記事一覧

[イノ友]膝枕

 静寂が、虚しさを呼ばない‥‥。

 聞く者が聞けば『当然のこと』と笑うだろう、ささやかな幸福。
 それはいつも君がくれる有難い贈り物なのだと‥‥素直な想いを口にすることは、たぶん今後もありはしないが。

「静かだね‥‥」
 間近に在る体温に、囁く。
 まるで君への想いを秘めるように、‥‥密かに。
「‥‥ああ」
 声と同時に、強い力で引き寄せられる。

 気付けば君の膝枕。
 まるで私を甘やかすかのように‥‥愛するかのように。

「けど、悪くねぇよ」
「そうだね」
 静寂は己の内にある闇へと続く、空虚なばかりの道であった。
 静かな夜はいつも私に孤独である現実を告げる。‥‥偽りの恋に身を投じても決して逃れられぬ、己という宿命を。
「君と過ごす静寂なら、何より心地よい‥‥」
 いつからか、君を愛するように、この闇すら愛おしく思えた。
 こんな気持ちを何と呼ぼうか。

「‥‥イノリ?」
 驚いたように見つめる頬に、そっと触れる。
 愛しい‥‥人。
 ぼんやりと頬を撫でていた私に身を落として、また甘やかすような事を言う。
 まったく、たまらないね。
 朱に染まる頬を誤魔化したくて、無防備に近づいた君を試したくて、そっと瞼を伏せると。‥‥君は躊躇うように、唇を落とした。