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[景譲]オネムの理由

「景時さん‥‥景時さん、しっかりしてください」
 こっちの世界に来てから、いわゆる『文明の利器』に興奮しっぱなしだった景時さんは、電化製品に陰陽術を応用したものなんかを次々と作っては、成功したり失敗したりして毎日楽しそうだった。
 無理なんかしなくてもいいのに、それじゃ申し訳ないよ〜と笑って昼間は家事に忙殺されている。なのに夜になると「ワクワクして眠れないんだ♪」なんて、喜々として夜更かしをして。
 困った人だな、もう‥‥。
 夜食を持っていっても顔も上げずに没頭してる姿を、可愛いとか楽しいとか思っていたのは、はじめの三日間くらいだった。

 景時さん‥‥‥俺のこと、忘れてませんか?

 身勝手だと思うのに、どうしても切ない。
 本当に好きなら待っていられるはずだと大人な自分が言い聞かせても、本当に好きだから待ってなんかいられないんだと子供の自分が泣き喚く。
 そんな毎日を続けていたせいで、俺も少しおかしくなっていたのかもしれない。
「しっかりしてください。寝るなら寝室で‥‥」
 睡魔に襲われて立っているのも限界といった風情の景時さんを、布団に横たえてから、身体を清めるフリをして服をはだけさせる。
「ん‥‥ん‥ぅ、‥‥譲、くん‥‥?」
 抵抗らしい抵抗もできないまま、素直に反応する身体が嬉しい。
 強引に奪われてばかりだった夜を思い出して、仕返しとばかり強気に煽っていく。
「‥‥ぅあ、ダメ‥‥‥だ、よ‥‥」
 手足を力無く投げ出したまま、快感に身悶える姿。
 いつの間にか立ち上がった熱の塊を優しく嬲った後で、そっと上に跨ってみる。

「‥‥‥‥‥いいの?」

 眠気の中で、真剣な視線が揺れていた。
「ダメ、ですか?」
 拒絶されたら。
 そう思うと、腰を落とすこともできない。
「俺が聞いてるんだよ、譲くん。‥‥せっかく元の時空に戻ってこれたのに、しかもここでは同性同士でソンナコトになるのは、不潔な話なのだろう?」
 情報源はTVか、PCか。
 確かにあの時空ほど‥‥たぶん「あの時代」ほど、自由にできてはいない気がする。
 崩壊しているとはいえ、モラルはモラル。
 俺だって景時さんがいなければ、そんな関係なんか考えたこともない。
「そんなことを考えていたんですか‥‥」
 睡眠も取らずに没頭していたのは、そういうことだったのかもしれないと、思い至る。夜食を運んでも振り向かなかった貴方は、俺に気付いていなかったんじゃなくて、俺を意識しすぎていたのかな。
 そんなの、嬉しすぎますっ。
 興奮しすぎて声が出なかった。
 だから俺は無言で貴方の首に腕を絡めて強く抱きしめた後、その唇を奪う。告白代わりに、何度も何度も。
 嬉しそうに笑いながら俺の返事を受け取った貴方が、そっと腰に手を添えて、その場所に導いてくれる。

「うわあっ、あ、あ、ああああっ」
 全身に鳥肌が立つ。
 自分の重みで沈みこんで、ゆっくりと突き刺さっていくソレを、こんなにも待ち焦がれていたのだと自覚して、自分から腰を振る。
 身体を持ち上げては、また身を落として。
 そのたびにあられもない悲鳴を上げながら、貴方を貪る。
「景時さん‥‥っ、俺、俺‥‥貴方が、‥んああぁんっ」
 言いかけた言葉を打ち消すように、貴方が下から突き上げてくる。
「ダメだよ、これ以上聞いたら、いい気になっちゃうよ‥‥もう、君のこと、離してあげられる自信もないのに」
「離さないでください。俺は貴方が好きで‥んあぅ、‥‥好きで、好きで好きで好きで、あっ、あー‥‥っっ」
「我慢できないよ。君の中に出したい。‥‥いいよね?」
「ください。‥‥貴方の‥‥欲しい」
 言葉にしながら強すぎる快感に揺さぶられていた。
 目の裏が何度もスパークして、たまらず背を引きつらせる。
 もう‥‥もう、ダメ‥‥ッ!!
 そう思った瞬間、身体の奥に熱が注ぎ込まれた。
「譲くん、ゴメン‥‥ゴメンね」
 なんで謝ってるのかな。身体の中で出したから?
「俺、嬉しいですよ」
 少し照れながら笑いかけると、とろけるような表情で腕を伸ばして、俺の頬に触れた。

「‥‥‥‥‥‥‥ス‥‥キ‥‥‥」

 そのままパタッと意識を捨てた景時さんから視線を外せない。
 無邪気な寝顔。まるで心配事がなくなったとでも言いたげに、無防備に投げ出した手足。
 やっぱり貴方には、戦がない世界が似合う。

 ダイスキデス‥ヨ、景時さん‥‥。

 音に乗せずに呟きながら、そっとその頬を撫でてみた。