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[イノ頼]こんな雪の日は 1

「頼久‥‥‥オマエ、なにやってんだよ、こんなとこで!!」
 深々と降り積もる雪の中、窓の下に立ち尽くす影。
 まさか。
 まさか‥‥そんな。
「‥‥‥すまなかった、イノリ‥‥」
「なんでオマエが謝んだよっ」
 仕事だなんて解ってた。だけど寒くて。オマエが来ないんじゃないかと思っただけで、もう凍えそうで。‥‥オレのこと、好きじゃないのかと思ったら‥‥もう、泣きそうで。
 やっと会えたと思った瞬間、突き飛ばして逃げてきた。
 自分がどんだけ子供だったかなんて、痛いほどわかってるっ。
「こんなに冷えて‥‥バカ‥‥」
 グイグイ引っ張って、部屋に入れて。
 ボーッと突っ立ってる頼久を風呂に追い立てる。
「オレはもう入ったから。その冷たい手足が溶けたら出てこい。その後で話そう?」
「イノリ‥‥?」
「言うこときいたら、なんでも許すから」
 頼むから‥‥。
 涙が出そうになって慌てて背を向けたら、いきなりキツク抱きしめられた。
 バカ。
 そんなことされたら、もう‥‥堪えられないだろっ。
「んっ」
 振り向きざまにキスをして、赤く狼狽える頼久を剥き身にする。
「んんんっっ」
 慌てたって無駄だ。本気で抵抗する気もないくせに。
 そのまま雪崩れ込んで、湯船に沈めちまう。
「とにかく温まれ。そんな冷たい身体を抱いてたら、オレが寒いだろ」
 精一杯強がって説教したら、やけに柔らかい顔で微笑んだ。
「待っていてくれるか」
 本当はここでもう食っちまいたいけど。
「ん。‥‥和室にいるから」
 布団の中で、ゆっくり待ってるから‥‥逃げんなよ?

 遅い。

「わあぁ〜っ」
 さすがにちょっと心配になって風呂を覗くと、頼久が赤い顔でのびてた。
「イ‥‥ノリ‥‥、‥‥その‥‥‥‥」
「いいからっ、無理に抱いたりしないからぁっ」
 なにやってんだよ、も〜〜〜〜っ。
 さっきから意味不明な頼久が、可愛くて可笑しくて愛しくて、どうにかなりそうだ。
「これで許してやるよ」
 グッタリと眠るおでこに、派手な音を立ててキスをしてやった。

[頼友]情人

「あ‥‥‥あ、頼久、そんな」
 ねじ伏せられて、喘ぐのは‥‥決して屈辱からではない。
「お好きなのでしょう。無理にされるのが」
「あぐっ‥‥、ン‥‥ッ」
「友雅」
 ゾクンと背筋に何かが走る。
 ただ、名を呼び捨てられた‥‥それだけなのに。
「こんなに罪な身体で、男をくわえ込んで」
「ひあっ」
「喘いでいるなんて‥‥‥そうでしょう、友雅殿」
「あ‥‥‥」
 名を、呼んで。
「どうしましたか。よもや、一介の武士などに呼び捨てられて感じ入るなどと、そんな不埒な事を仰るのでしょうか。‥‥友雅殿?」
 縋るわけにはいかない。そんな女々しい私では、君の執着はすぐに薄れてしまうだろう。
「こんな時くらい、煩わしい身分など忘れさせてほしいものだ」
 故意に、吐き捨てるように告げる。君に価値など求めぬと告げるように。
「過当な期待だったかい?」
 君が私を求めるのは、私が決して堕ちぬ華であるからだ。
 他に価値など‥‥何一つ有りはしない。
「いえ、お望みのままに。‥‥友雅」
 欲心に艶を増す声色。
「今の貴方は、ただの情人ですゆえ」
 貴族である私を、組み敷く。それが君の悦楽を煽るのだから。
 私は気高い私のまま、君に膝を屈する。
「腰を上げていただけますか。この手に届くように、高く」
 これは倒錯した遊び。
「これでいいかい、頼久‥‥」
 早く、触れて。
「ええ。私を望む場所が、よく見えます‥‥貴方は欲深い人だから、ほらこんなにヒクついて」
「あ、う」
 満たして。
「どうなさいましたか」
「ん‥‥あまり焦らすものではないよ。酷い男だね」
「そんな私を望むのはどなたでしょうか。酷くされて‥‥感じている癖に」
「はあぁっ」
 熱い舌に舐め取られて、堪えきれず背が踊る。
 いけない。
 そんな温く心地よい刺激は毒にしかならない。
「やあっ‥‥早く」
 頼久、頼久‥‥どうか何も聞かずに私を奪い去ってくれないか。気を抜けば君ばかり求めているこの心を暴かずに、どうか‥‥。
 私は同情でなく、君の情熱に抱かれていたいのだよ。
「急かさずとも捧げましょう。力をお抜きなさい、‥‥友雅」

「うわ‥‥ぁ、あ、ああ」
 押し広げるように、君の質量が割り込んでくる。
「‥‥ア‥‥無理‥」
「無理なことはありません。貪欲に飲み込んでいらっしゃいます」
 幾度こなしても慣れぬ、強烈な異物感。
 それが君であるということが、唯一の意味なのだ。
「よりひさ‥‥ぁっ」
 どれほど執着しても、決して得ることのできぬもの。
「頼久、頼久‥」
 命という儚いものに何か意味や価値があるのだとしたら、それは。
 この温もりに、他ならない。

