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[景譲]サイドストーリー

元ネタは[将臣×望美]アナザーエンドdeハッピーエンドって企画から。
ラストに譲が締めてくれるけど、あまりにも譲が不憫だ!と盛り上がって、こんな健気な譲を幸せにするのは景時さんだよ、という辺りで落ち着きました(笑)
しかしエロくてゴメンナサイ(土下座)



「‥‥それで、譲くんはどうするの?」
 軽い問いかけ。だけどそれは、いつもの景時さんからは考えられないほどに冷ややかなものだった。
 どうする。
 そうだ、先輩は兄さんと一緒に元の世界に帰る。
 俺は。‥‥‥俺は?
「一緒に帰ることに、なるんでしょうね」
 ありきたりの答えを口にしながら、何か気持ちの悪い違和感を感じていた。
「それでいいの?」
 興味がなさそうに呟く景時さんが忠告してくれてる。
 どうするの?
 どう、したいの?
 それは選択を迫る言葉であって、決断を迫る言葉じゃない。
 フと過去を振り返ってゾッとする。
 俺は、何か一つでも、自分で選んできただろうか。
 なんだかんだと文句を言いながら、先輩に‥‥時には兄さんに付き合って?‥‥それは運命を委ねてきたってことじゃないか。
 いや、違う。
 俺は先輩と一緒にいたくて、自分で選んできたんだ。
 なけなしのプライドで顔を上げた時、目の前には‥‥全てを捨ててまで兄さんの手を取った、大切な幼なじみの笑顔が。

「イヤです」

 泣くなら一人で泣きたいと、ずっと思っていた。
「行こう?」
 言葉少なに手を引いて歩き出した景時さんが術でもかけてくれたのか、その場を後にする俺達に、誰も気付かない。
 泣くなら一人で泣きたいと、ずっと思っていた。
 弱味を見せれば幼く映る。
 そんなの、許せるはずもない。
「ほら、もういいよ。‥‥泣きなさい?」
 優しく肌を滑る声に、涙が込み上げる。
「景時さん、景時、さん‥‥っ」
 こんなに情けない俺も、貴方になら、受け止めてもらいたいなんて。
「よく頑張ったね」
 わざと子供扱いをするように髪を梳く指が、こんなにも心地良いなんて。

「景時さんが兄さんなら良かったのにな‥‥」
 一頻り泣いて安心した俺が呟くと、優しかった顔が一転して意地の悪い笑みを称えた。
「残念ながら、俺は君のお兄ちゃんになる気はないよ」
 そりゃそーだよな。
 アタリマエの回答に、それでも何故か胸がズシンと重くなる。
「だってほら、お兄ちゃんと弟はコンナコトしないでしょ?」
 ‥‥‥‥え‥‥?
「嫌なら嫌って言いなね。もう今の君には、それができるはずだから」
 イヤって、何を‥‥っあ?
 言葉が出ない。
 優しいばかりの人だとは、思ってなかった。そう、たぶん‥‥こんな貴方を、俺は知ってた。
 それでも。

