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【酔恋譚】 ~Suirentan-02~

「友雅殿……」
 名前を呼ばれた時にわかった。君が、私の片割れなのだと。
 生まれ落ちる前に手放した存在。
 砕けて2つに割れたまま、無くしてしまった半身。

 真面目な顔でそう言ったら、君は怒るだろうか、笑うだろうか。
 それとも…



 八葉の一人と聞かされ、勝手に「地の白虎」と位置づけられた。
 面倒なことになったな……と、内心では辟易していたが、帝の勅命では逆らえまい。
 覚悟を決めた胸に、星の姫君から「もう一人、天の八葉に位置づけられる白虎がおります」との言葉が降りて、心惹かれた。
 名のない一介の治部少丞。
 だがしかし、彼の噂を集めるのは容易いことだった。
 女人達は一様に「色恋沙汰には無縁の寂しいお方」と笑い、頭の回りの宜しくない御仁は皆「勤勉で真面目なばかりが取り柄の、面白味のない奴」だと云う。しかし信頼のおける筋から聞けば「朴訥に見えるが、あれでなかなか話せる男なのだ」とくる。
 他人の恨みや反感を買うことなく、地味に生きている一文官。
 それならば何故こうも、宮中の人々に知れ渡っているのか……これは面白い。
「しばらくは退屈しないで済みそうだねぇ」
 楽しげに響く己の声に、こんな事に興じてしまう程、それだけ意味のない人生なのだと思い知りつつも。

 

 知れ渡るのも無理はない。存外、京人の趣味も解りやすいものだ。

 治部少丞殿を前にして、すぐに謎が解けた。
 つまらない男と云いながらも皆が記憶の中に留めている理由は、その顔の造作にあるものらしい。
 つまり…本人は自覚していないようだが…、美しいのだ。
 強いて云えば華が足りないが、桜の陰でひっそりと咲く木蓮のような、つつましい美しさが、むしろ良い。
 こんな男が恋に疎いなら、それは女人にとっては気の毒なことだな…。込み上げる笑いを噛み殺しながらの会話は、それでも楽しいものだった。
「これからは君を『鷹通』と呼ぶ。私のことも下の名前で呼びなさい」
 身勝手な宣言は、すんなり受け入れられた。

『……友雅殿』

 遠慮がちな声が、別れた後も耳に残る。
 一瞬で気付いた私と、まるで感ずる所のない鷹通との温度差。
 焦ることはない。
 自分にそう言い聞かせても、吹き荒れる嵐のとどまる気配は、ない。
 
 
 
 
 
 
 
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出ましたゲームアイテム『木蓮』・・・友雅への手紙に添えると喜んでくれる花です。鷹通のキャラにピッタリじゃないかと喜んで、勝手に使ってますが。鷹通の好きな花は『桜』と『しゃくなげ』でしょ?これまた友雅にピッタリじゃないか、と。なんとも細かい所に萌えてます(自爆)

→イラスト【恋の嵐】
イラストは話を書く前にアップしてくれていたもの。
これに悶えながら書いてたわけですよ、私(笑)

【酔恋譚】 ~Suirentan-01~

 私のような者に心を砕く方がいらっしゃるとは、ついぞ思っておりませんでした。
 必要とされるのは、自分に能力があるからで。
 利用価値のない自分など、生きている意味も価値もまるでない、吹けば飛ぶ塵のようなものだと。
 そんな自分が、八葉だと知らされた時……あの方と、対の存在であると知らさせた時。
 正直を申しますと、悪戯な運命に反吐が出る想いで…。
 私などと同列に並べられたあの方が、不憫でなりませんでした。



 八葉に選ばれたと聞いた同僚達は、私のひたむきな姿勢が評価されたのだろうと素直に祝ってくれた。しかし対になる者の名前を聞いて、皆一様に溜息をついて異口同音の忠告をくれる。
「橘少将殿か…その辺りに疎いお前は、耳に遠い所だろうが…」
 人を見てくれや噂で判断するのはどうかと思う。そう言って窘めても、栓がないので、途中でやめた。
「どんな相手であろうと、京を守るという目的は同じですから」
 そう言いきって耳を貸さないことにする。
 気の毒になぁ。気の毒になぁ。…聞こえるように囁く声に、少し胸が悪くなる。
 変な噂など吹き込まなくとも、その方の存在くらいは知っている。
 地位も色も力も揃った、華の武官。
 しかし実際に会って感じたのは、そんな気取りをまるで感じさせない、物腰の柔らかさだけだった。
「君が私の対になるのかい?……気の毒に」
 世間話のようにサラッと紡いだ言葉が、胸に落ちる。

 この方の心は、私と同じ色をしているのかもしれない。

「ええ。私もそう思っていた所です。橘少将殿」
 すると言葉の意味を取り違えたらしい少将殿が、皮肉気に、しかし楽しそうに笑った。
「言うね、君も」
 鮮やかな笑顔に、訂正すべき事も忘れて魅入ってしまいそうになる。
「あ、いえ、私も、…私などと対になど、なんと気の毒な方だと思っていたのですよ」
 にっこり笑って告げると、珍しいものでも見るように目を見張ってから、満足げに頷いた。
「噂以上に頭の回りも良いようだ、私は君が気に入ったよ。…藤原鷹通殿といったね。どうやら私達は白虎という名のもと、避けられない運命の輪に巻き込まれるようだ。……これからは君を、鷹通と呼ぶ。私のことも下の名前で呼びなさい」
 いきなり無茶を言う人ですね…。
「私を名前でお呼びになるのは構いませんが…」
「嫌だとは、言わないでもらいたいね」
 ぴしっと言い切ってから、やれやれという風情で首を傾げる。
「頼むよ……鷹通くん。位を付けて呼ばれると、どうにも気が抜けずに意地の悪い態度を取ってしまいそうだ。私は……君とは、仲良くしていきたいと思っているのでね?」
 なるほど…。
 靡く女性が数知れずという醜聞も解る。
 人の心に自分の場所を作るのが、異常に得意な方なのだ。
「そういうことでしたら、……友雅殿。これで宜しいでしょうか」
「いいね。…鷹通、君の声は、なかなか私好みだ」
「私は女子ではありませんよ?」
「女性だったら困るじゃないか…こんなに美しくては、仕事にならない」
「お戯れを」
 ほんの冗談だと、そんなことは聞くまでもない。
 それでも素直に嬉しいものだと思う。
 出逢いというのは、第一関門。ならばそこは、なんなく素通りできたらしい。

 橘少将殿…否、友雅殿の、お心遣いで。
 
 
 
 
 
 
 
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友×鷹設定になると、鷹通が小さい頃から知り合いだったという話が多いのですが、今回は『お互い全く知りませんでした』という所から入ってみます。
初っ端から口説きモード全開の友雅は、実はこんなことを考えていました~な、2章へ、どうぞ(笑)

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