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【酔恋譚】 ~Suirentan-12~

 泣かせたいわけではない。……泣き顔は可愛い。
 傷つけたいわけではない。……切り刻んでやりたい。
 壊したいわけではない。……跪かせてみたい。

 相反する叫び声が心を揺らす。
 ただ大切にしたいのならば、こんなことをしなければいい。鷹通が望んでいるものは、もっと穏やかな愛なのだから。
 抱きしめて。戯れのキスをして。温もりを分け合う。
 それでいいはずなのに。本当なら、それだけでいいはずなのに。

 君を傷つける者の、息の根を止めたい。



 たまらない。
 本当に殺してやろうかと思うほど、可愛い。
 何も知らないくせに、まるで世慣れた情人を思わせる落ち着き払った態度が、小憎たらしくて益々良い。
 自己を失うことにすら、捨て身な君。
 快楽に溺れても、汚れても、それが私とのものであるなら良いという。

 口惜しいほど、愛しさは増すばかりだ。

「何故…………泣くのですか」
「泣いてなどいないよ」
 鷹通の舌が頬を伝う。
 何かを絡め取って、喉を下す。
「友雅殿。私は何故か、とても幸せな気持ちなのです。誰も見ることの叶わないであろう貴方を、こんなにも近くに感じている。たった今、世界で誰より貴方の傍にいるのは、私なのです」
 唐突な告白の後、鷹通から唇を合わせてきた。
 自分の熱を解放する術も知らぬ男が、たどたどしく、真剣に、ただひたすらに、この身を求めている。
「ああ。……私も幸せなのだよ、鷹通。愛しくて泣けてしまう」
 そのまま喉元に降りた唇を好きにさせておくと、強く吸い付いて、痕を残した。
 着物から出る場所につけるものではないよ。
 少し可笑しかったが、それもいい。
 まさか誰も、この不器用な男が付けた痕とは気付かぬだろう。

 痕を増やしながら下へと向かう唇が、胸に辿り着いた。
 止めもせず、ぼんやりと見つめていると、一瞬の戸惑いを越えて、深く口づけるように舌で絡め取られる。
 強い快感に眉をひそめて溜息をつくと。
「友雅殿………声を、聴かせてくださいませんか」
 熱に浮かされたような瞳が、ジッと見上げた。
「ああ……そうだね…」
 笑ってしまう。
 相手を泣かせることばかりに慣れて、快感を与えられることには不慣れな自分。
 手慣れた女がみせる小手先の技術では、何も感じないくせに。
「は、…ぁ……あぁ…っ」
 鷹通から与えられる不器用な刺激に、過敏なまで反応する。
 幼い者のように、悶えてしまう。
 唇と指先に責められて腰を浮かすと、先程教えた場所を、そっと口に含んだ。
「ふっ……。…ぅあ……たか、みち…」
 裸身を惜しげもなく晒して絡みつく姿は、とても刺激的だ。
 しゃぶりつく唇から唾液を滴らせて、どう動いていいのか解らないといったように眉を寄せる。このままでも充分に感じるのだが、最後まで教えると言ってしまったのだから、知りたがっている答えを与えてしまおうか。
「しっかりくわえて……歯を立てないでおくれ」
 そのまま頭を抱え込み、前後に揺さぶる。
「あぁ……、……すごい、よ…」
 手を離しても動き続ける鷹通に、身をゆだねた。
 離れる時に吸い付く感覚も、近づく時に絡まる舌も、全てが良い。
 知らぬだけだ。
 子供ではないから、すぐに意味を悟る。
 込み上げてくるものを教えた方がいいかと思うが、夢中になっている所を邪魔するのもなんだしね……少し意地の悪い気分で、黙っていることにした。
 何かを感じて口を離した鷹通に、白い物が飛びかかる。
 二度、三度。
 驚いて逃げるかと思ったところで、スッと……暴走するものを口へ運んだ。
 細い喉が、それを飲み下して動く。飛び散った欲望が、頬を伝う。
「なんとも………よい光景だね」
 放心して呟くと、無邪気な笑顔で抱きついてきた。
「友雅殿。…困ります。これ以上は無理だというのに、貴方をもっと好きになってしまう。…友雅殿…友雅殿」

 まるで、免罪符のような、愛だ。

 傷つけてもいいだろうか。
 私という傷を、君の奥深くに埋め込んでも……泣かせても、壊しても、いいのだろうか。
 もう、とまらない。
 鷹通をそっと床に押し付けて、その肌を滑る。
「ああっ、とも……さ、どの…ぉ…」
 熱に浮かされて上がる顎を吸い、嬉しそうに身をよじる腰を噛み、柔らかく締まった膨らみをそっと返して俯せる。
 膝立ちになって引き寄せると、素直に高々と上がる腰。
 手元にあった油を垂らして撫で回すと、未知の感覚に不安を覚えるのか、手元の夜着を引き寄せて顔を埋めた。
 すまない。
 ……もう、とまれない。
 ゆっくりと指を進めると、異物感に喘ぎながら涙を零す。
 中を和らげていけば、苦しさに色が混じり……混乱するのか、夜着に顔を擦りつけながら、いやいやと首を振った。
「と…まさ、…の……あ、や…、やぁあっ……ぁんっ」
 新雪を踏みしめる。
 白雪を、その血で…汚してしまう。
「すまない……鷹通」
 この男は、愛しすぎていけない。

 まだキツイ場所に、押し付けて、貫く。

「…………っっっっ……」
「鷹通。声を上げていい。息を止めないで」
「ぁぐっ……あああああああああああっ」

 前後のはずみを利用しながら少しずつ進めていくと、いつか根本まで辿り着いた。
 壮絶な感覚に歯を噛みしめたまま、背を抱く。
「はっ、はっ、あ、はっ、ぁあっ」
 鷹通の短い呼吸に声が混じって、その苦しさを知らせているのに。
 その中身の熱さに、私の腰は溶けるばかりだ。

「鷹通……。可愛いよ。私の愛しい人…」
 
 
 
 
 
 
 
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→イラスト【不器用な愛】 →イラスト【飢餓】 →イラスト【新雪】
きゃあ。イラストが3枚もついてるっ。さすが、こういう場面になると力の入り方が(ゲフッ)というか、私も物凄いスピードで書きましたから(切腹)そりゃもう、この話が始まった時に2人でやたらと盛り上がったのは「エロのない腐女子なんて!!」という話なのですから。ホホホ。だからあっさり終われません。ガンバレ鷹通。