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[将譲]逢夢辻〜02〜

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【逢夢辻】〜02〜


 正直、少し苛ついていた。
 逢うなり親密なテンションでじゃれ合う二人に、やっぱり俺が入りこむ余地はないと見せつけられたような気がして。
 それにしても。
「兄さん、なのか‥‥?」
 なんで先輩は、それが兄さんだとすぐに解ったんだろう。いや、仕草とか口調とか、確かにそれは兄さんのものではあるけど。
「ああ。あの流れの中ではぐれたのが悪かったか、お前等より三年以上も前の京に流れ着いたらしくてな」
 三年以上?
「‥‥無事、だったのか」
 ホッとした反面、そうだコイツが簡単にくたばるわけがないと思えば、心配していた自分まで悔しい。心配していたより酷い目に遭っていたはずなのに、「まあな」なんて当然みたいに返してくる余裕が悔しい。

 三年間、俺の心配はしてなかったのか。

 ここへ付いてからの数日、ロクに夢見ることもできずに震えて過ごした夜を共有できたかと、ほんの少しだけ期待していた。『無事だったか。心配してたんだぜ?』‥‥期待しすぎないように、慎ましやかに想像していた兄さんより、よっぽど冷静で、無関心な現実のそれ。
 張り倒して逃げ帰りたいような気持ちを汲んでくれたのか、景時さんがそっと頭を撫でてくれる。‥‥やめてください、泣きそうだから。宥めるような指先に縋りたくなる自分がいる。
 フと、針のような視線を感じた。
 兄さん?
 ‥‥‥気のせいか。とても恐い目で見つめていたような気がしたけど。
 やめよう。考えると悲しくなる。
 無関心なだけだ。憎まれているとまで思えば、もう立ち直れそうな気がしない。

 所詮は昔から「ふたり」のオマケでしかない自分。
 物心ついた時から先輩の隣には兄さんがいて、兄さんは兄さんである前に、ライバルのような存在で‥‥。
 普通の兄弟みたいな絆が生まれるはずもない、か。
 今更だろう?
 自分に問いかけても、心のどこかで幼い自分が悲鳴を上げていた。
 先輩は俺が守ると心に決めたはずなのに、そんな空気も萎みきって、今は膨らむ前より悲しい姿。
 やっぱり先輩の隣には兄さんが似合う。
 俺よりずっと、兄弟みたいな二人。

 ともかく無事で良かったと。でなけりゃ先輩が心配するんだからと必死に自分を宥めて、現実から目を逸らした。
 
 
 
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