車はテレビ局の地下駐車場へと入り、そこで駐車した。
周りは、タレントさんが乗ってるとおぼしき高級外車だらけ。
俺たちの乗った白いワゴンタイプの社用車とは格が違う。ケタ違いだ。
あれ何だっけな、フィアットのバルケッタだったかな。
「お〜い、北山。お前はここに車を見に来たのか?」
「はっ!・・・す、すいません・・・」
10歩ほど前で立ち止まってこっちを振り返り待っている3人を見て、俺は慌てて駆け寄った。
酒井さんはポケットから入館許可証を3枚出し、そのうちの2枚をボビー&ダーリンに渡した。
許可証にはそれぞれ名前と顔写真がちゃんと載っている。
続いて酒井さんは、エントランス前のガードマンに俺の許可証がない旨を伝え、仮許可書発行の手配をしてくれた。
仮許可証を受け取った俺は、3人に続いて改札のような機械の間をすり抜けた。
「おはようございま〜す。」
「おはようございま〜す。」
「おはようございま〜す。」
「おはよう、ございます・・・」
ホントに『おはようございます』って言うんだな。
しかも3人は、すれ違う人すれ違う人すべてに・・・掃除のオバサンにまで挨拶をしている。
俺もマネして言ってみるが、ちょっと照れてしまう。
「北山〜、恥ずかしがっててはダメだ。挨拶は大事なんだぞ〜?
仕事に関係なさそうな人だとしても、いつ縁が出てくるとも限らない。
こういう積み重ねが、将来 自社のタレントの仕事に繋がるやもしれん。しっかりな。」
「はいっ。」
「うん、北山いいよ〜その返事!」
パッと見、チャランポランなカンジに見えるボビー&ダーリンもしっかり挨拶しているもんな。
これも酒井さんの教育の賜物、なのだろう。
「・・・あ、おはようごさいま〜す。先日はウチのボビダリがお世話になりまして〜、どうもありがとうございました〜。」
酒井さんが次に声をかけてるのは若いスタッフさん。
首にインカム、っていうのかな、スポーツ実況の時につけるマイクみたいなやつをかけたまま。
腰にはウエストポーチ。そのベルトのところに粘着テープみたいなのが通してある。
下っ端さんなのかな。
酒井さんの隣に立ち、まじまじとそのスタッフさんの観察をしていると、彼と話を終えた酒井さんがポンと両手を合わせた。
「北山〜、相手のポジションや位(くらい)は一切気にせず、丁寧に応対するようにな。
おエライさんにヘーコラして若いスタッフにふんぞり返るなんて、もっての他だぞ。
相手がADだと思ってナメてちゃいかん。
ぶっちゃけて言ってしまうと、おエライさんは先が短い。
しかし、今のADが未来のDやPになるんだ。そのために、今からよい関係を築いていかんとな。
人気が出ようが出よまいが、天狗になるのは禁物だ。わかったな?」
「はいっ。」
「返事がいいな君は!いいよいいよ〜!」