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[将譲]+知盛

一個前で知盛との絡みが気になるような声をもらったので、ちょっと落書き。
譲のことでグダグダになる将臣って楽しい。



「ハーーーーーーーーー‥‥‥」
 盛大に付いた溜息を許すように響く、皮肉気な笑い声。
「またご執心の弟君のことか」
「知盛か」
 変な奴だなーと思う。
 なにやら血生臭い刹那的なことばかりに興味があるのかと思えば、妙な所に聡い。
「クッ、そんなに正直に嫌がるな」
「別に嫌がってなんかねーよ」
 変な奴だけど信用はできる。
 悔しいことに、俺が何の遠慮もなしにクダラナイことを喋るのは、知盛と二人きりの時だけだった。
「‥‥わかってんだろ」
 ククッと喉の奥で笑って、スーッと細めた目で月を見る仕草。まるで野生の猫相手にグダまいてる気分になる。
「さあな。何も話していない奴が、何を理解しろと言う?」
「少なくとも俺がお前を邪魔にしてない事くらいは、解ってんだろ」
「歓迎もしていないことくらいなら」
「ばぁか」
 茶化されてばかりで本題に入れないが、コイツの言わんとすることは解る。腹に溜めて一人で溜息を吐くくらいなら、自分にも解るように中身を話せ‥‥そんで、少し楽になれ。そんな台詞は平家が消えても口にしないだろうけどな。
 素直じゃない‥‥解りづらい、優しさ。
 誰かに似てる。
 全然似てないはずのアイツに‥‥こんなとこだけ。
「血の‥‥繋がった、弟、なんだぜ?」
 興味なさそうに酒を飲む知盛は、聞き流すように視線を空へ投げる‥‥こういう気遣いが、俺の警戒心を無効化すると知って。
「今頃どーしてんだか。‥‥こっちの世界に流れ着いていたとして、生きてるかどうかすら判らねぇ」
「死んでいなければ?」
「さぁなー。実際に逢ったら何も出来ないんだろうけど。‥‥なんせアイツは望美に夢中だしな」
「欲しいなら、奪えばいい」
「そーゆーワケにもいかねぇだろ。健全な幸せを前にしてる弟を、こんな不毛な所に追い込むわけにも、な‥‥」
「同じ台詞を、明日死ぬと知っても言うか?」
「?」
「元居た世界は知らぬが、ここでは明日の命に保証がない。子孫など、行きずりの女でも残せる。要は‥‥お前が何を望むかだ」
「そそのかすな。必死で耐えてきたんだから」
「クッ。ご苦労なことだ」
 用は済んだとばかりに席を立つ後ろ姿を見送りながら、たった今壊された理性の屑を掻き集める。

 生きてるか、譲‥‥。

 逢いたい。逢いたくない。もしも逢えたとして、お前の目をまっすぐに見られる自信がねぇよ。‥‥今の俺は、獣みたいな目をしてるんだろう。
 気付かれたら。
 それを追求されたら、俺は自分を抑える理由すら無くしそうな気がする。泣いて抵抗しても離してやれない‥‥?
『やめろ、やめて、兄さ‥‥ん』
 ハァ
 馬鹿な妄想に思わず吐き出した吐息が、妙に熱くて。

 今夜は眠れそうな気がしなかった。

[将譲]ソフトクリーム

「おっと、手が滑った」
「なっっっ」
 何をするんだ!!
 大声で怒るには、周りに子供が多すぎる。
「譲くん、大丈夫?‥‥拭くもの、拭くものっ」
「いえ、そこの水道で顔を洗ってきますから、いいですよ」
「うん? 使ってくれるでしょ?」
 先輩の差し出したものがハンカチじゃなくてスポーツタオルだと確認して、少し柔らかい気分になる。
「クッ。しかしイイ顔だな。女だったらAVに出られそうだぜ?」
 腹立たしく見上げた笑顔に、恥ずかしげもなく浮かんだ欲望の色。
 このクソ暑い最中に何を考えてるんだ、万年発情期め。
「そーいや、あっちでリズ先生が呼んでたぞ?」
「あ、いっけない!! 譲くん、タオル明日返してくれればいーからねーっ」
 慌ただしい後ろ姿を見つめていたら、いつの間にか距離を詰めた唇が、耳元で囁いた。
「‥‥嫉妬させて、楽しんでるのか?」
 馬鹿言うな、と見上げた顔が妙に真剣で、噴き出しそうになる。
 まったく。‥‥勝てそうな気がしない。

