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叶わない恋に10のお題

先代×若双子



● 恋の自覚=失恋の瞬間

 胸中の想いが恋であると自覚した時、二人の恋は終わっていた。
 二人――――――といっても、この場合の二人は男女ではなく、双子の兄弟だ。
 兄弟で同じ女性に恋をし、同時に失恋した。

 別に、恋しい想いをぶつけたわけではない。
 女性に他に好いた相手がいたわけでもない。

 ただ、恋した女性がただの女ではなく、女神であった。
 それだけのことだった。

 一生乙女でいることを誓ったとして名の知れた処女神アテナ。
 かの女神は如何に美しくとも、男を奮い立たせる二つの果実を持っていようとも、そのくびれた腰に男の手が触れることを決して許さない。
 すなわち、女神に恋をする事自体が失恋に直結していた。

 女神への想いは決して叶わない。
 たとえ女神自身が自分達のどちらかに恋をしようとも、女神自身が立てた誓いによってその想いが成就することはない。

 なまじ、女神が美しい女性の姿をしているために。
 または、彼らが年頃の青少年であるがために。

 女神の聖域には純潔な想いが次々に生まれ、次の瞬間には水泡のように失われて行った。


配布元:Abandon
たまに思い出したように消化。

先代×若老双子は妄想していてたのしい。
むしろ、妄想が膨らむ。

妄想散文2

妄想散文。
まとまりがなくて、今日は気がそぞろなんだろうな。
色々関係のないことしてるし。



【似姿】

『セージよ、今日一日わしになれ!』

 珍しくも朝早くから巨蟹宮に顔を出したかと思えば、理由のわからぬ注文を突きつけて弟の纏った黄金聖衣を剥ぎ取って行った兄に眉を顰める。
 聖衣の代わりにと置いていかれた兄の着物に袖を通して姿見を覗き込めば、そこには兄の姿が映っていた。――――――違いがあるとすれば、髪を纏めていないぐらいだろうか。
 何か少しでも差異は見つけられぬものかと姿見を睨んでみたが、無駄な徒労に終わる。
 無理はない。
 自分と兄は双子なのだから。
 顔つきはもちろん、体格まで同じだ。

(兄上になれ、と言われても……)

 いっそ奔放といっても間違いではない、自分と真逆な性質をした兄を思い、途方にくれる。
 「なれ」という事は、衣服を取り替えるだけではなく、「らしく」振舞わねばならないのだろう。
 普段の兄の行いを思い起こせば――――――

(……無理だ。兄上の真似など、私には絶対にできない)

 少なくとも自分には女神の別邸に忍び込んで茶を楽しんだり、教皇のマスクに蛙を忍ばせたり、侍女の私室に入り込んで女装したり、そのままの姿で仲間の聖闘士を篭絡したりなんて、とてもではないが真似できない。
 良く言えば豪胆。
 悪く言えばただの傍若無人。
 兄には「おまえは気が小さいのだ」等と馬鹿にされることもあるが、兄の場合はそういう次元をとっくの昔に超えている。
 兄と自分が似ているのは、外見ぐらいの物だ。

(いっそ、顔に傷でも付けてみようか……)

 髪を掻き揚げたことでますます兄の姿になっていく姿見の中の自分に、セージはそっとため息を吐く。
 顔に自ら傷をつける等と、五体満足な体に産んでくれた母を思えば申し訳なくて出来ない。
 それでは髭でも生やしてみようかとも思うのだが、聖闘士が仕える女神が乙女であることを思えば、不快感を煽るであろう髭は避けたい。
 結果として、兄と自分との差は髪を纏めているか、降ろしているか程度のものでしかなかった。

(兄の眉間に皺は……ないか)

 奔放な兄に振り回され、自分にはいつしか眉間に皺を寄せる癖がついてしまっている。
 今日何度目かのため息を吐きながら、指の腹で眉間の皺を伸ばす。
 奔放すぎる兄を問題だとは思うが、なによりも一番問題なのはそんな兄に振り回されることを良しとする自分にあると――――――セージは知っていた。