 傍にいたいと、願っていたんだ。

 兄さんと先輩が夢の世界に逃避したと聞いて、思ったほどショックがない自分に驚いていた。冷静に敵を撃ち落としながら、二人のいない戦線で俺は少し喜んでいたんだ。
 純粋に何の衒いもなく景時さんの背中を守れる自分に、歓喜して‥‥。
「あ‥‥‥ハッ‥‥」
 気付いているんですか?
 俺は、貴方が好きなんです。
 付き従うように元の世界に戻ったら、貴方と過ごすことは出来ない。
 あの二人と離れても‥‥この世界に俺が存在する理由が無くなっても、それでも傍にいられますか?
「あ、う‥‥‥っ」
「素直に言ってごらん。俺は君を軽蔑したりしないよ、譲くん」
「何を、‥‥うあっ、や、ぁああっ」
「抱かれたくないなら『嫌だ』と」
「ア‥‥ン、‥んぅっ」
「感じてるなら、そう言って?」
 感じて、る‥‥?
「はぁうっ」
 スルスルと侵入してきた指が蠢くたび、わけもわからないまま高い声ばかりがそれを追う。
 何を、言えと‥‥。
「嫌?」
「‥‥じゃ、ない、です」
「ここ?」
「アッ」
「わからないよ。こ、こ、?」
「あぐっ、う‥‥そこ、ですっ」
「そう。ここが譲くんのイイトコ、なんだ?」
 なぜそんなことを口走ってしまったのかと後悔するほど、敏感な場所を突き崩される。
「あ、あ、ああああああああ」
 耳を塞ぎたくなるほど、高く細く淫らな声が聞こえる。
 拒むこともできず、かといって誘い込めるほどの覚悟もないまま『されるがまま』になる身体を、楽しげに嬲る指。
 なのに何故か、苦しげに歪む顔。
「景時さん、景時さん‥‥っん‥」

 ‥‥‥笑って‥?

「譲くんのイイ顔、好き」
 そんな悲しそうな笑顔じゃなくて。
「俺も、景時さんが‥‥ああぅっ」
「嘘はイラナイよ。今は流されていたらいい」
 嘘じゃ、ないんですよ。
「景時さ‥‥好き、‥‥スキ‥‥」
「こんなふうにされるのが、好きなの?」
 ほら、また。
 なんでそんな悲しい顔。
「うわ、‥‥ぐ、うっ」
 いきなり増えた質量に、感覚が飛ぶ。
 俺の言葉を信じない貴方に苛立ちながら、それを堪えて。
「ゆず‥‥」
 冷えた笑いに歪む唇を、噛みつくように奪った。

 時間が止まったように静かになる。
 景時さんの指は、まだ俺の中にあるし、乱れすぎた俺の目からは涙が零れてるけど。謂われのない暴力のような愛撫は止まって‥‥今は、貴方の息づかいと、ささやかな水音だけが耳に響いている。
 奪われてもかまわない。
 こんな形の愛情があることなんか知らなかったけど、貴方が俺を求めてくれるなら、拒む理由もない。
 だから、俺の声も聞いて?
 罪を着るように悲しい顔で笑わないで。
「後で、ちゃんと説明しますから‥‥信じてください」
 きっと誤解されてる涙の理由も、苦しくて切なくてたまらなかった心も、全部隠さずに話すから。今は‥‥どうか、信じてください。
「俺は、貴方が好きなんです」
 真っ直ぐ見つめた先で、困ったような笑顔が揺れる。
「‥‥信じちゃって、いいの?」
「信じてもらわないと困ります」
「そう、‥‥わかった。それなら素直に信じちゃうから‥‥‥感じて?」
「っ‥‥はぁんっ」
 恥ずかしいな、この甘い声は。
 全身を駆け抜ける電流が、変なスイッチを入れるみたいに。
「良い声だね。‥‥可愛いよ、譲くん」
「やん、アッ、ア‥‥ッ」
 止まらない‥‥止めたくない。

「君の中に、入れて?」
 耳元で熱っぽく囁く声が、残っていた僅かな羞恥心を押しのける。
「来て、ください」
 っ。
 ‥‥あ‥‥‥。
 ズルズルと内側を滑る感覚に、全身の血が震えた。
 心地良さしか感じない身体が可笑しくて、声を上げて笑いそうになる。
 座った姿勢で俺を抱く貴方の頭を胸にキュッと抱き込むと、愛しげな腕に囚われる。
「譲くんの音、聞こえる‥‥」
 見上げた顔に、驚くほど幸せな笑みが浮かんでいた。