「友雅」

 熱く濡れた声が、この名を呼ぶ。
 立場も身分も言葉も、いっそ現の世界全てが無意味なものと思えるまで。
「頼久‥‥‥」
 君に抱かれていたい。

 このまま君に溺れてしまえたなら。
「あっ、あ‥‥‥もっと、深く‥‥っ」
 無意味な日常など全て捨てて、君の下僕に成り下がることができるのなら。
「お望みのままに」
「っつあ‥‥っ」
 もう何も、望みはしないのに。
「私に捧げられるものならば、この身の全てなりとも」
「‥‥‥っ」
 それを君が許すことはないけれど。
 せめて。
「ん‥‥君を、注いでくれるかい」
「御意」
 引きつるように反らした背で君に甘えて。

 意識を手放した。

[イノ友]膝枕

 静寂が、虚しさを呼ばない‥‥。

 聞く者が聞けば『当然のこと』と笑うだろう、ささやかな幸福。
 それはいつも君がくれる有難い贈り物なのだと‥‥素直な想いを口にすることは、たぶん今後もありはしないが。

「静かだね‥‥」
 間近に在る体温に、囁く。
 まるで君への想いを秘めるように、‥‥密かに。
「‥‥ああ」
 声と同時に、強い力で引き寄せられる。

 気付けば君の膝枕。
 まるで私を甘やかすかのように‥‥愛するかのように。

「けど、悪くねぇよ」
「そうだね」
 静寂は己の内にある闇へと続く、空虚なばかりの道であった。
 静かな夜はいつも私に孤独である現実を告げる。‥‥偽りの恋に身を投じても決して逃れられぬ、己という宿命を。
「君と過ごす静寂なら、何より心地よい‥‥」
 いつからか、君を愛するように、この闇すら愛おしく思えた。
 こんな気持ちを何と呼ぼうか。

「‥‥イノリ?」
 驚いたように見つめる頬に、そっと触れる。
 愛しい‥‥人。
 ぼんやりと頬を撫でていた私に身を落として、また甘やかすような事を言う。
 まったく、たまらないね。
 朱に染まる頬を誤魔化したくて、無防備に近づいた君を試したくて、そっと瞼を伏せると。‥‥君は躊躇うように、唇を落とした。

[天頼]雪降る夜に

 なんかコイツって、勝手に落ちる時あるよなー。

 いつでもピンと張った背筋が丸まって小さくなって胸の辺りに擦り寄る頼久は、まるで大型犬が猫みたいに甘えてきたような違和感だ。少し切なくて、だけどなんか嬉しい。
 俺が、守ってやれる。
 そういう感じが、やっぱり嬉しい。

 不安な時に不安な顔をする。
 そういうアタリマエのことが苦手だった頼久が、俺の前でそんな無防備な顔をしてみせるのは、もしかして『信頼』ってやつなのかなーなんて思えば、頬も弛むってもんだ。

 大丈夫。
 俺は、ここにいるから。

 無意識に呟いた台詞に弛む肩が愛しい。なんかもー可愛く思えて仕方ない。なんて、こんなこと口に出したら怒んだろーなぁ‥‥。
「なぁ、頼久。静かだと思ったら‥‥ほら、雪」
 カーテンの隙間でフワフワと白いのが踊ってる。
「ああ」
 興味なさそーに相槌を打ってるのは、まだ俺の思考パターンを理解してないってことだな。
「雪、積もったら、寒いだろ?」
「そうだな?」
 不思議そうに見上げた頭を落として、バッと立ち上がる。
「‥‥‥‥天真?」
「ほら、早く布団に行こうぜ?‥‥凍える前に♪」
 上機嫌で手を引いて、戸惑う頼久を寝室に拉致する。

 無駄に不安がるお前も好き。だけど。
 俺の腕の中でゆるゆるになって、なんにも考えられなくなる瞬間は、もっといい。
「て、天真‥‥?」
 困ったように赤くなる顔は、見ないフリで
「ほら、早く脱げよ」
 意地悪言っても。
「‥‥‥急かすな」
 どっか嬉しそうな頼久は。

 可愛い、なんて口に出さないのが難しいくらい、可愛くて仕方ないんだーって。
 これは俺だけの秘密にしておこうと思う。

[友鷹]独占欲

 薄汚い独占欲。
 こんなものを愛と呼ぶのならば、それは決して口外すべきことではないと知っている。‥‥‥知って、いるから。
「どうしたのだい、難しい顔をして」
「いえ」
「あ、‥‥く‥ぅっ」
「貴方こそ、余計なことを考えずに感じてくださればよいのですよ、友雅殿‥‥」
 ハ、‥ハ‥‥ッ。
 友雅殿の荒い吐息が、この耳を焦がす。
 もっと、もっと‥‥注いで。
 独占欲は尽きることなく、この髪の一房までも‥‥私の全てで、貴方を欲しているのです。
「た‥‥か、みち‥‥」
 堪えるような表情で頬を撫でる貴方を、振り払いたくなる。
 こんな時にまで、大人の顔をする貴方を。まるで全てを承諾した上で笑っているような貴方を。私は‥‥私は‥っ。

 ふらりと腰を浮かべて、トンと沈みこむ。
 衝撃に堪えた貴方の口元を赤いものが伝って、夢のように美しい貴方が、私の下で‥‥堕ちた。

 怠い足元に鞭を入れるように身を起こすと、私の中から貴方の欲望が流れ落ちる。
 それが、貴方の腰を汚して。
 私の足を汚して。
 ‥‥そんな些細なことに、異常なほど感じている自分が可笑しくて。

 笑いながら、貴方の懐へと崩れ落ちた。



→イラスト【独占欲】
年明け早々爆弾を投下されて、うっかり引火。
とにかく受けくさい少将殿だったので、こんなことになってしまいました。
いや、攻めてますけど挿されてるので友×鷹で‥‥(脱兎)

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