妄想散文

妄想散文。
まとまりのないハクレイSS。

妄想散文



【仮面】

 黄金のマスクを頭上に頂く男を、遠く眺めることは何度もあった。
 聖域においては女神に継ぐ地位にある男は、その地位に驕る事もなく、日々を仕事に忙殺されながら聖域中を移動していた。
 聖闘士候補生の訓練所へも頻繁に姿を見せる男に、出迎える者達は一様に膝をつく。――自分もその中の、ほんの一人に過ぎなかった。
 自分が彼に最も身近く言葉をかけられたのは、聖闘士の資格を得た時だった。
 寿ぎの言葉を恭しく頂くその時ですら、まだ歳若い自分は顔を上げることはできなかった。
 ただ彼の法衣の裾を見つめ、彼と女神の聖闘士になれたことが誇らしかった。
 
 
 
 主の居ない空のマスクを見つめ、小首を傾げる。
 このマスクは、こんなにも軽い物だったのだろうか。

 かつての主の頭上にあった頃は、見上げることすら不敬に感じた。
 弟が継いでからは、兄弟を別つ絶対の壁となった。

「……このマスクはいかんな、顔が見えん」

 実質、聖戦を生き残った者が継ぐ高き身位。
 青少年が大半を占める聖闘士の中から生まれるために、どうしても新たに生まれた教皇は為政者としては若輩になる。そのため、若輩者よと侮られぬために目深く作られているのか、相手に表情を読み取らせぬための仮面であったのか。

「何年ぶりじゃったかな、おまえと顔を合わせたのは」

 久方ぶりの手合わせでもあった。
 ついに聖戦が始まったと聖域を訪れた際に手を合わせ、拳をもって無理矢理マスクを外させた。
 何年ぶりかでマスクの下から現れた弟の顔は、自分と寸分変わらぬ顔つきをしていた。多少皺が増えた気がしたのは、おそらくお互い様であろう。

「先に逝くとは、兄不幸な奴め……」

 以前は触れることすら恐れ多いと感じたマスクを、手の中で玩ぶ。
 絶大な権力と責任を象徴するマスクは、手にしてみれば驚くほどに軽い。黄金の輝きを持ってこそいるが、これは金塊ではできていない。聖闘士を統べる教皇とはいえ、所詮は聖闘士だ。まとうマスクも金塊などではなく、黄金に輝く聖衣と同じ材質でできている。

「それとも、これはおまえなりの意趣返しか? 黄金聖衣を押し付け、教皇の位を押し付け、ジャミールで清々と羽を伸ばしておったわしへの……」

 人によっては道を踏み外すほどの魅力をもった教皇の位。
 それがとうとう自分の目の前に転がり込んできた。
 以前にも一度転がってきたが、その時は隣にいた弟に押し付けて逃げ出すことができた。

 ――――――今はもう、その責任を押し付けられる弟は隣に居ない。

「なあ、セージよ」

 自嘲気味に微笑みながら、空のマスクに話しかける。

「わしらはもう十分に生きた」

 人の寿命という常識から考えれば、十分どころか3回は人生をやり直してもお釣りが来るほどの長い時間を生きてきた。

「じゃから、良いよな? このマスクはほんの一時預かるだけじゃ」

 この聖戦の後、新しく生まれ変わる聖域を導くのは老いた自分ではない。
 復興へ向けての手伝いぐらいはしてやっても良かったが、それは弟が生きていた場合だけだ。
 弟が生を全うし、宿願を果たしのたのならば――――――

妄想散文。

ついったでRTされたら~で引いたお題なんだけど、絵じゃなく文にしてみた。

……んだけど、801展開しそうだったので途中で強制終了。
ちなみにお題は傷口を舐めるセージ、ってな具合に、801でもなんでもなかったです。



 すいっと持ち上げた腕の傷口に、弟は何の躊躇いもなく吸い付く。
 他者が見れば一種異様な光景だろう。
 しかし、自分はそれを欠片も異質に感じることもなく――それどころか、逆の立場であれば自分も弟と同じ事をすると確信をもって――その行為を受け入れていた。唾をつけておけば治ると言ったのは自分だが、まさか自分とは違い理知的て落ち着きがあると評判の弟が幼児のように迷信めいたそれを実行するとは思わなかった。
 そもそも、唾をつけておけば治ると言うのは、自分の唾をつけるという意味だ。
 けっして誰かに舐めさせるものではない。

