ちょっと実験(笑)
「台風バトン de 景×譲」
どっちが倒れても駆けつけてくれると思うけど、高熱の譲は美味しそうなので、ひとまず景時さんに頑張ってもらいましょう(笑)
んなわけで、譲一人称。
1. 大型の台風が近づいてきました。こんな時に貴方は風邪をひいてグッタリ。さあ、傍にいてほしいのは、ズバリ誰?
台風、なのか。どおりで外が騒がしいわけだ。
「嫌だな‥‥独りの時に限って‥」
久々に熱なんか出したから、少し弱気になってるのかもしれない。
母さんは父さんの出張についていってるし。兄さんは‥‥先輩と、泊まりがけの旅行だかなんだか、いまさら嫉妬なんかしないけど。
はぁ‥‥。
「‥‥景時さん」
ポツリと呟いて、納得した。
傍にいてほしい人がいる。それが、俺の孤独の正体。
2. 気持ちが通じたか、なんとこんな大雨の中を駆けつけてくれました。ずぶ濡れの彼に、貴方は?
突然響いた音楽に胸が躍る。これは景時さんからの電話の着信音。一瞬でカラカラに渇いた喉に戸惑いながら、ボタンを押す。
「もしもし」
「あれ‥‥? なんか声が変だよ、譲くん。‥譲くん、だよね?」
「あ、大丈夫です。ちょっと風邪引いちゃって」
「風邪!?〜〜あのさ、そういうの大丈夫って言わないよ。家には誰か居るの?」
「いえ‥‥今夜は、家を空けていて」
「えええっ、譲くん、独り!?」
「だ‥」
大丈夫と言おうとして、言葉に詰まった。確かにこういうのは『大丈夫』とは、言わないかもしれない。
「とにかく温かくして、横になっててね」
いきなり切れた電話を見つめる。
まさか‥‥‥な。
物凄い風に煽られて窓に叩きつけられた雨粒を見つめる。
まさか、いくらなんでも、こんな日に。
「はは。もう少し‥‥話していたかったな‥」
逢いたいと思う。それが子供じみたワガママなのは自覚してるのに、それでも、こんな日は。
「‥‥‥‥景時さん」
ピンポンッピンポンッピンポンッ
鳴り響いた玄関のチャイムに飛びつくようにドアを開ける。
「譲くん、待った〜?」
髪から滴り落ちる雫が、顎のラインをなぞるように滑り落ちていく。
どうして来たんですか。
こんな日に。何もこんな日に限って。
叱りつけたいくらいなのに、酷く嬉しくて‥‥。
「馬鹿‥‥っ」
濡れるのもかまわずに、首にしがみついていた。
3. 何度も言いますが、貴方は風邪でフラフラです。彼はどんな様子ですか?
「すごい熱だよーっっ」
俺を支えたままで服をあらかた脱ぎ捨てた景時さんに、有無を言わさず寝室に運ばれて。ありがとうも何も言えないまま、布団に押し込まれた。
教えてもいないのに、パッと替えのパジャマを見つけだして、何も言わずに俺の服を剥いていく手が、少し‥‥怖い。
「自分ででき‥」
「黙ってて。俺、少し怒ってるんだよ、譲くん」
なんとなく、そんな気がしてた。
無口な景時さんは、少し怖い。
「すみません‥‥」
「こんなに辛いなら、なんで電話くれないのかな〜。俺ってそんなに頼りない?」
覗き込んだ瞳に浮かぶ優しさが、酷く胸に痛かった。
「まったく‥‥今度将臣くんに会ったら怒っちゃうからね。こんな時に人に縋れないなんて、お兄ちゃんのせいに決まってるでしょ」
広げた腕に包まれて、幼い自分が嗚咽をあげる。
背伸びばかりしてた自分が、はりぼての人形みたいに‥‥脆く崩れていくようで。
「景時さ、ん‥‥っ」
なんだか妙に切なくて。
「これからは俺が甘やかしちゃうからね。断っても聞かないよ?」
強引な腕の中で、昔失くした何かに、初めて‥‥気付いた。
4. ガタガタガタッ。暴風雨で揺れた窓に驚いて(驚いたフリをして‥‥でもいい)相手にしがみついてみます。反応は?
突然鳴り響いた音に、浅い眠りから飛び起きて彷徨った手は、隣にある体温に触れて力を失う。
隣にある身体。大切な貴方の熱。
「起きちゃった? 大きい音だったもんね。‥‥ほら、もっと傍においで」
嘘みたいに優しい声に甘えて、子供みたいに擦り寄ってみる。
たぶん熱のせいだから‥‥今だけ‥。
5. 熱が引いてきました。そんな貴方を見て帰宅しようとした彼を、引き止めたら‥‥?
一眠りしたら、ガッカリするほど呆気なく熱が引いた。
「もう大丈夫かな。‥‥帰ってもいい?」
あっさりとした言葉に思わず見上げると、景時さんは試すような笑顔で俺を見つめていた。
ちゃんと自分で言えってこと‥‥だよな。
「傍に、いてください」
「ん〜?聞こえないよ、もっとハッキリ言って?」
どうしても恥ずかしくて、顔が見えないようにしがみつく。
「景時さん。もう少し‥‥俺の傍に居て‥くれませんか」
よくできましたと言うように、クシャクシャと髪を撫でた手が、そのままキュッと頭を抱き寄せた。
「もちろんだよ。譲くんが望むだけ、あげるからね」
6. 雨も酷いので、結局その日は泊まっていく!?ことに。‥‥眠れましたか?
狭いベッドで横になる。
ピッタリと肌を寄せ合って‥‥さっき少し眠ったせいか、眠気はどこかへ行ってしまった。
ドク、ドク、ドク。
景時さんの鼓動が酷く心地よくて。
ドク、ドク、ドク。
自分の心臓が馬鹿みたいにうるさくて。
‥‥‥このまま眠れなくても、いいかな‥‥。
気付かれないように身を寄せて、腕の中で甘えて。
むず痒いような優しさを楽しむように、そっと目を閉じた‥‥。