 やっと、逢えた‥‥。

 感じすぎて溢れた涙を拭われながら、身をかがめて、キスをして。
 あとは景時さんの動きに、全てを委ねた。
 どう動いて良いのかもわからないし、たぶん今は感じているだけでいいんだと‥‥楽しそうな顔を見ていたら、そんな気分になったから。
「うわっ」
「ゴメンね、ちょっと苦しいかもしれないけど‥‥この方がほら、君を気持ち良くしてあげられるからさ?」
 繋がったままでクルリと身体を回されて床に手をつくと、景時さんの固い指が俺の前に回った。
「や‥‥イヤ‥‥、ダメ‥‥」
 堪えきれない。
 すぐに出てしまいそうで、必死で首を振る。
「いいよ、もう、俺も‥‥っ」
 背中に巻き付いた体温にホッとして、ソレを吐き出す。
 グッと何かが注ぎ込まれる感覚。
 自分の中心が脈打つ感覚。

 ヤだな‥‥やみつきに、なりそう‥。

 妙に幸せな気分で振り向くと、意地の悪い笑顔がヒュッと眉を上げた。
「いやらしい顔してる」
 お互い様だと思いますけど。
「‥‥‥好きでしょう?」
 言い慣れない強気な言葉に背筋を緊張させながら、強がって笑った俺を、力一杯抱きしめて。
「大好きだよ」
 甘やかすように、望んだままの言葉をくれた貴方を。

 今までよりずっと、好きになった。

[景譲]オネムの理由

「景時さん‥‥景時さん、しっかりしてください」
 こっちの世界に来てから、いわゆる『文明の利器』に興奮しっぱなしだった景時さんは、電化製品に陰陽術を応用したものなんかを次々と作っては、成功したり失敗したりして毎日楽しそうだった。
 無理なんかしなくてもいいのに、それじゃ申し訳ないよ〜と笑って昼間は家事に忙殺されている。なのに夜になると「ワクワクして眠れないんだ♪」なんて、喜々として夜更かしをして。
 困った人だな、もう‥‥。
 夜食を持っていっても顔も上げずに没頭してる姿を、可愛いとか楽しいとか思っていたのは、はじめの三日間くらいだった。

 景時さん‥‥‥俺のこと、忘れてませんか?

 身勝手だと思うのに、どうしても切ない。
 本当に好きなら待っていられるはずだと大人な自分が言い聞かせても、本当に好きだから待ってなんかいられないんだと子供の自分が泣き喚く。
 そんな毎日を続けていたせいで、俺も少しおかしくなっていたのかもしれない。
「しっかりしてください。寝るなら寝室で‥‥」
 睡魔に襲われて立っているのも限界といった風情の景時さんを、布団に横たえてから、身体を清めるフリをして服をはだけさせる。
「ん‥‥ん‥ぅ、‥‥譲、くん‥‥?」
 抵抗らしい抵抗もできないまま、素直に反応する身体が嬉しい。
 強引に奪われてばかりだった夜を思い出して、仕返しとばかり強気に煽っていく。
「‥‥ぅあ、ダメ‥‥‥だ、よ‥‥」
 手足を力無く投げ出したまま、快感に身悶える姿。
 いつの間にか立ち上がった熱の塊を優しく嬲った後で、そっと上に跨ってみる。

「‥‥‥‥‥いいの?」

 眠気の中で、真剣な視線が揺れていた。
「ダメ、ですか?」
 拒絶されたら。
 そう思うと、腰を落とすこともできない。
「俺が聞いてるんだよ、譲くん。‥‥せっかく元の時空に戻ってこれたのに、しかもここでは同性同士でソンナコトになるのは、不潔な話なのだろう?」
 情報源はTVか、PCか。
 確かにあの時空ほど‥‥たぶん「あの時代」ほど、自由にできてはいない気がする。
 崩壊しているとはいえ、モラルはモラル。
 俺だって景時さんがいなければ、そんな関係なんか考えたこともない。
「そんなことを考えていたんですか‥‥」
 睡眠も取らずに没頭していたのは、そういうことだったのかもしれないと、思い至る。夜食を運んでも振り向かなかった貴方は、俺に気付いていなかったんじゃなくて、俺を意識しすぎていたのかな。
 そんなの、嬉しすぎますっ。
 興奮しすぎて声が出なかった。
 だから俺は無言で貴方の首に腕を絡めて強く抱きしめた後、その唇を奪う。告白代わりに、何度も何度も。
 嬉しそうに笑いながら俺の返事を受け取った貴方が、そっと腰に手を添えて、その場所に導いてくれる。

