また長い冬が来る。
 小舟から腕を伸ばして浸した塩辛い水に、秋風にすら弱くなる心を任せる。
 君のいない。ただそれだけで凍てつきそうな私の心を埋めるように、深々と降り積もる雪。ならば心も、固く凍えてしまえばよいものを‥‥‥‥‥‥。
 バカらしい。
 冬の訪れに震える姿など、誰に見せるわけもない。
 心を乱すものなど何もなかった。それは執着に値するものを知らぬ、恥ずべき無知だと知りつつも。
 鬱陶しい。
 餓鬼のように金や名誉を欲する輩となることも。
 面倒臭い。
 それを嫉んで羨んで自由を手放す民に似ることも。
 どこまでも私は私で。
 それを逃避とされたとしても、聞かぬ振りで自由を掲げて。
「貴方は逃げているだけだ。それだけの力を持ちながら!」
 真っ向から痛いことを言う子供を、なぜ眩しいと思ったか。
 それはもう、遠い潮騒の向こう。
「貴方が貴方を貫くのなら、きっとまた逢えるでしょう。その時はきっと、貴方を捕らえて見せましょう」
 去りゆく背中に‥‥‥愛しさを感じたのは。
 遠い潮騒の。
そして私は独り、海原へ。
 月日は過ぎ去り幾度の冬が巡ろうと、君にまみえること叶わず。
 自由に縋りついた両手は、想いの糸に絡め取られ。
「君を失う自由は、私の性には合わない‥‥‥」
 呟いた己の言葉に噴き出して。
 零れた本音に。
 私を捨てた君に。
 この身を形作る全ての事柄に、笑いが止まらなくて。
ふらり、京へ。
 それは賭け。
 君が私を忘れていれば‥‥私への執着という可笑しい熱を忘れていたなら、私は自由を手に入れる。既に失った物になど興味はないからね。
 だがしかし、君が‥‥‥私を‥‥。
 いや、その時は、君ごと攫って勝ちをいただく。
 それだけのことだ。