守らんとする四神が戻った証。
 しかし風は今も淀んだまま、京は未だ穢れを抱いたまま、鬼との全面対決は明日に持ち越された。
 これが終われば…………さて、どうなるのか。
 表面上の平和が戻り、悪しき鬼の消えた京には、きっと新たな悪役が必要となるだろう。
 新たな生贄が、不可欠となるだろう。
 慈愛の心で空気を回し続ける彼女が…神子殿が居なくなる。
 それに気付いて恐怖するのは、私の杞憂であってほしいものだと、心から願う。

 鬼との戦いは呆気ないほどの幕切れを迎えた。
 天命はどちらにあるかなどと、それこそ愚問だと言わざるを得ない。
 あの女鬼がしゃしゃり出てきた時も、心は白けたままだった。
「お館様を助けて!……殺さないで…」
 お呼びでないよ。この世界も、そこにいる鬼の頭も、誰もお前を呼んではいない。
 否。それを理解した上で、それでも飛び出してきたのだろう。
 無様であれ、美しく引いてしまえない。愚かしくとも、どうしても失えない者なのだと……その心は理解できる。理解できてしまう自分を虚ろに思うことも、もうなかった。
 人を愛した時点で捨てねばならぬものは、確かに存在する。
 皆が自分の胸に手を当てるように、その女を見つめた時、それは起こった。

「いやぁっ、やめて。そんなものは呼びたくない!……もう誰も傷つけたくないのに……っ」

 拐かされ操られた、悲しい少女の叫び。
 願わずとも黒龍に支配されてしまった身から、人を食らう闇の霧が溢れ出た。
 これは……!?
 八葉へと、守るべき者の元へと、穢れを振りまく黒い霧。
 息苦しく不快な闇。
 唐突に襲った事態に焦りながら鷹通を振り返れば、同じ気持ちで此方へ向かう視線が在った。
 失いたくない。失うわけにはいかない。
 必死で抗う力は、あまりにも無力で。無力で……絶望に取り憑かれそうになる。
「みんな……っ」
 空気を切り裂くような声。
 振り返れば、仁王立ちの神子殿が全身で見つめていた。
「神子、お前は、かならず私が守る…っ。……おとなしくしていろ」
 おやおや、泰明殿。勇ましいことを言ってくれるじゃないか。
 この追い詰められた状況下、余所では決して見られないものを見て楽しくなってしまう。
 これだから人生はやめられない。
 神子殿はその顔を驚いたように見つめてから、とても場違いなほど……花が開くように、ふわりと笑った。
「おまかせしますね」
 その緊張感とは無縁の笑顔に唖然としながらも、何故か心を押されるような心地になる。
「皆、神子のために、力を集めろ」
 珍しく号令なぞをかける泰明殿の声も、一寸の迷いもなく澄み切っていた。
 鬼の術に惑うことなく、黒龍の瘴気にも怯えることなく。八葉の力を集めた閃光の中、神子殿はその元凶へと向かい悠然と走り出した。
 黒い影を抱きしめる慈愛の腕。
 神子殿の中から溢れ出した白光が、黒龍を伴って天へと昇ってゆく。
 地上の瘴気は八葉の手に。
 天上の黒雲は龍神の御身に。
 そして全てが晴れ渡り、光に満たされた。

「まったく、無茶をする。……君には恐怖というものはないのかい」
 蘭の首に巻き付いたまま地面に腰を下ろした神子殿を見つめる。
「怖かったぁ~。すっごく怖かった~……けど、怖くなかったぁ」
 どっちなんだい。
「友雅さんにも恐怖なんかあるんですか」
 君の目に、私はどう映っているものか…。
「………少し、ね」
 君を、仲間を、……鷹通を、失うと思えば、恐怖しない方が嘘だろう。
「神子、大事ないか」
「泰明さんっ」
 瑞々しいほどの笑顔を弾けさせた神子殿を見て、得心する。
 彼を……信じていたから、か。
「お前は、本当に無茶をする……しかし、無事でよかった…」
 人目も憚らずに涙を落とす横顔に驚いて立ち尽くすと、いつの間にか隣に在った鷹通が、温かな溜息をついた。
「泰明殿は本当にお変わりになったと思いませんか」
「そうだね……恋というものは、かくも怖ろしきかな」
「茶化さないでください」
「茶化してなどいないさ」
 私も君も、それまでの己を失うほどに変わってしまった。それが良いことなのか悪いことなのかは解らないが…。
「泰明さぁん、泣かないでくださいよ。…だって、絶対に大丈夫だったんです。泰明さんが守ってくれるって言ったんですよ?絶対に守ってくれるって……もう、これでダメでもいいじゃないですか。間違って死んだって、貴方となら、もういいやって思ったんです」
「しかし……帰るのだろう?」
 静かな涙が空気を支配した。
 泰明殿に限らず、それは私達全員の想いでもある。
 戦いが終わったのだ。君は帰ってしまうのだろう?……月の姫君。
「帰りません」
 あっさりとした答えに、また固まる。
 何を言っている……?
 思わず鷹通と顔を合わせて、その驚く顔に今のが幻聴ではないことを知る。
「………神子?」
「帰りたいけど、帰ったら帰ってこれないでしょ?……私は泰明さんと生きたい。だから帰りません。それじゃダメですか」
 憮然と言い切る神子殿に、何も言わない泰明殿の腕が回った。
 茶化す気にも、なれやしない。
 小さな声でその名を呼び続ける姿に、少し胸が痛む。
「名前しか……出てきませんよね。あんな時」
 鷹通がボソリと代弁してくれたので、本当に何を言う必要もない。
 あんな時。
 もう、愛しくて愛しくて愛しくて崩れそうな時……言葉などで表せる気持ちなど、幾らもない。
「これ以上見守るのも、無粋だとは思わないかい」
 あとの処理は藤姫達に押し付けてしまおう。
 すっかり治まった頃、甘い菓子など手土産に、許しを乞うとして。
「そうですね……きっと青竹が、雨に打たれて待ち侘びております」
 悪戯な顔で笑った恋人の手を取って、そっと歩き出す。

 おぼろ月の花庭。
 月光の竹林。
 蛍。紅葉。夕焼け。虫の音。白雪。朝日。桃の蕾。若葉。雨。蝶。

 美しいものは数あれど、心が閉じていては虚ろなものとなる。
 しかし、そこに君の影があるのなら。
 世界はどこまでも鮮やかな色彩を放ち続けるのだろう。
「鷹通」
「なんでしょうか」
「……鷹通」
 意味もなく、その名を呼びたくなる。
 私は美しいものが好きなのだよ。君のその心のように。
「友雅殿……?」
 懐かしくも優しくもある、ただ美しいものが。
「いや、なんでもないよ。……君の手は温かいね、鷹通」
 それを美しいと想う、この心の熱を、情熱と呼ぼう。

 この心の熱を、恋と呼ぼう。
 
 
 
 
 
 
 
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あ~~~、はいはい。
エロは恋綴りの方で書くから、泣くな譲葉(笑)

あとはもう、山ナシ落ちナシ意味ナシで、ひたすらエロエロでいいですから(笑)とりあえずストーリーとして完結するよ!!という流れになっております。
ラストの戦闘シーンは端折ったけど、神子と泰明の辺りは削るのが大変だったから、そのまま垂れ流しました。友×鷹じゃなかったのかよ!とのお怒りの声は聞こえております。ええ、もう(号泣)アタシが一番そー思ってますからっっ。うわーん。