幸鷹はツンデレかもしれないけど、つれない態度を取る自分を正当化できていないと好きかな。もっと優しくしたいんだけど、つい冷たい態度を取ってしまう自分が歯痒い、とか。
翡翠は、そんな幸鷹の「しまった、言い過ぎた」みたいな心も解った上で、拗ねたり許したりしてるんじゃないかと。
柔らかい光の中、肌に夜風が落ちた。
「そういうことか」
少しガッカリとした気分で、恋人の暴挙を受け入れる。
誰が通りかかる場所でもなし、拒む理由もないが‥‥「蛍を見に行こう」などと、お前にしては珍しく情緒のある誘いだと思ったのに。花見だ月見だとくりだしては、何も見ずに酒を浴びる人種と同じかと思えば、興醒めは仕方のない。
「そうだよ、いつだって私の願いは君を手に入れることでしかない。‥‥だが、君には見えるだろう。君の視界を綺麗なもので覆いたかった。それでは理由にならないかい?」
言われて初めて、空を見る。
草むらに戯れる私達をからかうように、ふわりと灯り、ふわりと消える、柔らかな光。夢中で私を屠るお前には見えていない、奇跡のような光景。
‥‥‥ハ‥‥ッ。
脅かさぬよう声を殺して身を捩れば、傍の草に降りた光が、ふうわりと飛び立つ。そして翡翠の髪に止まり、また飛び立ってその満足げな表情を掠めていく。
夏草の匂いも、川のせせらぎも‥‥幻想的な灯りも、全てが優しかった。
静かすぎる屋敷での交わりが、悲しくすら思えるほど。
「幸鷹‥‥たまにでいいから、私の顔を見る気はないかい?」
バカな奴だ。自分で用意した舞台に嫉妬して。
そうは思っても、今は‥‥優しい微笑みしか返してやれない。すっかり毒気を抜かれるほど、今夜の床は美しかった。
「‥‥近すぎる。‥溶けそうだ‥‥」
すっかり溺れた身体は、もうどこからが翡翠で、どこからが自分のものなのかすら判断が付かない。
「それではもっと溶かしてしまおうか」
甘い言葉を上手く返すことはできそうにない。
「そうだな‥‥」
私を喜ばせることにばかり長けた翡翠と、ただ応えることにさえ不器用な自分は、とても釣り合いそうな気がしないが。
「幸‥‥‥?」
ただ口元を綻ばせただけの返事で、翡翠は‥‥とろけそうな笑みを浮かべた。
「たまに君が愛しすぎて、気が触れそうになるよ」