|
||||||||
「ほんとーに、本当だよね」 桟橋を渡りきった所で狂皇子、ルカ=ブライトを打ち破ったミヅチ軍軍主、ハクウが振り返る。 「ほんとーに『トランの英雄』がいるんだよねっ!?」 「知らないよ」 後に続くルックがいつもの口調で言う。 「でも、本当にいたら良いね!『トランの英雄』!!」 明るく笑うナナミを、船から降りたばかりのマイクロトフとカミューが微笑ましく見つめる。 「ねぇねぇ、フッチ」 「は、はい!?」 一番最後から何か考えながら歩いていたフッチは、ハクウに呼びかけられ慌てて顔を上げる。 「『トランの英雄』ってどんな人?」 きらきらと目を輝かせながら問う様は年相応の子供。 フッチは微苦笑を浮かべながら答えた。 「そう・・・ですね。とても聡明で強くて優しい人ですよ」 そして同時にこの上なく脆い。 だがそれを決して表に出さぬ強靭さも兼ね備えた稀有な人物であった。 「そっかー。強くて優しいか〜・・・」 ハクウはまだ知らぬ『英雄』の姿を思い浮かべ、うっとりと目を細めた。 「よぉっし!じゃあ、早速手分けして探しに行こう!!」 「あ、待ってよ。ハクウ!!」 無邪気にじゃれながら歩く姉弟の姿に、周りの人間は笑みを浮かべる。 だがその後ろの方で複雑な心境を抱えるもの達がいた。 「・・・ルック」 フッチが仏頂面の少年の横で小さく声をかける。 「シグレさん、本当にいると思うか?」 「・・・さぁね」 この三年間、ルックの操る『風』をもってしてもようとして行方の知れなかった相手だ。 そう簡単に見つかるとは思えない。 だが。 「万に一つでもかけてみるさ」 「・・・珍しいと思ったんだよ。ルックが自分からついて行きたいなんて言い出すのは」 「・・・それは君も同じだろ」 同じ過去と思いを持つ少年達は、互いの口元に淡い苦笑を滲ませ、四人の後を追った。 ――だがハクウ達(主にハクウとナナミ)の努力も空しく、聞き込みで返ってくるのは期待の無い答えばかり。 「そっちは?」 フッチの言葉にルックが首を横に振る。 「てことはそっちも・・・」 「あいにくながら」 カミューが苦笑しながら肩をすくめる。 その隣でマイクロトフも苦い顔をしていた。 「・・・やっぱりいないんじゃない?」 感情の無い表情でぽつりと漏らすルックにその場の者が頷こうとした、その時。 「みんなみんな!大ニュース!!」 道の向こうからナナミとハクウが転げそうな勢いでこっちにやってきた。 「ああ、あの、あのね・・・」 「ナナミ殿、落ち着いて」 苦しそうに胸元を抑え、荒い息を吐くナナミの背中を、カミューが軽く撫でる。 「い、今・・・宿で訊いたんだけどね・・・」 「だから落ち着いて・・・」 「ハクウが一週間前からここに泊まってるって!!」 「・・・・・・・・・はっ?」 一呼吸おいて、他の四人は同じ様に訊き返した。 そしてこれまた同じ様に視線を、ナナミの隣で酸欠のためにうずくまっている我が軍主に向ける。 「あのぉ〜、ハクウさんならちゃんとここに・・・」 「わかってるの!でもハクウが一週間前からここに泊まってて毎日裏の池で釣りしてるって!!」 再度酸欠に陥りそうなほどの大声でナナミは繰り返した。 「ルック・・・」 フッチがルックの方に視線を向ける。 視線の先でルックは俯き、何かぶつぶつと独り言を言っていた。 「ひょっとしたら・・・おそらく・・・でもまさか・・・」 「シグレさん・・・かな?」 「・・・ナナミ、その裏の池はどこ」 ルックがきっぱりと顔を上げて問う。 「えっ?行くの?」 