「ほら、早くアイス食べちゃってよ。‥‥責任持って着替えさせてくれるんだろ?」
 ふう、と大きな溜息。
「それでも誘ってないとか言うんだろ?」
「あたりまえだろ」
 ツンとすまして歩き出すと、大人しく後ろを付いてくる。
 こんな時はちょっとだけ気分が良い。
 ナチュラルに王様で俺様な奴‥‥だけどなんだか俺を求める時だけ気味悪いくらい素直で、初めの頃はそれが気持ち悪くてたまらなかったのに。
「譲‥‥」
 玄関の扉が閉まった途端、後ろから強く抱きしめられる。
 バカだな、俺は男だぞ。
 呆れかえって吐いた溜息を笑いながら、髪に何度もキスをして、首の付け根に擦り寄ってくる。
 本当にバカだ、しかも血の繋がった弟だってのに。
 こんな時、ふと考える。

 兄さん‥‥‥本当は、京で何があった?

 俺達とはぐれた空白の3年間が兄さんを変えた。
 あの時空で再会した時から感じていた違和感。それはイキナリ老け込んだせいだと思ってたけど、違う。今なら判る。あの時感じた違和感は。
「‥‥‥ぅん‥っ」
「また、何考えてんだ。‥‥‥アイツのことか?」
「違‥‥、‥んぁあっ」
 このバカは、こともあろうか先輩に嫉妬してたんだ。
「お前が誰を想おうが何を考えようが、そんなのは俺の口出しできることじゃねーけどな‥‥せめてコンナコトしてる時くらい、俺を感じてろよ」
「うああああああぁっっ」
 余裕な仮面。
「熱‥‥っ」
 一皮剥いたら、嫉妬深くて、心が狭くて。
「あ、あ‥‥あ、兄さ‥‥」
 俺の顔をチラリとも見なかったのは、心配してなかったからだと思ってたのに。
「‥‥‥悪ぃ、キツかったか」
 俺がその腕に落ちた後も、こんなに、こんなことすら、焦って‥‥上手く運べないほど焦って。
 バカみたい。
 カッコ悪い。
「いいよ‥‥早く、動け‥よ‥‥っ」
「サンキュ」

 今 の 兄 さ ん は、ま る で 俺 の 下 僕 み た い だ。

「ア、其処‥‥んっ、イイ‥ッ」
「譲‥‥譲‥‥!!」
 ちょっとでも反応した所をバカの一つ覚えみたいに打ち抜いて、俺の反応を待ってる。
「アー‥‥」
 声でも出してやろうかとか。わざとらしく反応してやろうかとか。
 バカみたいなこと、考えるくらいには‥‥絆される。


 力が抜けた身体を大事そうに抱える腕を好きにさせて。
 見知った階段も廊下も、まるで他人事に眺めながら通り過ぎる。
「置いてくな‥‥よ」
「バカ。ここにいたら俺がサカるぞ?」
「‥‥‥いいんだ、よ‥」
 なんだか現実味のない二人。
 それは兄弟として積み上げた時間より、あそこで壊れた分がデカかったからだと決めつけて、背中に爪を立てる。
「ハ‥‥‥ッ‥‥」

「‥‥暑さのせいってことにしとくか」

[景譲]甘い指

譲葉のラクガキ祭りに乗った話


 譲くんにとって誰が大切かなんて、俺が考えるべき事じゃない。
 わかってる。
 譲くんの心は生まれた時から‥‥いや、その血筋を思えば、生まれる前から定められているようにすら思えるほど。
 なんでこれほど解りやすい話を、割り込んだ俺なんかがひっくり返せると思うのか。
 いや‥‥‥思ってない。何も信じてない。
 譲くんが俺を好きだと言うたびに、心が悲鳴を上げてる。
 信じたい。信じられるはずもないのに。
 もう、気が触れそうだ。
「ハ‥‥‥景時、さんっ」
「ダメだよ譲くん、声を出したら望美ちゃんにバレちゃう」
「だから、今は。‥アッ‥」
「困った子だね。ほら、口開けて‥‥噛みついたりしないでね?」
 クチュクチュと誘うような水音を立てながら、だけど正気を手放せない君。可哀想に、そんなに神経を研ぎ澄ませて‥‥なのに、どうして俺を拒まないの?
 そんな君の仕草にまで、余計な期待を煽られる。
 俺が好きだというなら耐えてみせて。
 薄い扉一枚隔てた所に居るはずの、君の「運命の人」を意識しながら、嫉妬深い俺に君の全てを捧げてみせて。
 優しい君の言葉は信じられない。
 こんなちっぽけな男を、それでも愛してる証をちょうだい。