「うわあっ、あ、あ、ああああっ」
 全身に鳥肌が立つ。
 自分の重みで沈みこんで、ゆっくりと突き刺さっていくソレを、こんなにも待ち焦がれていたのだと自覚して、自分から腰を振る。
 身体を持ち上げては、また身を落として。
 そのたびにあられもない悲鳴を上げながら、貴方を貪る。
「景時さん‥‥っ、俺、俺‥‥貴方が、‥んああぁんっ」
 言いかけた言葉を打ち消すように、貴方が下から突き上げてくる。
「ダメだよ、これ以上聞いたら、いい気になっちゃうよ‥‥もう、君のこと、離してあげられる自信もないのに」
「離さないでください。俺は貴方が好きで‥んあぅ、‥‥好きで、好きで好きで好きで、あっ、あー‥‥っっ」
「我慢できないよ。君の中に出したい。‥‥いいよね?」
「ください。‥‥貴方の‥‥欲しい」
 言葉にしながら強すぎる快感に揺さぶられていた。
 目の裏が何度もスパークして、たまらず背を引きつらせる。
 もう‥‥もう、ダメ‥‥ッ!!
 そう思った瞬間、身体の奥に熱が注ぎ込まれた。
「譲くん、ゴメン‥‥ゴメンね」
 なんで謝ってるのかな。身体の中で出したから?
「俺、嬉しいですよ」
 少し照れながら笑いかけると、とろけるような表情で腕を伸ばして、俺の頬に触れた。

「‥‥‥‥‥‥‥ス‥‥キ‥‥‥」

 そのままパタッと意識を捨てた景時さんから視線を外せない。
 無邪気な寝顔。まるで心配事がなくなったとでも言いたげに、無防備に投げ出した手足。
 やっぱり貴方には、戦がない世界が似合う。

 ダイスキデス‥ヨ、景時さん‥‥。

 音に乗せずに呟きながら、そっとその頬を撫でてみた。

[将譲]フライデー

 源氏の武将。最愛の幼なじみ。譲が大切にする、譲を大切にする、全ての存在から攫ってしまいたかった。
「兄さん、何するん‥‥っ」
「黙ってろ。舌噛むぜ」
 離れていた間も戦いが終わるまでも焦がれ続けていた心は、もうとっくに壊れていた。取り繕う必要も感じない。
 あの地獄のような戦火の中で、俺は誓ったんだ。
 もしも譲を失うことなく帰還できたら、その時はもう二度と我慢をしないと。
 絶対に手放さない。誰にもやらない。

 譲‥‥本気で抗えば、逃げることはできるだろう?
 それをしないお前が悪い。
 これがお前の返事だと決めつけて、攫ってくぜ。
「兄さん、降ろして‥‥恥ずかしいって」
「恥ずかしくなきゃいいのか?」
「‥‥‥っっ」
「誰も見てねーよ」
 いっそ見せびらかして宣言してやりてぇけどな。
 お前が俺のモノだってこと。
 それと‥‥俺の身体が、お前以外に反応しねーってこともだ。

