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[将譲]逢夢辻〜01〜

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【逢夢辻】〜01〜


 奇跡は諦めた頃にやってくる。
 そんなもんか?
 諦めたら終わりだとか、そういう言われ方をされて育った記憶もあるけど。
「譲は?」
「イキナリなによっ、少しは私の心配をしてみろってんだ、この薄情者ーっ!!」
「お前が元気なのは今判ったから、譲は」
「コラーッ!!私なんてムチャクチャ心配してたんだからっ」
 笑ってる顔を見て、アイツも無事なんだってことくらいは判るけど。
「なんで俺の夢には譲が出てこねぇんだー。うがーっ」
 コイツと夢で逢うのは初めてってワケじゃない。熱を出して寝込んだ時、長い合宿で逢えなかった時、なんだかんだと夢に見ては言葉を交わしていた。
「吠えるな、アホ狼。出演料取るわよ?」
「うるせ。お前にこの寂しさが解ってたまるかっ」
 どうせ夢だからと油断して、うっかり話してしまったのが運の尽き。実の弟である譲自身に言えるはずもないソレを知っている、唯一の幼馴染み‥‥。
 しかし、なんで教室なんだ。
 いつもはもっとボヤッとした感じで、ただなんとなくクダラナイ会話をして終わりだったはずなのに。はっきりと、学校の教室。制服なんか着込んで‥‥馬鹿野郎、懐かしいじゃねぇか。さすがに今の俺には似合わないと判断したか、身体まであの頃のまま‥‥‥あの地獄のような日々は、全部夢だったのかと思えるようなお膳立てに苦笑する。
 しかし元々遭遇率の低い譲はどうあれ、望美にすら会えないってのは、正直、もうダメかと諦めてたところだった。
 三年、もう三年半か。
 望美も高校生のまま制服なんか着てるのが違和感ないのは、俺の中で時間が止まっているからだろうか。
「心配だったのは解るわよ。だけどそんなに大騒ぎする程じゃないでしょ、ったく、どんだけ譲くんに飢えてるのよ、ちょっと逢えなかったくらいで」
「ちょっとが三年半かっ」
「馬鹿ね。一週間も経ってないじゃない」

 クリティカルヒット。

「いっしゅうかん・・・・?」
 どういう意味だ。
「ちょ‥‥‥まさか、本当に‥‥」
 嫌な予感がした。
 夢ですら逢えなかった空白の時間。そもそも望美も譲も『この世界に存在しなかった』なんてことは‥‥無いとは言いきれねぇか。
「らしいな」
 詳しく話す時間も無いらしい。うっすらと世界が白呆けしていく。
「朝‥‥‥?」
 慌てて互いの位置を確認に入る。
 聞けば望美は、譲は‥‥京にいるという。それならと場所の指定をしてみるが、本当に会える確証は無い。
 それでも。
「大丈夫、逢えるわよ。ボーッとしてて。私が探し出してみせるから」

 消えかかる直前の言葉通り。
「将臣くん!!」
 振り向くなりデコピンをかましてくる仁王立ちの女が、ふてぶてしく笑った。
 
 
 
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[将譲]逢夢辻〜00〜

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【逢夢辻】〜プロローグ〜

『今、ドウシテル‥‥‥』
 無事を案ずれば、逢瀬の道が。
『コノ先ドウナル‥‥‥』
 先を案ずれば、予知の力が。

 過去も未来も今この瞬間も、思いのままに。

 ただし、見るだけですよ。
 わかりますか。
 何を見ても手出しはできないの。歯痒くとも心細くとも、変える力は神子様のもの‥‥それは違えることのできない古の約束。
 この力は道標‥‥。
 幼い貴方達に何も教えてあげることができないのは、とても残念だけど。

 無邪気に眠る三つの顔は、先に待ち受ける苦難も知らず、穏やかな時を刻む。

 幾通りもの未来。
 繰り返し繰り返す中に何が待ち受けているのか、もう私の力でも辿ることはできないけれど‥‥少なくとも、この力を守り通すことはできた。
 神子様を包むように眠る貴方達が、私の希望。


