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【逢夢辻】〜04〜
「星の一族?」
なんだソレ。占い師かなんかか?
「だから、龍神の神子を‥‥先輩を守る血族のことだよ。居場所が判ったから」
やけに乗り気な譲は、八葉とやらに自分が選ばれたことが誇らしくてならないらしい。つーか望美が神子様って風情かよ。この世界に来てから、前より勝ち気になりやがって「必要だから」とか言いながら、真剣をブンブン振り回してる女を見て、守ってやろうなんて気力はすっかり削がれてる。
まあ、守ろうと思う気持ちに守られて、譲の安全は確保されるだろうが‥‥正直云えば、胸糞悪ぃ。同じ八葉の面子、特に四神が被るらしい景時なんざ、俺よりずっと兄貴らしい顔で常に傍にいて。
腹が立つ。
正直、あまり長くあっちを留守にする訳にもいかない。そろそろ心配性な奴等が痺れを切らす頃だと自覚はしてる、でも‥‥もう少しだけ、譲の傍にいたかった。
ワガママ、か。
子供みたいだな‥‥ったく。
しかたなく付き合った星の一族の屋敷で、妙な展開になる。
星の一族の継承者、菫姫。
それが俺達の婆さんだとか、そんな無茶な展開があるか?
なんかの怪奇現象を見てるようでゾッとした俺の隣、譲が今にも倒れそうな顔色で震えていた。目が合った望美に『なんとかしとけ』と目配せして、譲を強引に外へと連れ出す。
「なにするんだよ、兄さんっ」
「心配しちゃ悪ぃか。お前‥‥酷い顔色だぜ?」
ブンッと腕を払いのけられて、その酷い顔色を問い質すと、唐突に‥‥譲が謝りだした。小さな声で何度も謝りながら、混乱して頭を振る。
「ゴメン‥‥そんな、つもりは‥‥なくて。‥‥俺が、悪い‥‥っ」
泣き崩れる譲をわけもわからず抱きしめると、殺しきれない嗚咽の向こうで「俺が兄さんを切り離したのかもしれない。時空の狭間に置き去りにしたのかもしれない」‥‥そんなことを言う。
菫姫は、想いの強さで時空を越えた。
それが本当なら、そんな離れ業が俺達にもできるなら。
望美と二人になりたかった譲が、俺を切り離すこともできるのか?‥‥いや、傍にいてもアイツばかりを見つめている譲を、そんな二人を見てるのがイイカゲン限界だった俺自身が、その手を離した。‥‥‥そっちだろう。
「泣くな、譲。それならそれでも構わねぇ。お前が自分を責める必要はないんだ」
どっちにしても起きてしまったこと。
譲がそれで幸せだというなら、それはそれでいいじゃないかと切り替える。
どうせ叶うはずのない想い。
お前の幸せと引き替えになら、喜んで捨ててやる。
「帰るぞ」
凭れていた身体をそっと突き放そうとすると、でかい手に腕を掴み上げられる。
なんだ?
「どこにも行くなよ」
「アイツラの所に帰るんだろ?」
「そうじゃない。そのあと‥‥どこか遠くに行きそうな気がしたから」
罪悪感ならイラナイ。
一番素直なお前の気持ちが、俺に消えろと命じているなら‥‥それでいいじゃねぇか。
「俺にも帰る場所がある。それがお前等と同じ場所である必要はねぇだろ?」
実際、今すぐ白龍が帰り道を用意した所で、アイツラを投げて帰るわけにもいかない。日本人には『一宿一飯の恩』ってのがあんだよ。そのくらい理解しろ。
「兄さんは八葉だろ!?」
「んなもん関係あるかっ。お前が思うほど、俺はアイツに執着してねぇから安心しろ!」
執着してるのは‥‥クソッ、言えるか。
全てを放棄して歩き出した俺の背に、血を吐くような声が届く。
「 」
何を言われたのか、理解できなかった。
んなわけねぇ。
そんな都合の良い話があってたまるかよ。
キンと遠く響く耳鳴りの向こう、振り返ることもできない俺を、譲の声が追いかけてきた。
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