2010/11/22/(Mon)07:58
|
※ほとんど一発書き日記で九弁小話2・6話目
[8/22 00:10am ]
弁慶がすっかりと食べ終わってしまった頃に、九郎の注文した夜食がやってきた。 「……これはまた、大層なものを選びましたね」 九郎の前にどん、と置かれたのは天ぷら(ざる)蕎麦セットだった。 「長期戦になるんだろう?」 「確かに、そうですが」 始発が動くまでここにいることになる九郎たちは、最低でもあと5時間は起きていなければならないだろう。だったらこれくらい食べても平気な筈だ、と、九郎は思った。それに、蕎麦なら夜中にも食べやすくていいと思ったのだ。 「いただきます」 つゆに薬味を入れて、さっそくずるずると食べ始めた。やっぱり蕎麦を選んだのは正解だった。店内はエアコンが効いていてかなり快適だったけど昼間や花火大会の直前くらいまでは相当暑かったし、なんだかんだ、散々歩き回っていたので疲れていたらしい九郎からすれば、すんなり食べられて、美味しいと思えた。 弁慶はそんな九郎を、なんだかとても物欲しそうに見ていた。 「おいしそうですね、ふふ、よかったですね九郎。羨ましいな」 「……さっき食べたばかりだろう」 「あれはあれ、これはこれ、ですよ」 「あ!」 そして九郎が蕎麦をすすっている隙を見て、さっと海老天を、よりにもよってフォークでつきさしてかっさらった。 「お前!」 「ほひしほうだったので」 「食べながら喋るな!」 口端から海老の尾をはみ出させたまま弁慶は言う。それは随分と無邪気な様に見えた、ちょっと可愛い、とも思ったが、なんとなくそれで騙されたら負けなような気がしたので九郎は引かない。 「……俺にはくれなかったくせに」 けれど弁慶も……あっという間に海老天を胃袋に流し込んで、更ににこにこと返した。 「僕は君に、ちゃんと差し出したでしょう? 食べなかったのは君ですよ」 「あっ、あれは!」 言われてみれば、確かに弁慶は九郎に分けてくれようとした。だけどあんな風に食べさせてもらう形になるのは……家の中だったらいいのかも、しれない、けどここではかなり恥ずかしい。しかも、弁慶のことだ、九郎が食べられないのまでお見通しでやっていたに違いないんだ。 と、そこまで考えて、九郎はいい事を思いついた。 だったら同じことをやってやればいいじゃないか。 ということで、九郎は茄子の天ぷらを箸で掴んで、弁慶の前に差し出した。 弁慶は少し目を丸くした。これでどうだ、と思ったけれど、そんなのは束の間だった。彼は九郎の方へずい、と顔を近づけ、かすかに目を伏せ唇を開き、 ぱくり、と、なんの戸惑いもなく食らいついた。 むしろ九郎の方がぎょっとして若干後ずさってしまった。 「まさか、君が一番好きな茄子の天ぷらを僕にくれるなんて。嬉しいな」 「ぐむむむ」 麗らかに告げる弁慶に対し、九郎は眉を顰め悔しがるしかなかった。
労働の報酬で源氏パイひとふくろもらった久しぶりに食べた美味しいよ美味しい 拍手ありがとうございます〜! | | |