 ゴメンね‥‥愛してる。


「‥‥つっ」
「あっ、すみません、景と‥‥んんっ」
 謝る言葉など聞きたくないと言わんばかりの唇に、噛みつくように犯される。
「悪い子だね。‥‥いくら俺でも、こんな場所でここまでする気はなかったけど」
 口内を蹂躙されながら、ゆっくりとファスナーを下ろされて、景時さんの意図を知る。離れた唇に耳朶を噛まれて、ヒュッと息を飲んだ俺を笑う、吐息。
「このまま犯しちゃおうかな」
 耳に滑りこむ言葉は、かろうじて保っていた理性をズブズブと溶かすように響く。
「ねえ、譲くん。‥‥誘ってるの?」
 理不尽な問いに、ハイと頷きそうになる。
「否定してよ。何も言わないと、勘違いしちゃいそうだよ」
 切ない声で呟きながら、俺の中に沈みこむ貴方。
「ァ‥‥‥‥ァ、ァ、ァ‥‥」
 快楽に煽られて酸欠状態の俺は、浅い呼吸を繰り返して、貴方を受け入れることだけに集中する。
 扉の向こうに聞こえぬように、必死で気配を殺しながら。

 だってこの扉が開いたら。
 先輩や仲間に、この関係がバレたりしたら。

 貴方は‥‥消えてしまうでしょう?

[景譲]台風de景譲〜景時バージョン

台風バトンのお遊びを、長々とやってみた(笑)
今回は景時さんが熱を出してます。(→譲くんバージョン)


 外は物凄い暴風雨。
「景時さん、聞こえてますか?」
「ん〜。もちろんだよ、譲くん」
 今日は世に言う『デート』ってやつの約束をしてたんだけど。
 正直「ちょっと助かったな〜」なんて思ってる。
 だってこんな日に限って役立たずの身体は熱なんか出して、ずーっと逢えなかった久しぶりの休みを自分で潰してる。‥‥ガッカリだよね。
 譲くんの凹んだ声なんか聞きたくないよ。
「残念だけど、来週だね〜。楽しみにしてるからさ♪」
 込み上げてくる咳を必死で堪えて、明るい声を出す。
「あれ?大丈夫ですよ、景時さん。えっと‥‥言いませんでしたっけ。俺、車の免許を取ったんですよ。もう高校も卒業ですから、その、景時さんと、もっと一緒にいたくて‥‥」
 合格したんだ〜、おめでとう!!
 そんな言葉を普通にかけられない、この青ざめた顔をどうしたらいいのか。
「え、あ、そ‥‥そう、なんだ」
「ええ。‥‥あ、でも初心者なのに悪天候で貴方を乗せるのは怖いな。とりあえず、今から行きますから」
「だ、ダメ!!!」
「大丈夫ですよ。これでも買い物くらいなら乗ってますし、天気の悪い日だって」
「ダメだよ、譲くん」
「信用無いなぁ‥‥。だけど俺、行きますから」
「譲く‥‥ゲホッゲホッ」
「そんな大きな声張り上げてもダメです。今日はどうしても貴方に逢うって決めてたんです。‥‥耐えられないんだ、貴方が居ない毎日なんて」
「ゆ、ずる‥‥く」
 一度許してしまった咳は、もう飲み込みきれないところまで押し寄せていた。
 こんな時、一番傍にいてほしくない人が。
「切りますよ。ちゃんと待っててくださいね?」