 一つ、お呪いをしてあげましょう。
 遠く険しい旅をする貴方達にとっては、ささやかすぎる御守りかもしれないけれど。

 これが私の最後の願い。
 これが私の最後の力。

 どれだけ遠く離れても、どれだけ長く途絶えても。
 いつかきっと。
 夢の辻で、逢えますように。
 
 
 
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[将譲]フライデー

 源氏の武将。最愛の幼なじみ。譲が大切にする、譲を大切にする、全ての存在から攫ってしまいたかった。
「兄さん、何するん‥‥っ」
「黙ってろ。舌噛むぜ」
 離れていた間も戦いが終わるまでも焦がれ続けていた心は、もうとっくに壊れていた。取り繕う必要も感じない。
 あの地獄のような戦火の中で、俺は誓ったんだ。
 もしも譲を失うことなく帰還できたら、その時はもう二度と我慢をしないと。
 絶対に手放さない。誰にもやらない。

 譲‥‥本気で抗えば、逃げることはできるだろう?
 それをしないお前が悪い。
 これがお前の返事だと決めつけて、攫ってくぜ。
「兄さん、降ろして‥‥恥ずかしいって」
「恥ずかしくなきゃいいのか?」
「‥‥‥っっ」
「誰も見てねーよ」
 いっそ見せびらかして宣言してやりてぇけどな。
 お前が俺のモノだってこと。
 それと‥‥俺の身体が、お前以外に反応しねーってこともだ。

「オアズケとか言うなよ。今度こそ発狂するぜ」

[将譲]激流

とりあえず書ききらないと他に行けないので、成就させてみた(笑)
譲は受けですよ?
だけど決定権をもってるのは譲だし、精神的にどっちが優位かって言われたら‥‥‥将臣は下僕でも満足みたいです(コラッ)

ここんとこ書いてた将×譲の「総まとめ」ってことで。



「どーすんだ?‥‥お前が嫌なら、無理強いはしない」
 無理強いなんざ『できないんだ』と素直に言うべきか悩んだ。
「兄さん‥‥‥」
 4回抱いた。
 初めは、明日をも知れぬ京。キツイ夢に錯乱状態だった譲が俺の腕を求めて、いっそそのまま殺されても構わない‥‥そんな覚悟で組み敷いた身体は、抵抗もなく。現実より酷い夢を忘れるために、痛みすら利用しているかのように乱れて震えた。そんな夜が二回。
 次は鎌倉。俺の正体に気付いた譲が、源氏に‥‥白龍の神子に、協力を求めて。のっけからそのつもりだったことも知らずに、その身を捧げてきた。まったく冗談がキツイぜ。嫉妬に狂って手酷く抱いた俺を恨みもせずに笑った顔は、忘れようにも無理な話だ。
 その次が‥‥こっちに帰ってきてからだったな。散々飲んで、ベッドも何も客人に明け渡した俺達が、何を思ったか倉庫の中でコトに及んでいたことなんざ、誰が知るはずもない。

 死の恐怖、勝利の代償、酒。
 そんな言い訳が一つもない状態でも、お前は俺を受け止められるのか?
 こんな平和な世の中で、モラルに縛られて。
 それでも‥‥俺を。
「意外と疑い深いんだ。‥‥知らなかったな」
 深く沈んだ声が、震えていた。
「譲、お前」
「こんなこと嫌に決まってるだろっ。組み敷かれて女みたいに感じればいいのかっ。それが気持ちいいから『もっとして』とでも言えばいいのかっ。そんなの‥‥そんな自分なんか、認めるわけない。兄さんが求めないなら、なにもあげない。身体も‥‥心も」
 泣くな。泣くな。泣くな‥‥ゴメン。
「欲しがったらくれるのか?」
「アンタが欲しがって手に入らなかったものなんか、一つでもあるのかよ」
 あるよ。お前とか‥‥‥‥他には‥‥。
「ないんだろうな」
「ほら」
「無いんだよ、お前以外に俺が欲しがったものなんか、初めから、たった一つも」
 アレもコレも記憶にあるものは全部、譲が欲しがったから価値があったんだ。泳げるようになりたいとか言い出したから、俺が教えてやりたくて必死で練習した。お前が望美のマネばかりしてたのと、大差ない。‥‥ただ少し、俺の方が器用で、年上で、やり方を知ってたから。
「俺は、お前が欲しかっただけだ」
 いつだって、こっちを見ろ!と念じてた。望美とセットでいなけりゃ、お前の視界から外れるくらい盲目にアイツばかり見ていた時も、ずっと。
「俺のものなんか何もない。お前が欲しがればお前のものになる」
 この命さえ。
「だから‥‥」
 そっと伸べた手に、ゆっくりと降りてくる体温。
「お前を」
「もう黙って。聞いてる方が恥ずかしい」
「譲‥‥?」
 肩から胸へと滑り落ちていく指先が、絡んだ糸を一つずつ解いていった。
 初めて譲から重ねられた唇。
 初めて許された、想い。

