2010/02/20/(土)10:20
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普段すごく必死に大人弁慶武蔵坊弁慶25歳って唱えながら話書いてるんだよ必死だよ っていったら えっ普通に書いてみればいいのに〜 とかなんとか言ってくれたのをいいことに調子に乗ってほんとに書いてみた一発書き九弁
※どんな弁慶さんが出てきても許せる方のみご覧ください
にこにこと微笑む弁慶の前にはひとつのプリンが置いてあった。 「嬉しいです」 「よかったな」 「僕、本当にうれしいです」 「だったら早く食え」 「食べられるものですか!」 スプーン握りしめてどん、と机を叩くと、九郎は少し呆れた顔をしたが、構わない。 「だって、だって九郎が僕の為に作ってくれたプリンですよ、もう少し眺めてから食べないと」 「そ、そうか。じゃあ好きにしろ」 「ええ」 そうして弁慶はうっとりとプリンを眺める作業に戻った。 「望美さんに誘われて、こちらに来て一カ月。九郎はたくさん料理を作ってくれましたが、このような甘味を作ってくださったのは、これがはじめてでしたからね」 「眺めてくれるのは嬉しいが、そろそろ食べないとクリームが溶けている」 「ああ、それはいけない。では」 勿体ないが、崩れてしまってはそれこそ本末転倒だ。九郎が指摘すると、弁慶も素直にプリンの端からスプーンですくい、お行儀よく口に運んだ。 「ああ、おいしい」 「そうか、よかった」 「ええ、本当においしいです。よく頑張りましたね九郎」 「譲の指導がよかったんだろうな」 どこかはにかみつつ、九郎は突然、弁慶の右手に手を伸ばす。 「!?」 「いや、俺にも匙をくれないか」 「どうして」 「まだ味見をしてないんだ。俺用に作ったものは、気付いたら望美と将臣が食べてしまっていた。譲がつくったんだと勘違いしたようだ」 「だから名前を書いておけと、あれほど」 「これのどこに名前を書く!」 「ラップの上に油性ペン、とかじゃないんですか?」 「……そこまでの機転はきかん!」 言いつつも、弁慶は九郎に多少の同情はしていた。こんなにおいしいものを食べのがしたなんて。でも、所詮憐れんだだけだ。それだけだ。 「では、仕方ないですね、九郎の分まで僕が責任もって味わいます」 けれどそれに九郎はむっとした。 「ひとくちくらいくれてもいいだろう」 「お断りします」 「もともとは俺の作ったものだ」 「もう僕のものです……ぱく」 「あっ!!!」 九郎にとられるくらいなら、と、弁慶は残りのうち半分くらいを無理矢理すくって食べると、九郎が立ち上がり、身を乗り出して、 「いいからその匙をよこせ!」 「いやです」 本格的に右手と右手の攻防がはじまった。有利なのは断然九郎だ、両手が使える彼に対し、弁慶は右手にスプーン、左手は、九郎ががつがつ机を揺らすから、プリンが滑り落ちないようにガードで精一杯。 「大人げない!」 「九郎だって対して変わらないでしょう」 「変わる!お前は三つも年上だ!こういうのはこの世界では年長が譲るものだと、将臣は言っていた!」 「将臣くんのどこを見てそういう事をいうんですかね?どうみたって遠慮してるのは譲くんの方でしょう?さあ、君も諦めなさい」 「なんでそんなに頑ななんだ!」 「嫌です、ぜっっったいやだ」 ガタガタと机が揺れるもお構いなしだ。殺風景など気にせずに物を置いてなかったのが幸いした、否、不幸だというのか。落下するものがプリン以外にないから、誰も二人の戦いを止められない。 しびれをきらした九郎は、別の可能性に思いついた。 「なんだ、もしかしたらお前、そんなに俺と同じ匙を使うのが嫌なのか!?」 「はあ!?」 「お前、向こうではあんなに適当でいいかげんだったのに、最近うえっとてぃっしゅとやらに随分興味があるようじゃないか、嫌なんだろ、俺と同じは嫌なんだー!」 