 ツーツーツー‥‥


 ガチャン

 玄関の鍵が開く音。なかなか使う機会のない合い鍵が、変な時に役立つ。
 だって今呼び出されても、玄関に出ていく余裕すらない。
「景時さん‥‥!?」
 止まらない咳をタオルに吸わせながら、布団を抱えている。
 まさかこんな姿を君に見せることになるなんて、情けなくて涙が出そうだ。
「どうして、こんな‥‥っ、バカじゃないんですか!!!!!どうして、どうして俺を呼んでくれない‥‥っ」
 言葉に詰まったのは、泣いてるせいだろう。
 視線を上げなくても語尾に混じった嗚咽が教えてくれる。
 謝りたいわけじゃない。
 こんな状況で言い訳もあったもんじゃない。
 だけど。
「譲‥‥くん‥」
 こんなに狭い部屋で、互いに一人きりになってる身体を、抱き寄せたかった。
 つまらないワガママで君を孤独にさせちゃうのが、なんだか悲しくて。
「本当に‥‥っ、貴方は、バカです」
「うん」
「強がるのも大概にしてくださいっ」
「うん」
「二度と信用しませんからねっ」
「うん」
「こんなこと、もう絶対に許しませんからねっ」
「うん」
 大きな声で怒りながら、身を起こしていた俺の身体を押し戻すように横になって、ピッタリと寄り添ってくれる。
 あれほど辛かった寒気がゆっくりと落ち着いてきて。
 背中をさする手に、咳まで引いてきて。
 混沌とした記憶の中。まるで小さな昔に戻ったような錯覚を覚えていた。


 呼吸が落ち着くと、布団からそっと出て、無言で何かを作り始めた譲くん。
 美味しそうな粥の匂いが部屋を満たす頃には、驚くことに食欲まで戻っていた自分の身体が信じられずにいる。
「残してもいいですけど、少しでも食べてください。‥‥ここ数日、何も食べてなかったんでしょう。キッチンが大変なことになってましたよ」
 優しい声でお小言を続ける声に混じって、動き出した腹が驚くほどデカイ音を出す。
「‥‥はは‥」
 苦笑いしか出てこない。
「いいですよ、ゆっくり食べてください。俺は少し、あっちを片づけてきますから」
 珍しく声を荒げてしまったせいか、バツが悪そうに見せた後ろ姿が‥‥‥なんだか無性に、愛しくて。
「譲くん」
 感謝なんかしてないよ。
 こんな俺を君に見せたくなんかなかったんだよ。
 だけど‥‥。
「景時、さん‥?」
 ゴメンね。
 心の何処かで、君を心配させて喜んでる俺がいる。君を怒らせて泣かせたことに幸せになってる俺がいるんだよ。‥‥‥最低だね。

 引き寄せて抱きしめた腕の中。
「仕方のない‥‥人だなぁ」
 呆れたように、優しい声が笑った。


 バアン!!

 物凄い風に煽られて、何か大きなモノが窓を直撃したらしい。
 いつの間にか眠っていた俺は反射的に飛び起きて、強い腕に引き戻された。
「大丈夫ですよ‥‥もう少し眠ってください」
 あ‥‥。
 いつの間にそんなことになったのか、どうやら譲くんの腕の中で眠っていたみたい。
 いいのかな‥と顔を覗き込むと、少し照れて赤くなって。
 ギュッと抱き寄せてくれる。
「今日は俺の好きにさせてもらいます。貴方の場所は、ここです」
 ありがと、なんて掠れた声でお礼を言うのもなんだから、譲くんの胸に耳をつけてキュッと抱きしめてみた。
 トクン、トクン‥‥と、強く規則的な音に誘われるように瞼が下りて‥‥なんだか物凄く贅沢な休日を過ごしている気分になる。


 なんだか調子が狂うね〜。
 熱はすっかり引いて、身体は楽になったけど。
「少し楽になりましたか?‥‥それじゃ俺、何か食べ物を仕入れてきますね」
 あんまりベタベタに甘やかされて、今日は妙に甘えたな気分。
「行かないでよ‥‥ね、今日は傍にいて?」
 いいよね。
 君のせいだからね。
 クスクス笑って腰に絡みつくと、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で言葉を失ってる。
「1日くらい食べなくても死なないよ〜。ね、譲くんが食べたいな」
「な、何を調子に乗っているんですかっ。そそそんなことをしたいなら、ちゃんと風邪を治してくださいっっ」
「治ったら、いいんだ?」
 わざと無邪気に「わーい♪」なんて抱きついたら、情けない溜息を吐いて頭を抱き返した。
「景時さん‥‥‥どうしちゃったんですか‥‥」
 だからさ。君のせいなんだってば。