「オアズケとか言うなよ。今度こそ発狂するぜ」

[景譲]きのこ

ラクガキ祭りからの派生


「‥‥‥‥譲くん、まさか、挑発してる‥‥?」
 は?
 突然の問いにずり落ちた眼鏡を押し上げながら、声の主を振り返る。
「どうしてですか?」
「それ」
 困ったように指を指されて、手に持った食材に視線を落とす。
 弁慶さんが薬草を採りに入った山で見つけてきてくれた、香りの良い天然のキノコ。この世界では知られているものらしく、もちろん毒性はない。元の世界でいうとエリンギのような形をしていて‥‥香りも、良くて。
 まさか、そんな。
 景時さんが何を見て「挑発」されてしまったのか、一つだけ思い至って赤くなる。大振りのキノコに口を寄せた自分は、あらぬ光景を連想させてしまったらしい。
「バカなこと言わないでください」
 笑い飛ばしても恥ずかしさは消えなくて、ゆっくり作るはずの料理がやっつけ仕事になってしまう。
 無防備な顔を晒していたんだろう。
 後ろで揺れる肉食獣のような視線に煽られながら、物凄い勢いで調理の下ごしらえを終えた頃、すぐ後ろに気配もなく佇む恋人の吐息を感じた。
「バカなこと考えてゴメンね?」
「‥い、いえ‥‥ちょっとビックリしただけですから」
「ね、譲くん。バカなこと‥‥‥‥‥しない?」
 ‥‥ヒッ‥‥。
 振り返ることも出来ず、伸ばされた指に項を遊ばれる。
「あ、‥‥景時、さんっ」
 背筋を駆け上がる快楽に負けてパンッと調理台に手を付くと、器用な指が着物を弛めて入り込んでくる。
「料理してる譲くんって、色っぽいよね」
「んあっ‥‥‥そこ、ダメ‥‥ッ」
「いつもね、後ろから見てて思うんだ。‥‥美味しそうだなって」
「や、そんな、まだ入らな‥‥ァグ‥ッ」
「っん‥‥‥今すぐ食べたいなって、いつも」
「んあああっ、景と‥‥き、ぁん‥っ」
「料理って愛情だよね。誰を想って作るのかな、譲くんは」
 無理矢理奪われた痛みよりも、景時さんの沈んだ声が苦しかった。
 確かに、料理をする時は‥‥先輩の無事を祈っている事が多い。それはもう恋ではないけれど、幼い頃から抱き続けた愛情の名残。あの人だけは無事に返してやりたいと思う、ささやかで絶対の願い。
「‥‥ハグ、‥ン、ァ、ァ、アアアッ」
 弱い所ばかりを集中的に攻められて、呆気なく訪れた限界が視界を奪っていく。

 ボンヤリと佇む霧の中。突然、二人の声がした。
 よく見れば切り立った崖にぶら下がる二人の姿。先輩は「私は大丈夫だから」と叫び、景時さんは「望美ちゃんを助けるんだ」と叫ぶ‥‥こんな時まで利己的になれない二人が、妙に現実的で悲しくなる。
 これは夢だ。
 判っていても何の助けにもならない‥‥俺の夢だから。ただの夢なのかどうかも判らず走り出す。
 迷わず先輩を助け上げてホッする間もなく景時さんを振り向くと、そこに姿は‥‥。

 俺は迷わず、貴方の後を追って、飛び降りた。

「‥‥ゆ‥‥るくん、譲くんっ」
 パンパンと頬を叩く痛みに目覚めると、ポタポタと水滴を滴らせる景時さんの姿。
「無事、だったんですね‥‥」
「何言ってるの、大丈夫?」
「俺は何があっても先輩を助けます。‥‥‥だけど、何があっても、貴方を独りにしない」
「譲、くん‥‥?」
「不可能でも何でもいい。貴方を独りにはしない。貴方が居ない世界で生きる気にはなれない。景時さん、こんな愛は、迷惑ですか‥‥?」
 よく見ると、水滴だと思っていたのは景時さんの汗で。
 ここは元居た土間の片隅で。
 ああ、俺は、またワケノワカラナイ事を‥‥。
「迷惑じゃないよ。譲くんを‥‥道連れに、したい。どこまでも、ずっと」
 深い影を落とした瞳。
 貴方が抱える闇の正体は解らないけど。
「連れて行ってくださいね」
 貴方が居ない世界なら、踏みとどまる意味もない。
「きっとね」
「いえ、必ず‥‥です」
 困ったように曖昧に笑うのは、嘘になる日を否定できない貴方の弱さ。
 今は、それでもいい。
「どこへ逃げても、俺が勝手に付いていきますから」
 宣言した俺を眩しそうに見つめてから、悪戯な笑顔を浮かべた。

