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 sweet.sweet.sweet.

 時期短文・バレンタイン『bitter&sweet』おまけ


 
 




 誰かが来たら──そんな至極当たり前な警鐘が鳴っているにもかかわらず、フゥッと、口付けの合間に零れる彼の息に、それは容易くかき消され。
 男達のいる厨房の外では人の気配。
 いつ誰が来てもおかしくないというのに、縁側に腰掛けたまま互いに唇を貪り合う事を止められない。
 口内も唇も、仕草すら甘く切なくて、見える事のない零れた息を目で追おうとするが、それすら許さないように、彼はしっかりと男の両頬を持ち直して舌を絡ませてくる。
 自分以外の何かに気を取られるのは許さないとばかりに。
「……んっ……ふ……」
 感じ入った声を、隠すことなく耳に届かせるのはわざとだと思う。男として逃げられないよう、そうやって彼は道を塞いでいっているのだ。きっかけは偶然にしろ、どこか意図的。
 それもそうだろう。自分達はいったい何年、生殺しのような状態の関係を大事に大事に保ってきたのか。
 そっと、腰に手を回す。だが引き寄せも、抱き留めもしない。こんな口付けをしてもまだ、今まで守っていた“お約束”が横たわる。ここまで相手の気持ちが確認できてもなお。
 絡める舌はさらりとして、最初こそは微かなチョコレートの甘みが舌に移ったが、絡めれば絡めるほど別の甘みが頭を打って死にそうになる。
「はぁ……」と激烈に甘い溜息を吐き、口をだらしなく開けながら、彼は離れそうになかった唇を離した。
 たらりと、互いの気持ちのような唾液が二人の間に糸を引く。その奥から、艶めかしい赤い舌が目に飛び込んだ。
 食い付きたくなる衝動を抑え、糸を引いた唾液を軽く拭うように、彼の下唇に口付ける。すると上目遣いでこちらの様子を窺ってきた。
 その仕草は決して媚びた物ではなく、とても攻撃的で、心地よく神経を逆撫でる。
「どうだ。酷い甘さだろう」
 男の作ったチョコレート菓子が酷く甘いと彼は文句を言ってきた。だから味わえと、唇を押し当て、舌を絡め……
「……小十郎には、少々苦うございました」
 困った風に笑いながらそう答えると、彼は軽く眉を顰める。
 お互い、知っている。
 相手の気持ちがどんなモノか、自分の気持ちがどんなモノか。
 いつからか、どんな風にだったかは忘れたが、黙っていた。そして騙していた。相手をではなく自分を。
 募り、零れ、枠から出た邪な思いを、純粋な想いとすり替えて、それを相手にぶつけることで想いを発散していたが、もうそろそろ、誤魔化しようがなくなって。
 だからこんな口付けを交わそうと初めての感覚はしない。何度もそうしたいと思っていた。何度もそうなることを夢見ていた。繰り返し繰り返し、暴発しないのがおかしかった願望だった。『甘いだろう』と言われても、そんなことは前から知っていて、寧ろこの先、常時この甘さを我慢しなければならない思いの方が苦く感じてしまい。
「なら、甘くなるまで味わえ」
 するりと唇が寄せられ、また煽るだけ煽る舌が絡もうとする。
 甘いのは知っている。今、この誰の目につくかわからない場所で口付けを止められない時点で。
 苦行のようだ。
「!? 政宗さまっ」
 性悪だったのは舌だけではないらしく、着物越しにスルリと一番正直な場所を撫でようとした手を慌てて掴んだ。
「チッ」と、小さな舌打ちと共に少し唇が離れる。
「感心いたしかねますな」
 そう強い口調で言ってもまったく効果がないようで、ただただこちらを恨めしげに見つめてくる。
 お互いに情事の口付けを知っていて、その先があることも知っている。かといって、すぐさま事に移れる訳がない。どんなに互いの気持ちが筒抜けであったとしても、まだ実際はなんの確認もしていない上に、今さっき、初めて口付けたはずなのだから。
「感心も何もねぇよ。何年我慢してきたと思ってるんだ」
 掴まれていた手をくるりと器用に回し、逆に彼が男の手首を掴み返す。そして何をするかと思えば手を引き寄せ、彼が正直になる所へと男の手を導いた。
「政っ」
「俺だけが興奮してたら……馬鹿みたいじゃねぇか」
 打って変わって目を合わせようとせず俯いている彼の頬が、まだ早い春の訪れを告げるように薄紅色に染まっていることが見て取れた。
 あぁ。
 まったくなんて酷い甘さと苦みなのか。
「そうは仰いましても」
 目眩がして溶けてなくなりそうだと思いながら、彼の耳朶に唇が触れるか触れないかの距離で囁いた。
「斯様な勿体ない甘さは、部屋でひっそりと堪能したく思います」
 ビクリと肩を震わせた後、彼は改めて男の顔を見る。
 その隻眼は、やはりどこか恨めしげなのは変わらず、そして男も、その瞳に怯むことなく口端を上げ。
 すると、どちらともなく引かれて口付け合う。

 この甘さから逃れがたい事だけ、お互い静かに確認し合った。




 




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 甘さが足りないかな?と、ミルクチョコを割り増ししてみました(笑)
 この小十郎さんはおっとりしているようで、結構根性が悪い事が判明。
 政宗様は骨まで綺麗にしゃぶり尽くされるでしょう。合掌。
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