星、宿命。 
廻りめぐりてやがて邂逅の時を迎える・・・ 
       
      
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
      
 トラン共和国に程近いバナーの村。 
海と山とに囲まれた平和な村に、一週間ほど前から旅人が宿泊していた。 
あまり人の来ない場所だが、宿屋くらいはある。 
珍しい旅人を宿の人間は歓迎した。 
世にものどかな村。 
数年ぶりの旅人は、頬に十字の傷を持つ青年を従えた、黒髪の少年―― 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
「よっと」 
くん、と手ごたえがあって、竿を引く。 
糸の先には生きのよい虹鱒。 
「坊ちゃん、いれぐいですね」 
何人たりとも主人の釣りの邪魔はさせんと頑張っている従者が、上機嫌な声を出す。 
      始めてまだ十五分なのに魚篭の中はかなりの魚が入っている。 
シグレはもう一度餌をつけた糸を水面に垂らした。 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
―― 一度トランへ行こうと言い出したのはシグレだった。 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
それまで何度グレミオがトランへ帰ろうと言ってもシグレは決して首を縦に振らなかった。 
ハイランドやハルモニアなど様々な国を旅してきたが、この三年間一度たりともトランへ向かおうとはしなかった。 
そしてそんな主人の心中を察して、グレミオも次第にトランの事は話題に出さなくなっていった。 
だが三年たって突然切り出されたトラン帰国。 
グレミオはそれを純粋に喜び、シグレもまたそんな従者の様子を微笑ましく思っていた。 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
「っと」 
また当りの手ごたえ。 
今度は岩魚だ。 
魚篭の中を見ればお土産には十分な量だが、宿の人間や訪れる客が食べるにはちょっと足りないかもしれない。 
(もうちょっと頑張ってみようかなぁ) 
      シグレは魚篭の中に釣ったばかりの岩魚を放り込み、水面に向かって糸を垂れた。 
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