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 残り物の冷や御飯を電子レンジで温めてカレー皿に盛り、熱々のルーをたっぷりとかけた。

 この部屋はタケルの部屋。
 私の大切な、大好きなタケルの部屋。
 テーブルに載ったカレー皿は一枚だけ。タケルの分のお皿は出していない。タケルの部屋で私一人で夕飯を食べるのは初めてだ。こんなことは今日が最初で最後だから、よく味わって食べようと思う。
 スプーンで御飯の山を崩し、ルーと一緒に掬って口に運ぶ。
 最初は少し甘い。よく噛んでから飲み込んで、二口目に取り掛かる頃、舌と喉がようやく辛さを感じ始める。口内が一気に熱くなる。それでも手は止まらない。
 肉はスプーンの先で押しただけで簡単にほぐれる。玉葱は原形を留めないほど煮崩れしてとろみになり、人参は自己主張しない程度にルーに甘さを加えている。
 美味しい。旨味が身体の隅々にまで広がっていくのがわかる。私が今までに作った中で、最高の出来だった。
 タケルが向かいの席に座っていないのが切なかった。タケルにも食べてもらいたかった。それが不可能なことはわかっているけれど――。

 カレーが大好きなタケル。
 でも、どんな献立でも好き嫌いを言わずにたいらげてくれたタケル。
 私のことを「愛している」と言ったタケル。
 私の大好きなタケル。 
 タケルの瞳の中の嘘には、かなり前から気付いていた。でも、気付かない振りをした。忘れようとした。だって、私の気持ちは嘘じゃなかったから。
 タケルの嘘に気付いてから、私がカレーを作る頻度は増した。タケルの大好物を美味しく作れば、タケルは私を愛してくれるかもしれないって思ったから……。本当に馬鹿な考えだけど、私は大真面目だった。
 「秘密にしよう」なんて言い方をせずに、最初から「お前とは遊びだ」「俺は本気じゃない」と言ってくれていたら――そうしたら、私も本気にならなかったかもしれない。本気になってしまったとしても、どこかでブレーキをかけることができたかもしれない。
 でも、もう遅い。もう戻れない。

 これが、タケルの部屋で作る最後のカレー。
 タケルの部屋で食べる最後のカレー。
 私はもう二度と、この部屋を訪れない。

 ――ごちそうさまでした。

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