2010/10/31/(Sun)16:02
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※それなりに一発書きしてきた九弁小話・7日目(続いてる)(最終回)
目を覚ましたら、すっかりと暗くなっていた。 「……どれくらい眠っていたんでしょうか」 ゆっくりと身を起こす、けれど熱のせいか、眠りすぎたせいか、途端にぐらりと体が揺れて、弁慶は床に手をつく、と、ざらり、とした感触があった。多分、誰かの髪。 「……九郎?」 思い当るのは彼しかいなかった。幾許かの願いもあった。呼ぶと、うう、とうめき声がした。良く知る声に、切なさ混じりの嬉しさがこみ上げた。 「んん……あれ、もう夜中なのか?」 「ええ。どうやら亥の刻頃みたいですね」 言うと、九郎も身を起こし、大きくとられた西向きの窓の外に、今にも沈みそうな上弦の月を見、 「すっかり眠ってしまったな」 と、目をこするような仕草をした。 「ありがとう九郎、君も戻って、ちゃんと眠ってください」 「いや、俺はいい。それより体調はどうだ?」 九郎の指が、弁慶の額に伸びる。それに再び、ちくりと心が痛んだ。 「……あまり下がってないな」 「せっかく君が看病してくれたのに」 「……とりあえず、横になれ」 薄暗い上に、闇に目が馴染まずよく見えないけれど、九郎が顔をしかめたような、そんな気配がした。素直に弁慶は再び横になる。布団や衣を九郎がかけなおしてくれた。 「明日はなにか、精のつくものでも持ってこよう」 「君は君のやるべきことをやってください。これ以上君の時間を奪うわけには、いきませんからね」 「だが」 弁慶が言うも、九郎はなおも不満そうだった。こちらの気持ちが分からないのだろう。……こうして、他ならぬ彼が、身を案じて世話をやいてくれるのは嬉しい、けれど、長く時間を共にしたら、 「では、くちづけしてくれませんか。そうしたら治るかもしれない」 ……なんて本音を、どれだけ口にしてしまうか分からないから、遠ざけておきたいのに。 九郎、君のせいですよ。 思いながら、弁慶は静かに彼を見上げた。 九郎はやはり、動じた様子は見せなかった。本当に忘れてしまったんだろうな、と、心がひどく痛んだ。そもそも馬鹿な事を言った。繕えなかった事を後悔した。熱で判断力が鈍っているのだろう。 「ね、できないでしょう? だから」 だったら、本当に、もう彼に側にいてもらうわけにはいかない、と、追い返す為の言葉を並べはじめた弁慶を、けれど九郎は遮った。 「できるわけないだろう」 きっぱりと、九郎は言った。弁慶は小さく目を見張る。 「……それは、帰りたくない、と言うことですか、それとも」 「その前の話の方だ。……俺は、今、お前にそういう事をするのは嫌だ」 「……」 彼の背後から挿す月明かりは微かだ。が、大きく髪を揺らしながら横を向いた九郎の顔は、それに明々と晒される。真剣な声音とは裏腹な、まるで弁慶の熱がうつったのではないか、と、思うほどに赤らんだ彼の頬に、弁慶は目を奪われる。 「……だから、ちゃんと、お前の風邪が治ってから、考えるから…………それからだ!」 そして、息を飲んだ。忘れられたわけでは、なかったんだ。 「それは……僕にとってなによりの薬のような、気がするな」 「笑うな」 「笑います」 心底困った風に九郎が言う。素直な彼の言葉から察するに、今の九郎は、弁慶の事を友人以上に見てはいないだろう、と、思う。それでも嬉しかった。これ以上が望めぬとしても……それでも今は、今にも短気を起こして怒りだしそうな、照れる九郎に、甘い幻想を描き見ることができる。それが、儚き夢として、彼自身に砕かれることになろうとも、 「九郎、僕、早く風邪治しますね」 終わることになるとしても、十分だった。 「それは当たり前だ!」 ついに九郎は声を荒げはじめた。くすくすと、笑いを零したらむせてしまって、途端に九郎は心配そうな顔になる。ああ、たまには風邪もひくものだな、なんて言ったら九郎にしかめ面されるに違いないけど、幸せだな、と、さっきまでとは裏腹に、弁慶は瞳を閉じた。 九郎は控えめに手を握ってくれた。瞼の裏に秋色の髪の友が浮かぶ。 彼は弁慶を恋いはしないだろう。 そんな彼が好きだった。
二度寝+言葉選びに難攻 していたら朝更新どころの時間じゃなくなってしまいました。が、これで終わりです 一番最初は三話目、その次は六話目までで、終わらせようと思っていた話だったんですが、結局最後まで続いてしまいました。
一応補足ですが(反転) 察しがいいくせに肝心な、こういう時には見当違いの事を言う弁慶さんが好きです と思ってのラストです って書かなきゃ全然分からないですよね! うまく書けなかったです 上手く書けなかったついでに、もうひとつ蛇足ですが、(やっぱり反転) たぶんこの弁慶さんは、九郎に振られたら振られたで、そこからまた別な作戦立てられてラッキーですね くらい思ってると思います。って、これこそ本当は中に入れなきゃだったんだけど、その可能性に至ったのが本当についさっきなので、諦めた。 多分この話はまとめて繋げてサイトにちゃんと(?)並べると思うんですが、その時に気が向いたらちょっと書きなおしたいです
謎の戯れにつきあってくださった方々、ありがとうございました。 拍手もありがとうございました!
もしかしたら、近いうちにまた日記で連載はじめるかもしれないです。すっごく前から日記で適当に書きたいなーと思ってた、すっごいくだらない話を、今ならかけそうな気がしてきた | | |