スプーンを争奪することを忘れ、九郎はかわりに弁慶をまっすぐ睨みつける。勿論ここで黙る弁慶ではない。 「あれはすーすーするのが楽しいだけです!ていうか九郎、なんでいきなりそこまで話が飛躍するんですか、そもそもそんなこといきなり言うなんて、僕の事全然信じてないんですか」 「プリンのひとつもよこさぬ男など信じられるか!」 「酷い」 「酷いのはどっちだ」 「九郎だ」 「頭にきた!」 言うと、九郎はひょい、と、弁慶からプリンを皿ごと強奪した。 「あっ」 しまった、机の揺れが止まっていたから少し気を抜いていた、と弁慶が思うも間に合わない。九郎は勢いよくプリンを、皿に口つけあたかも液体のように飲み込んだ。 「ああっ!!」 途端、机をまわり飛びかかってくる弁慶を、ひゅ、と後ずさってかわしながら九郎はしっかり飲みこんで言った。 「上手いな」 「よくもやってくれましたね」 踏み込みに、九郎はもう一度後ろへ飛ぶ、が、ぐい、と掴まれて引き戻される。 「痛い、髪をひっぱるとは卑怯だ」 「勝手に食べた君だって卑怯だ」 そのまま華麗に足払い。九郎はまんまとひっかかり、床にどん、と打ちつけられる。その上に間髪いれずに弁慶が馬乗りになった。 「往生際が悪い」 「食べ物の恨みは怖いんです」 「意地汚い」 「愛と言ってください愛と。……で、九郎?」 にこりと笑う弁慶に、九郎は一抹の不安を感じた。 「君はさっき、君の使ったスプーンが嫌なんだ、って言いましたよね」 「それがどうした」 「僕がそんなせこいと思われてたのは心外です。僕、九郎のものならなんだって汚いなんて思わないのに、だから」 ひきつる九郎に、弁慶は更に笑って、そのまま、 どすり。 「うっ」 「吐け」 「おまっ!!」 不意打ちとはいえ、一撃目はなんとか耐えた。これはひとえに九郎の今までの鍛錬の賜物だと思う。そして、降りかかってくる二撃目を、 「っ」 「たあ!」 掴んだのも、それを利用して弁慶を突き飛ばせたのも、今までの修行の成果だと思う。 「……やりますね」 「お前もな」 ひゅるり。閉ざされた室内だというのに、風が吹いたような気がした。 「覚悟しろ弁慶っ!!!」 「今日こそ膝をつきなさい九郎!」 けれどお構いなしに、二人は互いに飛びかかり、互いの胸倉を掴んで、互いに拳を振りかざしたところで、 ぴた、と動きを止めてしまった。 「……」 「……」 「……ふふっ」 「ははっ」 「はははははっ」 お互いに、見つめ合いながら腹を抱えて笑いはじめた。多分、誰かがこの光景を覗いていたら、首を傾げているところだろう。けれど二人はお構いなく、楽しそうに笑っている。 「懐かしいですね」 「ああ、懐かしい」 「僕たち、出会った時からこうでしたからね……最後にこうして睨みあったの、いつでしたっけ?」 「先週じゃないか? エアコンの設定温度がどうのって……懐かしいな」 「ええ、本当に」 それぞれに握りしめていた手をとき、代わりに互いに差し出して、繋ぐ。 「君とこうしてぶつかりあうのは楽しいけれど……でも、いつまでこの調子なんですかね、いい加減、もう若くないんで疲れます」 「まだ十分若いぞ」 「君より3つも年上ですからね。年寄りはいたわってくださいね」 「ああ。じゃあ、プリンでも作るか」 「これ以上僕に暴れられたら、疲れちゃって夜に困りますからね」 「そういう意味じゃない!」 ひとつ叫んでから、九郎は冷蔵庫の前へと移動する。弁慶は、残された一枚の皿を見つめ、こっそりと呟いた。 「本当に全部食べることないのに。あの意地っ張り」 「なんか言ったか?」 「いえ何も」
この文章の下で本当に失礼しますすぎなんだけど拍手も引き続き押していただいてしまってほんとにほんとにありがとうございました〜!! | | |