「……兄上、包帯は持っておられますか?」

「俺が持っていると思うのか?」

「愚問でした」

 銀色の睫毛を伏せ、物憂げに思案する弟の顔を見下ろす。
 兄と弟とはいえ、自分達は双子の兄弟だ。
 寸分違わぬ同じ顔――のはずなのだが、心持弟の方が優しい面差しをしている気がしている。
 優しいというよりは、どこか女性的――

「……セージ、その紅はどうした?」

「紅……ですか?」

「唇が赤い――ああ、俺の血か」

叶わない恋に10の御題

前に少し書いた御題の続き?
10個埋ったら、整えてサイトに飾ります。
とりあえず、散文状態で。

ちなみに世にも珍しい漫画版ロマンシアでSS。


● 何故恋したのだろう。

 改めて肖像画の中の兄を見つめてみても、印象は変わらない。

 挑むようにこちらを睨む眼差しは、先日引き合わされた実父のような穏やかさとは程遠く、自分との血の繋がりを感じさせてくれるものは母親譲りの黒髪だけだ。
 他者にも自身にも厳しく、かつて己がはいた言葉通りの運命を辿った人。

「ファン・フレディ王子……」

 肖像画の中でも難しい顔をした兄を見つめ、セリナは小さく名前を呼ぶ。
 間違いなく血を分けた兄妹であるはずなのだが、いまいち実感が湧かない。
 湧いてくれない。

 孤児として育てられたが、疎まれて捨てられたのではないと知った時は驚いた。
 父と母が生きており、今でも気にかけていてくれたのだと知った時は嬉しかった。
 旅の途中、危うい場面を救ってくれた青年が実兄だと知った時は――

「お兄さん、か……」

 そう口に出してみたが、違和感がある。
 馴染みがないというよりは、そう呼びたくないという拒否感が。
 最期の時、途切れ途切れに一度だけ呼ばれた知らない名前。
 それを『セリナ』と呼びなおしてくれたのは、何故だったのだろう。
 妹の名ではなく、行きずりに出会った娘の名で呼んでくれたのは。

「……玉の輿、乗り損ねちゃったなぁ」

 行方不明の王子を助けて玉の輿。
 当初の目論見は王子の死でもろくも崩れ、死に別たれなくとも実の兄妹であっては結実しない。とはいえ今更玉の輿など狙わなくとも、セリナが望みさえすればすぐにでも王女として城に迎え入れられるのだ。少し財力のある男など、なんの意味も無い。

「それどころか、もうお嫁にいけない気がする」

 そっとため息をはきながら、セリナは兄の肖像画を恨みがましく睨みつける。

「なんで、よりによって兄妹だったわけ?」

 せめて、従兄弟であれば希望もあっただろうが。
 乙女であれば誰もが夢見る白馬の王子様。
 颯爽と現れて乙女の危機を救った美青年。
 その正体は、本物の王子様だった。
 剣士としての教育をうけ、下手な兵士には負けない勇猛さを誇るセリナでさえも、乙女として胸ときめかせた。

「いい男すぎでしょう、『お兄さん』」

 知らず恋した相手が悪すぎた。
 顔良し、金回り良し、性格にやや難あり。――最後はどうかと自分でも思うが。
 一度こんな完璧な男に惚れてしまっては、この先どんな男が現れても見劣りしてしまう。
 これでは嫁に行きようもない。
 何故、恋をしたのだろう。
 実の兄に恋するなど、正気の沙汰とは思えない。
 引き離されることなく兄妹として育てられたら、違ったのだろうか。

 ――それでもやはり、兄に恋した気がする。


配布元:Abandon