「あんまり可愛いこと言うと、また襲っちゃうよ?」

[将譲]激流

とりあえず書ききらないと他に行けないので、成就させてみた(笑)
譲は受けですよ?
だけど決定権をもってるのは譲だし、精神的にどっちが優位かって言われたら‥‥‥将臣は下僕でも満足みたいです(コラッ)

ここんとこ書いてた将×譲の「総まとめ」ってことで。



「どーすんだ?‥‥お前が嫌なら、無理強いはしない」
 無理強いなんざ『できないんだ』と素直に言うべきか悩んだ。
「兄さん‥‥‥」
 4回抱いた。
 初めは、明日をも知れぬ京。キツイ夢に錯乱状態だった譲が俺の腕を求めて、いっそそのまま殺されても構わない‥‥そんな覚悟で組み敷いた身体は、抵抗もなく。現実より酷い夢を忘れるために、痛みすら利用しているかのように乱れて震えた。そんな夜が二回。
 次は鎌倉。俺の正体に気付いた譲が、源氏に‥‥白龍の神子に、協力を求めて。のっけからそのつもりだったことも知らずに、その身を捧げてきた。まったく冗談がキツイぜ。嫉妬に狂って手酷く抱いた俺を恨みもせずに笑った顔は、忘れようにも無理な話だ。
 その次が‥‥こっちに帰ってきてからだったな。散々飲んで、ベッドも何も客人に明け渡した俺達が、何を思ったか倉庫の中でコトに及んでいたことなんざ、誰が知るはずもない。

 死の恐怖、勝利の代償、酒。
 そんな言い訳が一つもない状態でも、お前は俺を受け止められるのか?
 こんな平和な世の中で、モラルに縛られて。
 それでも‥‥俺を。
「意外と疑い深いんだ。‥‥知らなかったな」
 深く沈んだ声が、震えていた。
「譲、お前」
「こんなこと嫌に決まってるだろっ。組み敷かれて女みたいに感じればいいのかっ。それが気持ちいいから『もっとして』とでも言えばいいのかっ。そんなの‥‥そんな自分なんか、認めるわけない。兄さんが求めないなら、なにもあげない。身体も‥‥心も」
 泣くな。泣くな。泣くな‥‥ゴメン。
「欲しがったらくれるのか?」
「アンタが欲しがって手に入らなかったものなんか、一つでもあるのかよ」
 あるよ。お前とか‥‥‥‥他には‥‥。
「ないんだろうな」
「ほら」
「無いんだよ、お前以外に俺が欲しがったものなんか、初めから、たった一つも」
 アレもコレも記憶にあるものは全部、譲が欲しがったから価値があったんだ。泳げるようになりたいとか言い出したから、俺が教えてやりたくて必死で練習した。お前が望美のマネばかりしてたのと、大差ない。‥‥ただ少し、俺の方が器用で、年上で、やり方を知ってたから。
「俺は、お前が欲しかっただけだ」
 いつだって、こっちを見ろ!と念じてた。望美とセットでいなけりゃ、お前の視界から外れるくらい盲目にアイツばかり見ていた時も、ずっと。
「俺のものなんか何もない。お前が欲しがればお前のものになる」
 この命さえ。
「だから‥‥」
 そっと伸べた手に、ゆっくりと降りてくる体温。
「お前を」
「もう黙って。聞いてる方が恥ずかしい」
「譲‥‥?」
 肩から胸へと滑り落ちていく指先が、絡んだ糸を一つずつ解いていった。
 初めて譲から重ねられた唇。
 初めて許された、想い。

 二人して激流に足を取られたようにベッドへ沈みこんだ時、耳元でそっと零れた名前は‥‥甘すぎて、とても自分のものだなんて思えなかった。

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