 二人して激流に足を取られたようにベッドへ沈みこんだ時、耳元でそっと零れた名前は‥‥甘すぎて、とても自分のものだなんて思えなかった。

[将譲]+知盛

一個前で知盛との絡みが気になるような声をもらったので、ちょっと落書き。
譲のことでグダグダになる将臣って楽しい。



「ハーーーーーーーーー‥‥‥」
 盛大に付いた溜息を許すように響く、皮肉気な笑い声。
「またご執心の弟君のことか」
「知盛か」
 変な奴だなーと思う。
 なにやら血生臭い刹那的なことばかりに興味があるのかと思えば、妙な所に聡い。
「クッ、そんなに正直に嫌がるな」
「別に嫌がってなんかねーよ」
 変な奴だけど信用はできる。
 悔しいことに、俺が何の遠慮もなしにクダラナイことを喋るのは、知盛と二人きりの時だけだった。
「‥‥わかってんだろ」
 ククッと喉の奥で笑って、スーッと細めた目で月を見る仕草。まるで野生の猫相手にグダまいてる気分になる。
「さあな。何も話していない奴が、何を理解しろと言う?」
「少なくとも俺がお前を邪魔にしてない事くらいは、解ってんだろ」
「歓迎もしていないことくらいなら」
「ばぁか」
 茶化されてばかりで本題に入れないが、コイツの言わんとすることは解る。腹に溜めて一人で溜息を吐くくらいなら、自分にも解るように中身を話せ‥‥そんで、少し楽になれ。そんな台詞は平家が消えても口にしないだろうけどな。
 素直じゃない‥‥解りづらい、優しさ。
 誰かに似てる。
 全然似てないはずのアイツに‥‥こんなとこだけ。
「血の‥‥繋がった、弟、なんだぜ?」
 興味なさそうに酒を飲む知盛は、聞き流すように視線を空へ投げる‥‥こういう気遣いが、俺の警戒心を無効化すると知って。
「今頃どーしてんだか。‥‥こっちの世界に流れ着いていたとして、生きてるかどうかすら判らねぇ」
「死んでいなければ?」
「さぁなー。実際に逢ったら何も出来ないんだろうけど。‥‥なんせアイツは望美に夢中だしな」
「欲しいなら、奪えばいい」
「そーゆーワケにもいかねぇだろ。健全な幸せを前にしてる弟を、こんな不毛な所に追い込むわけにも、な‥‥」
「同じ台詞を、明日死ぬと知っても言うか?」
「?」
「元居た世界は知らぬが、ここでは明日の命に保証がない。子孫など、行きずりの女でも残せる。要は‥‥お前が何を望むかだ」
「そそのかすな。必死で耐えてきたんだから」
「クッ。ご苦労なことだ」
 用は済んだとばかりに席を立つ後ろ姿を見送りながら、たった今壊された理性の屑を掻き集める。

 生きてるか、譲‥‥。

 逢いたい。逢いたくない。もしも逢えたとして、お前の目をまっすぐに見られる自信がねぇよ。‥‥今の俺は、獣みたいな目をしてるんだろう。
 気付かれたら。
 それを追求されたら、俺は自分を抑える理由すら無くしそうな気がする。泣いて抵抗しても離してやれない‥‥?
『やめろ、やめて、兄さ‥‥ん』
 ハァ
 馬鹿な妄想に思わず吐き出した吐息が、妙に熱くて。

 今夜は眠れそうな気がしなかった。

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