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【逢夢辻】〜03〜
「馬鹿じゃないの、アンタ馬鹿じゃないの、ってゆーか譲くんが超複雑そうな顔してたわよ、このトンチンカン!」
腹が立って仕方ない。
せっかく譲くんに会わせてあげたのにっ。本当は変態近親相姦ホモ兄貴になんか、大切な譲くんを触れさせることだって『勘弁してよ』と思うのに、それでも‥‥兄弟だし。譲くんは将臣くんのことムチャクチャ心配してたし。この馬鹿だって、あの時は、夢で逢ったあの時は、譲くんのコトばかり‥‥。
そうよ。あんだけ心配してたってのに。
「なんで座り込んでるのよ」
気付けば将臣くんは、怒り狂う私をモノともせず、机でバッタリとお昼寝ポーズ。
「なんか‥‥‥言いなさいよ」
打っても跳ね返ってこない将臣くんは、ちょっと不気味。どんだけ劣勢でも必ず打ち返してくるから、悪口もラリーになるんじゃない?
「約束通り譲くんには逢えたでしょ?」
「ん。‥‥サンキュ」
ちょっと待って。鼻声とか、反則。
馬鹿じゃないの?
なに、泣いてんのよ。
「譲‥‥‥‥‥生きてた‥‥」
あたりまえじゃない。譲くんが生きてないはずなんかありっこ、ない‥‥。
3年半。いったいどんな風に生きてきたんだろう。
ストレートに聞いたって、良いトコ取りで楽しそうなネタしか話してこないくせに、こんな所に滲み出る。
生きてた。
そうよ。私達、この世界に来たばかりだって言ったのに。
『だけどもう既に、怨霊に殺されかかって必死で戦って逃げてきた』
教えないわよ。言ったって心配するだけなんだから。
そういう無理をお互い積み重ねて。
こんな夢の中でさえ、素直になれなくて‥‥。
二人が素直になれないわけだ。
言わなきゃ伝わらないのに。無事で良かったって、ただ抱きしめたら良かったのに。混乱して感動してテンパって、何もできなかった‥‥‥頭の中は生きてた生きてた生きてたって優勝パレードみたいに大騒ぎだったくせに。
普通の顔して。
見事なまでに擦れ違って。
「馬鹿じゃないの?」
「‥‥‥だな」
擦れ違う二人をどうにかすることは、私にはできない。
それはこの十何年で嫌ってほど理解してる。
だから‥‥悔しいけど、見守るから。
「元気出しなさいよ。しばらく一緒にいられるんでしょ」
無防備な背中をパチンと叩くと、切ない笑顔が『サンキュ‥』と呟いた。
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