「・・・まぁね」 「あ・・・それ・・・無理・・・」 ナナミの隣でうずくまっていたハクウが顔を上げ、首を振った。 「どうして」 ルックが不機嫌な声で問う。 「だって、僕らがその池に行こうとすると、頬に傷のある人が通せんぼして絶対通してくれないんだもん」 そこでまたルックとフッチは顔を見合わせた。 「それは・・・参りましたねぇ」 「確かに。それでは本当かどうか確かめる事が出来ないな」 マイクロトフがさっきから寄せている眉間の皺をさらに深くして呟く。 一同は村の真ん中で立ち往生する羽目になった。 誰もいいアイデアを出してくれない。 「ねぇ。おにいちゃんたち、ハクウ大将軍に会いたいの?」 無邪気な声に呼ばれ、全員は声のほうをむいた。 そこにはハクウと殆ど同じ格好をした子供がいた。 「あ・・・君はさっきの・・・」 どうやら情報源は彼らしい。 「裏池にいるハクウ大将軍に、おにいちゃんたち会いたいんでしょ?」 「う、う〜ん。まぁね」 多少の違いはあるが子供の言う人物に会いたい事に違いない。 「じゃあ会わせてあげるよ!!」 「・・・・・・へっ?」 そう言って、六人は目の前で無邪気に笑う子供を見つめ返した。 「あ、あ、あ。お待ちください。ここから先に行くのはご勘弁ください。おねがいします」 両手で道を遮る十字傷の男。 ここまではさっきと同じ。 違うのはさっきはナナミとハクウの二人できたのに対し、今度は六人の大人数。 そして・・・ 「助けて―――!!はやく――!とくにそこのお兄ちゃん――!!」 山の方から聞こえる幼い悲鳴。 「え、あ、今のは宿のお子さんの声!?」 慌てて道を塞いでいた青年は走り去っていく。 「・・・やった!」 「やぁったぁ!!」 青年の姿が見えなくなるまで見送ってからナナミとハクウは指を鳴らして喜んだ。 「いいのか?こんな詐欺みたいな事して・・・」 マイクロトフが傍らの相棒に難しい顔で尋ねるが相棒は笑っただけだ。 「さってさて〜。さっきの人が帰ってこないうちに・・・」 ッ!? 「どしたの?」 突然立ち止まったハクウに、後ろに続いていたナナミがきょとんと訊く。 「んっ?なんでもないよ」 ハクウは右手を抑えたまま答えた。 一瞬右の甲を軽い電流が走った気がした。 無論、それはほんの一瞬の出来事だけど。 振り返るとルックも同じ様に手の甲を抑えている。 (勘違い・・・じゃないのかな?) そう思ったが、ハクウはさして気に留めず湖へ向かった。 (やっぱりそうか・・・) 甲を走った電流。 これは共鳴だ。 真の紋章を持つ者のみが感じるつながり。 ルックははやる足をなるべく抑え、みんなの後に続いた。 二、三メートル歩くとすぐに青い湖面が見えてきた。 そして桟橋で糸を垂らす少年の釣り人。 人の気配に気づいたのか釣り人が振り向く。 それはハクウ達には始めて見る、ルックとフッチにとって捜し求めていた相手・・・ 「久しぶり・・・・・・変わりはないようだね・・・・・・」 「シグレさん、おひさしぶりです。こんな所で会うなんて・・・」 「ルック・・・・・・フッチ・・・・・・?」 相手は三年前、クレイドールをけしかけられた時と同じ、若干目を見張った顔で二人の名を呼んだ。 |
あとがき
やたらと空白があいていますが気にしないでください(爆)
こういうの、一度チャレンジしてみたかったもので・・・
他でもやってるけどね、ここまで極端なのは・・・
さて、龍都の英雄イベント時のメンバーは、
マイクロトフ・カミュー・ハクウ(2主)
ナナミ・フッチ・ルック
シグレが入ったらルックには抜けてもらいました(笑)
ほら・・・Sレンジなのに打たれ弱いんだもん。