溶け合うことも、混ざり合うこともできぬ、この身体。
それでもいい。二人のままでいい。
ずっと、貴方に抱かれて……貴方を、この胸に抱いていこう。
苦しくとも、怖ろしくとも。
貴方の前に在るための傷みなら、全て受けたい。
貴方を愛する傷みならば。
自我を叩き壊す快楽より、痛みの方が楽に感じる程だ。
痛みは無視してしまうことが出来るけれど。
どうしても無かったことにならぬのは、その怖ろしい程の圧迫感。
……苦しい。
息を吸うのも吐くのも難しいほどに、ただ苦しい。
浅い呼吸を繰り返し、冷や汗のつたう背に、友雅殿の体温を感じた。
「私の愛しい人……」
紡がれる言葉の重みも、今ならば信じられる。
何事もなく過ごしていたら一生気付くこともなかったであろう、その言葉に乗せられた、友雅殿の心。
最後に戻ってきた心のカケラ。
私のことだけが詰まったそれを取り戻した時の、友雅殿の嵐。
三十余年も生きてきた貴方が、今、手にしている心。……それが私であるなら。
「友雅殿………私を、……貴方だけの、ものに………して…くださ……ぃ…」
もう、何も疑わないと決めたのだ。
私の心が貴方への想いで溢れてしまうように、貴方の中には私がいる。
どんな姿を見られても構わない。
どんな貴方を見ても惑わない。
痛みも苦しみも羞恥も絶望も虚無も、私を支配できない。
私を征服できるのは、橘友雅という唯一の存在だけなのだから。
「んあっ、あ、あっ、…ぅん…」
動きはじめた物に擦られて、痛みは熱さに、そして痺れに。あの、私をさらう感覚に。
いつの間にか、すりかわる。
苦しいばかりだった圧迫感は、狂おしいほどの充足感へと。
「あぐ…ぅ、…く……ああっ、んはぁっ」
突き上げる熱に、髪の先まで、余す所無く乱されていく。
いっそ痛みの方がマシだというのに。
「あ、ああっ……んぁあんっ」
もう、吠えることしか、できない。
「鷹通…、君の声…好き……」
切れ切れに降る友雅殿の声を聴くと、腹の底が熱くなる。
友雅殿に弄ばれた熱の塊を、自分でさすりたいような感覚に襲われて、必死で首を振った。
それはいけない。浅ましすぎる。あまりにも恥ずかしいことだ。
まだ残っていたらしい理性の切れ端が、耳の奥で叫ぶのに。
「はぁあ……っ」
自分の重みを肩で支えながら、手を伸ばしてしまった。
友雅殿のそれに触れた時も、その声を…その呼吸の乱れを感じた時も、熱く固くなっていた。
ほろ苦い滾り……貴方の限界を、受けた時も。
「ああ…っ」
「自分でしているのかい。……可愛い。…鷹通……一緒にいこう」
可愛いという言葉が、私を揶揄する響きでないことも教えてもらった。
あの時の貴方は、本当に可愛くて。
可愛くて、たまらなかった。
「はぁあ………ああ、ん……」
突き上げる熱に支配されて、…手の中に自分がいて。
宙を舞うような心地だった。
「んあああっ」
「鷹通…っ」
身体を支えるために床を押していた腕が、私の身体をさらう。
もつれるように転がりながら強く貴方の腕を抱く。
荒い息を合わせるように唇を重ねて、視線を絡め合った。
溶け合うように……貴方だけを。
ただ、貴方だけを、みつめていた。
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なんか書き始めた時は、私の中の鷹通ってもう少し『食えない男』だったはずなのに、すっかり『可愛い奴』で定着してしまいました。だけど鷹通からは友雅も可愛く見えてるみたいだし。失敗せず甘々な関係に辿り着けた様子なので、結果オーライということで。私もようやく息がつけます。ふぅ~。 |