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 骨を小さく小さく砕く。手足の骨、肋骨、骨盤、頭蓋骨――大きい骨には糸鋸で切り込みを入れて、鑿と金槌で砕いた。子どもの頃に道路に落書きして遊んだ白墨みたいな骨片たち。砕けた部分から骨髄液が滲み出ている。大きな欠片を一つつまんで、ソプラノリコーダーみたいに咥えて――リコーダーは吸うのではなく吹くものだけど――チュルチュルと啜ってみた。しょっぱいような、苦いような、複雑な味が口内に広がった。

 つまみ食いをしていては進まない。

 砕いた骨は、全部ビニール袋に放り込んだ。
 脳味噌も眼球も捨てたりしない。どんな生き物も、柔らかい部位が一番美味しいとどこかで聞いたことがある。少しグロテスクだけれど、大切な食材として、これも冷凍室に入れた。
 洗い桶の中の真っ赤な水を流し台に捨てた。タケルの部屋のステンレスの流し台は狭いので、一気に捨てたら水が溢れそうになった。三角コーナーの中の野菜屑が浮き上がって流され、排水口の端で赤い泡とダンスを踊る。パイプの空気が抜けるゴボゴポゴボという音が、やけに大きく聞こえた。
 軽く濯いだ洗い桶に水を張って、下準備に使った包丁や糸鋸を浸けた。私は洗い桶を重宝している。ここに長時間浸しておけば大抵の汚れは浮き上がるし、蛇口から水を勢いよく出して流し落とすよりも水道代の節約になる。料理好きの友だちが教えてくれた生活の知恵だ。
 包丁などはもうしばらく浸けておくことにして、汚れた新聞紙とビニールシートを片付ける。シートは汚れた面を中にしてクルクルと巻いて、部屋の隅に置いた。新聞紙は筒状に丸めてから捻り潰して、これも部屋の隅へ。後始末は最後の最後に一気にやるつもりなので、とりあえずはこれでいい。
 ここまでの作業を終えるのに二時間も掛かってしまった。時計の針は十二時五分前を差している。もうすぐ、タケルのアルバイトの休憩時間。私がタケルのアルバイトについて知っているのは、休憩は昼と夕方の二回あって、昼が四十五分間、夕方が十五分間ということだけ。

 秘密の付き合いはドキドキするけれど、少し寂しい。たまに、寂しい気持ちがどうしようもなく膨れ上がって、泣きたくなることもある。
 タケルの部屋にいるときは寂しくない。
 タケルの匂いが溢れているから寂しくない。
 私はまだタケルのそばにいられるんだ――まだ捨てられていないんだって感じるから、寂しくない。
 この部屋は、私たちが秘密の時間の大半を過ごす場所。夕飯を食べながらバラエティ番組を見て、取り留めのない感想を言い合って、後はセックスをするだけ。それが二人の決め事で、秘め事で、絵空事。色んな場所でデートをしている普通の恋人たちから見れば、かなり滑稽な関係だと思う。
 でも、私は十分幸せだった。タケルの部屋でタケルと過ごす時間が、この時間だけが、私のすべて。タケルと一緒にいられるのなら、他には何も望まない。

 だから私は、タケルの部屋で御飯を作る。

 タケルはいつも、私の作る御飯を残さず食べてくれた。見栄えが悪いときも、それには触れずに味を絶賛してくれた。

 ――美味いよ! すっげー美味い! 毎日でも作って欲しいな、なんて……。

 お世辞だってわかっていた。本当は毎日作りに来たら迷惑だって知っていた。でも、嬉しかった。涙が出そうなぐらい、嬉しかった。

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