目の前で少女がうろたえ、涙を流している。
周りの人間も沈痛そうな面持ちだ。
「あ、あれほど山には近付くなって言っていたのに・・・」
しゃっくり上げる少女の背中を父親らしき人物がゆっくりと撫でる。
「ねぇ・・・ハクウ」
それを後方で眺めていたナナミがそっと耳打ちする。
「わかってるよ。芝居・・・じゃないよね?」
「何てことを言うんですか!?」
ハクウのわずかな囁きを聞きとがめたグレミオが鬼の形相で睨む。
「私がこの目で見たんですから間違いありません!!坊ちゃん、行きましょう。お金のために子供を攫うなんて許せない!!」
「ああ・・・」
グレミオの言葉にシグレも頷き、一歩進む。
が。
「っ!?」
「坊ちゃん!?」
「シグレさん!!」
シグレは一歩進んだ所で膝から崩れ落ちた。
右手甲を抑え、額には脂汗を滲ませている。
「・・・・・・」
そしてハクウやルックも同じ様に右手に痛みを覚えていた。
嘆いている。
目の前で膝を着いているあの人を取り囲むように、空気が嘆いている。
「あれって・・・」
「・・・・・・」
ルックは問いに答えない。
ただ前方をきつく睨んでいた。
「坊ちゃん・・・」
グレミオが肩に手を置く。
シグレは首を振った。
「・・・行けない」
「坊ちゃん・・・?」
「僕が行けば・・・あの子は・・・」
シグレは、右手をきつく握りしめていた。
「坊ちゃん・・・大丈夫ですよ」
グレミオが握り締めた右手にそっと自分の手を重ねる。
「ソウルイーターはテッド君とそのおじいさんとが守ってきたもの。けして悪いものではありません。だから・・・行きましょう」
グレミオの言葉に数秒の間を持ってシグレは頷いた。
その顔には強い決心が浮かんでいる。
紫睛に浮かぶ、つよい光。
その目が自分を捉えるのを観て、ハクウは背中に戦慄が走るのを覚えた。
近寄るシグレがハクウの肩を叩く。
言葉は無い。
けれど・・・
「行きましょう」
その言葉に、シグレは軽く頷いた。
|