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俺たちは酒井さんの指示どおり、受付前にあったソファにとりあえず腰を落ち着かせた。

「くっそ・・・!」

ボビダリのふたりはまだ納得言ってないようだ。
怒りや苛立ちのぶつける場所がなく、くすぶっている。

新人マネージャーの俺に、今何ができるというのだろう。
今何かヘタに話しかけて、ふたりの怒りがブリ返してもいけないし。
かといって黙って座っているなんて俺にはできないし。
何とかふたりに落ち着いてもらわないと。

「あの・・・飲み物何か買ってきます。すぐ戻るんでここで待っていてくださいね。」

ふたりにそう言い残し、走り出す。

たしかさっき楽屋の近くで販売機を見かけたような気がする。
缶コーヒーでも飲んで少しクールダウンしてもらおう。

ポケットから財布を取り出し、中を探りながら販売機に向かって走っていると、聞き慣れた声が聞こえてきて、思わず足を止める。
咄嗟に物陰に隠れて、声がする方向を窺った。

・・・酒井さんと、収録前に楽屋に来たディレクターだ。

「さっきのは・・・あれはさすがにひどいんじゃないですかね・・・。
たしかにルールに『パクリがダメ』とは書いていない。
だけどあれがまかり通ったら・・・『テーマを元に即興でネタを作る』という番組の企画そのものの意味がなくなってしまうのではありませんか?
佐藤さんからあのコンビに言ってやってください。」
「この番組の企画は、スタッフ全員で案を出し合って、ルールをきっちり作ったことで成り立っているんだ。
それを全部ぶち壊して・・・正直あのコンビには失望したよ。
企画にかかわったすべてのスタッフの努力を台無しにしてくれたんだから。
ちゃんとやれば実力もあるコンビだったのに、何を勘違いしてるんだかね・・・。
もちろん今回の件はこちらから注意をしておくし、二度とこの番組には呼ばないつもりだ。
君たちには申し訳ないことをしたね。ボビダリにはこれに懲りずにまた来てもらいたい。彼らは本当におもしろかったよ。」
「ありがとうございます。本人たちもきっと喜びます。ゼヒまた呼んでやってください。」

ボビダリがいたらまたヒートアップしてしまうだろうから、酒井さんはひとりでディレクターの元に赴き、ボビダリに代わって怒りを伝えにきたのか・・・。

「お、北山ぁ。そんなとこで何やってるんだ?難しい顔して。」

酒井さんの行動の意味を考えている間に、酒井さんにすっかり見つかってしまった。

「いや、あ、あの・・・彼らの飲み物を、買いに・・・」
「そうか。それがいいな。ご褒美にコーヒーでも買ってやってくれ。」
「はいっ。」
「うんうん、いいよいいよ〜、いい返事だ〜。」
「では、買ってきます。」
「・・・っと、北山〜。」

立ち去ろうとする俺を酒井さんが再び呼び止めた。

「あ、はいっ。」
「タレントを守るのもマネージャーの仕事だ。
タレントが危機に立ったら闘うことも、時に必要だ。それが目上の相手であってもな。
もちろん、いつもいつも闘ってばかりじゃまずいがな。
ここぞという時は、お前がタレントの代わりに闘え。・・・わかったな?」
「はいっ!」
「いい!いい返事だぁ!その調子で頑張っていけよ?」


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