静寂が、虚しさを呼ばない‥‥。
聞く者が聞けば『当然のこと』と笑うだろう、ささやかな幸福。
それはいつも君がくれる有難い贈り物なのだと‥‥素直な想いを口にすることは、たぶん今後もありはしないが。
「静かだね‥‥」
間近に在る体温に、囁く。
まるで君への想いを秘めるように、‥‥密かに。
「‥‥ああ」
声と同時に、強い力で引き寄せられる。
気付けば君の膝枕。
まるで私を甘やかすかのように‥‥愛するかのように。
「けど、悪くねぇよ」
「そうだね」
静寂は己の内にある闇へと続く、空虚なばかりの道であった。
静かな夜はいつも私に孤独である現実を告げる。‥‥偽りの恋に身を投じても決して逃れられぬ、己という宿命を。
「君と過ごす静寂なら、何より心地よい‥‥」
いつからか、君を愛するように、この闇すら愛おしく思えた。
こんな気持ちを何と呼ぼうか。
「‥‥イノリ?」
驚いたように見つめる頬に、そっと触れる。
愛しい‥‥人。
ぼんやりと頬を撫でていた私に身を落として、また甘やかすような事を言う。
まったく、たまらないね。
朱に染まる頬を誤魔化したくて、無防備に近づいた君を試したくて、そっと瞼を伏せると。‥‥君は躊躇うように、唇を落とした。