 あんまり‥‥弱味をみせたくなかった。
 理由なんか考えてなかったけど、それはたぶん向こうの世界から引きずってきた、俺の弱点。‥‥もう、いいんだよね。たまにはこんな風に甘えてみても。
 君が、受け止めてくれる。
 だからたまには着込んでたものを全部降ろして、君に寄りかかってみたいな。

 ポツリポツリと呟いた言葉に、一瞬泣きそうな顔をして。
「あたりまえじゃないですか‥‥」
 俺を包みこんだ優しい腕が、困ったように呟いた。


 すっかり甘えた〜な気分だった俺は、譲くんの膝枕でTVを見て、食事の時は照れる譲くんに「あ〜ん」を強制して、その反応を見ては一々ご満悦だった。
「帰っちゃうの‥‥‥?」
 時計を気にしだした譲くんを抱きしめると、嬉しそうにフワッと笑って耳元にキスをくれる。
「さっき兄貴の携帯に外泊宣言しちゃいましたから‥‥帰る場所が、ないんです」
 悪戯っぽく笑う譲くんにキスの雨を降らせながら。
「ね‥‥‥高校を卒業したら、ここに帰ってこない?」
 こっちの世界に来てから、朧気に考えていたことを。
 だけど全部見せるには少し怖くて‥‥今日みたいに『強がりたい病』が出た時に、自分の首を絞めるような気がして、切り出せずにいたことを。
 音に乗せてみる。
「いいですよ」
 あっさりと言った譲くんに驚く俺を、真摯な眼差しが射抜いた。
「貴方を一人にしておく度胸が削がれました。‥‥今日だけじゃないでしょう。俺は今までに何度も、こんな貴方を見過ごしてきたんだ。そういうの‥‥もう、やめにしましょう」
 そっと重ねられた唇は、まるで何かの誓いのようで。

「俺は、もう二度と貴方を独りにしない」 

 添えられた台詞に、逆らう術など無かった。
「うん‥‥‥そうだね」
 それはまるで、一生添い遂げると神に誓う儀式のように。
 どんな愛の言葉より、深く‥‥。

[景譲]台風de景譲

ちょっと実験(笑)
「台風バトン de 景×譲」
どっちが倒れても駆けつけてくれると思うけど、高熱の譲は美味しそうなので、ひとまず景時さんに頑張ってもらいましょう(笑)
んなわけで、譲一人称。



1. 大型の台風が近づいてきました。こんな時に貴方は風邪をひいてグッタリ。さあ、傍にいてほしいのは、ズバリ誰?

 台風、なのか。どおりで外が騒がしいわけだ。
「嫌だな‥‥独りの時に限って‥」
 久々に熱なんか出したから、少し弱気になってるのかもしれない。
 母さんは父さんの出張についていってるし。兄さんは‥‥先輩と、泊まりがけの旅行だかなんだか、いまさら嫉妬なんかしないけど。
 はぁ‥‥。
「‥‥景時さん」
 ポツリと呟いて、納得した。
 傍にいてほしい人がいる。それが、俺の孤独の正体。


2. 気持ちが通じたか、なんとこんな大雨の中を駆けつけてくれました。ずぶ濡れの彼に、貴方は?

 突然響いた音楽に胸が躍る。これは景時さんからの電話の着信音。一瞬でカラカラに渇いた喉に戸惑いながら、ボタンを押す。
「もしもし」
「あれ‥‥? なんか声が変だよ、譲くん。‥譲くん、だよね?」
「あ、大丈夫です。ちょっと風邪引いちゃって」
「風邪!?〜〜あのさ、そういうの大丈夫って言わないよ。家には誰か居るの?」
「いえ‥‥今夜は、家を空けていて」
「えええっ、譲くん、独り!?」
「だ‥」
 大丈夫と言おうとして、言葉に詰まった。確かにこういうのは『大丈夫』とは、言わないかもしれない。
「とにかく温かくして、横になっててね」
 いきなり切れた電話を見つめる。
 まさか‥‥‥な。
 物凄い風に煽られて窓に叩きつけられた雨粒を見つめる。
 まさか、いくらなんでも、こんな日に。
「はは。もう少し‥‥話していたかったな‥」
 逢いたいと思う。それが子供じみたワガママなのは自覚してるのに、それでも、こんな日は。
「‥‥‥‥景時さん」
 ピンポンッピンポンッピンポンッ
 鳴り響いた玄関のチャイムに飛びつくようにドアを開ける。
「譲くん、待った〜?」
 髪から滴り落ちる雫が、顎のラインをなぞるように滑り落ちていく。
 どうして来たんですか。
 こんな日に。何もこんな日に限って。
 叱りつけたいくらいなのに、酷く嬉しくて‥‥。
「馬鹿‥‥っ」
 濡れるのもかまわずに、首にしがみついていた。


