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 いよいよ調理開始。
 タケルの大好物で、私が一番得意な料理――カレーライス。
 今日の夕飯用に一つだけ冷蔵室に入れておいたタッパーの肉を取り出して、解体作業に使ったのとは別の包丁で食べやすいサイズに切る。美味しく作るコツは、「炒めたり煮込んだりするうちに小さくなるから」と、大きめに切ったりしないこと。
 今回使うのは脂身の多い肉なので、最初に鍋で煮る。煮立った湯に放り込むと紅く色づいた肉がサッと薄桃色に変わって、とても綺麗だった。浮かんでくる脂はオタマで丁寧に掬い取る。繰り返し、繰り返し、鍋のお湯を何度か変えて。繰り返し、繰り返し、脂がほとんど浮かんでこなくなるまで。それが済んだら、肉をザルにあけて水分を取る。薄桃色の肉片たちがザルの中でホカホカと湯気を立てていた。
 続いて、冷蔵室の野菜室から玉葱と人参を取り出す。玉葱は皮を剥いて、軽く水洗いしてから、上下を切り落としてぶつ切りにした。人参はよく洗い、皮を剥かずにそのまま摩り下ろす。私の作るカレーは、じゃが芋は入らない。

 ――じゃが芋の入ってないカレーは、カレーじゃねぇ!

 ――ええっ!? じゃが芋の入ってるカレーなんて、カレーじゃないよ!

 じゃが芋が煮崩れするとルーが粉っぽくなってしまうから好きじゃない。大好きなタケルだけれど、これだけは譲れない。だから、今日もじゃが芋なしのカレー。

 鍋にサラダ油をひき、少し熱してから肉を入れる。今回は水分を多く含んでいるので、油がパチパチと激しい音を立てた。間髪入れずに玉葱のぶつ切りと下ろし人参も放り込む。今日はじっくり煮込む時間がないので、この段階で玉葱がキツネ色になるまでしっかりと炒めておく。肉の香りと熱気が菜箸を持つ右手を撫でた。ちょっと熱かった。
 十分に火が通ったら、具が浸るまで水を入れて、市販の灰汁取りシート――鍋にちょうど嵌る丸い紙で、落し蓋のように被せて煮ると灰汁を全部吸い取ってくれる便利な商品――で蓋をする。汁が沸騰してシートが灰汁を吸い始めたら、火力を弱火にして、シート中央の切れ目から固形コンソメとローリエを投入。その後は、様子を見て水を加えつつ、一時間ほど煮込む。炒めの段階で十分に火を通してあるので、肉も玉葱も短時間で柔らかくなってくれるはずだ。今日は牛肉じゃないので上手くいくか不安だったけれど、ここまでは順調。
 ついに味付け。レトルトカレーの固形ルーの「甘口」と「中辛」を、味見をして濃さと辛さを確かめながら溶かし入れる。味と濃さが整ったら、まろやかさを加えるためにヨーグルトを加える。いきなり入れるとダマになるので、適量をオタマに入れて、箸で汁と少しずつ混ぜ合わせるのがポイント。最後に醤油を加えて、底の方からもう一度かき混ぜれば――特製カレーライスの出来上がり。

 タケルが部屋にいるときに私がカレーを作っていると、タケルはいつも待ちきれなくなって、ちょっかいを出しに来た。

 ――カレーを作ってるときのお前って、すっごくいい顔してるな。

 爽やかな笑顔でそう言われると、すごくすごく嬉しくて、すごくすごく照れくさくて……、目を合わせていられなくて、私はずっと鍋の中を見つめていた。鼓動が自分の心臓じゃないみたいに速まって、膝がガクガク震えて、タケルのことしか考えられなくなって……。
 どうして――どうして、こんなに好きなんだろう?

 だから、私はカレーを作る。タケルと私のための、夕飯を作る。

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