3. 何度も言いますが、貴方は風邪でフラフラです。彼はどんな様子ですか?

「すごい熱だよーっっ」
 俺を支えたままで服をあらかた脱ぎ捨てた景時さんに、有無を言わさず寝室に運ばれて。ありがとうも何も言えないまま、布団に押し込まれた。
 教えてもいないのに、パッと替えのパジャマを見つけだして、何も言わずに俺の服を剥いていく手が、少し‥‥怖い。
「自分ででき‥」
「黙ってて。俺、少し怒ってるんだよ、譲くん」
 なんとなく、そんな気がしてた。
 無口な景時さんは、少し怖い。
「すみません‥‥」
「こんなに辛いなら、なんで電話くれないのかな〜。俺ってそんなに頼りない?」
 覗き込んだ瞳に浮かぶ優しさが、酷く胸に痛かった。
「まったく‥‥今度将臣くんに会ったら怒っちゃうからね。こんな時に人に縋れないなんて、お兄ちゃんのせいに決まってるでしょ」
 広げた腕に包まれて、幼い自分が嗚咽をあげる。
 背伸びばかりしてた自分が、はりぼての人形みたいに‥‥脆く崩れていくようで。
「景時さ、ん‥‥っ」
 なんだか妙に切なくて。
「これからは俺が甘やかしちゃうからね。断っても聞かないよ?」
 強引な腕の中で、昔失くした何かに、初めて‥‥気付いた。


4. ガタガタガタッ。暴風雨で揺れた窓に驚いて(驚いたフリをして‥‥でもいい)相手にしがみついてみます。反応は?

 突然鳴り響いた音に、浅い眠りから飛び起きて彷徨った手は、隣にある体温に触れて力を失う。
 隣にある身体。大切な貴方の熱。
「起きちゃった? 大きい音だったもんね。‥‥ほら、もっと傍においで」
 嘘みたいに優しい声に甘えて、子供みたいに擦り寄ってみる。
 たぶん熱のせいだから‥‥今だけ‥。


5. 熱が引いてきました。そんな貴方を見て帰宅しようとした彼を、引き止めたら‥‥?

 一眠りしたら、ガッカリするほど呆気なく熱が引いた。
「もう大丈夫かな。‥‥帰ってもいい?」
 あっさりとした言葉に思わず見上げると、景時さんは試すような笑顔で俺を見つめていた。
 ちゃんと自分で言えってこと‥‥だよな。
「傍に、いてください」
「ん〜?聞こえないよ、もっとハッキリ言って?」
 どうしても恥ずかしくて、顔が見えないようにしがみつく。
「景時さん。もう少し‥‥俺の傍に居て‥くれませんか」
 よくできましたと言うように、クシャクシャと髪を撫でた手が、そのままキュッと頭を抱き寄せた。
「もちろんだよ。譲くんが望むだけ、あげるからね」


6. 雨も酷いので、結局その日は泊まっていく!?ことに。‥‥眠れましたか?

 狭いベッドで横になる。
 ピッタリと肌を寄せ合って‥‥さっき少し眠ったせいか、眠気はどこかへ行ってしまった。
 ドク、ドク、ドク。
 景時さんの鼓動が酷く心地よくて。
 ドク、ドク、ドク。
 自分の心臓が馬鹿みたいにうるさくて。

 ‥‥‥このまま眠れなくても、いいかな‥‥。

 気付かれないように身を寄せて、腕の中で甘えて。
 むず痒いような優しさを楽しむように、そっと目を閉じた‥‥。

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