見たいものは見たいんだからしょうがない (2)  

 視線を下に向ければ茂みも見えるけれど、今は香澄の胸に気をとられる。  流石にここまでまじまじと見るのは初めてだ。  鍛えてるだけあって大きいながらも、垂れることも無く、張りと丸みを持った胸。  きめ細かく白い肌は緊張のあまり滲む汗で艶を見せる。  あたしは思わず独り言を言う。 「これがEカップか」  片目をつぶって、こちらを軽く睨むようにして香澄が言う。 「ブラジャーのチェックしたわね」  にっと笑って答える。 「そりゃ勿論、レースが色っぽいよね、つけた姿も見たかったかも」 「え、そう?」  香澄が嬉しそうな顔を見せる。  「あたしもつけてみたいな、なんて」 「それはちょっと…」  香澄が返答に窮する。あたしは激昂してみせる。 「サイズが合わないのなんて分かってるもん!一寸言ってみただけじゃん!あー、 その気の毒そうな眉毛。逆にむかつくぅ!」 「まひる、ちょっと」  まくしたてられて香澄がおされ気味になる。あたしはこのドサクサにまぎれ、更 に大胆な宣言をしてみせる。 「あの時みたいに、また胸を揉んじゃうぞ!今度は直接!」 「や、まひる…」 「えいっ!」  正面から、両手で香澄の胸を鷲掴みにする。  お風呂上りの滑らかな肌があたしの指に吸い付く。  自然と指先に力が入る。 「……うわっ…」   あたしは想像していた以上の乳房の弾力と重みに、小さく驚きの声を上げる。  そのまま香澄の胸を揉みはじめる。興奮のあまり力が入り過ぎないように気をつ けながら。 「…あ…まひる、そんなに触っちゃ…や」  香澄が瞳を潤ませて、こちらに訴える。でも力が入らない、絶え入りそうな声。  何気ない感じであたしの人差し指は香澄の乳首を弄び始める。そこが敏感で感じ やすい場所である事を知りながら、いつもと違う香澄をもっと見たくて。あたしが 指をくりくりと動かすたびに香澄は全身をそれに合わせ、痙攣させる。  香澄はあたしの手に自分の手を重ねて、そっと握り締めながら、言う。 「そこは…感じ…ちゃうから、だ…め…やめて…」  本当に香澄の事を悩ませ、困らせ、苦しめている。わかっているのに、あたしは呟く。 「…やだ…やめたくない…もっと、したい」  だって、乱れる香澄が可愛くて。     「本当に…ゆるして、まひる」  切なげな表情を見せる香澄に魅惑されて。 「ん…駄目よ…まひる…私……おねがいだから…あ…あ」  香澄は喘ぎ声と共に、肌を上気させ、上体をそらす。白い喉を汗が一筋伝う。  もっと、もっと香澄を乱れさせてみたい、そんな邪な考えは涙目の香澄と目が合う ことによって消えていった。 「もう気が済んだ?まひる」  いたずらっ子を穏やかに諭すような声で、香澄が言った。 「あの…香澄…」 『もう見せない』とか言われても仕方ないかも…いやいや、何この期に及んでこんな 不謹慎な事考えてんだ、あたしは、心の中で自分を叱りつける。 「……だから」  うっかりしていたあたしは慌てて、聞き返す。 「え?香澄、今なんて」 「―――私は大丈夫だから」  そう言って香澄はそのまま仰向けの格好でベッドへ沈み込む。  許してくれたのかな。このまま見ちゃってもいいのかな。  ポン。なんとなしに手を叩いてみる。そうして。  「さぁいよいよ下かな」  いつもの緊張感の無い浮かれた口調で、わざと言ってみる。 「……」  香澄は仰向けで両手を力なく垂らし、両胸を露わにしている。力が抜けてしまって いるかのように見えるけれど、逆に下半身の方は軽く膝を立てた格好でぴったりと閉 じられている。 「香澄、聞いてる?」 「……」  困ったように眉にしわを寄せ、天井を見つめたまま香澄は答えない。 「約束したんだから、嫌ならあたしが無理矢理足を開いちゃうぞぉ」  赤ずきんに出てくる狼のように襲う真似をしてみせる。 「うん、お願い」 「え?」  両手を挙げた格好であたしは固まる。  香澄は両手で口元を覆う格好をして言う。あたしの事を上目遣いで見ながら。 「自分じゃ脚を広げられないの、恥ずかしくて」  そのしおらしい姿にあたしは確かに何がしかの欲望を動かされる。 「本当にいいの」  コクリ。  香澄は恥ずかしさのためにもう声も出ない。 「――それなら」  香澄の両膝に手を乗せる。脚を開かせながらあたしは言う。 「見せて、香澄の大事なところを……」  あたしがさほど力を込めなくても、ゆっくりと脚は開いていく。多分、香澄は自分 の中で納得したかったんだろう。『まひるが求めて、まひるの手によって開かせられ た』のだと。  あたしはあたしで、この行為への罪悪感から逆に自分の中に高揚感がもたらされる。 「見えるよ、香澄……」  初めに目に付いたのは控えめな茂みだった。髪の色より少し濃い目でウェーブがか かっていて。そこは部屋の暗めの照明に当たって、怪しく光を反射させる。 少し、顔を近づけてみる……かつて自分が女の子だと、他の女の子と同じものをつ けていると信じ込んでいたなんて、たちの悪い冗談だ。 あたしが持っている目立つ突起などどこにも無い。覗いてみてわかるのは茂みから かすかに透けて見える小さな割れ目だけ。 「…香澄はさ、自分のがどんな風になってるのか知ってる?」 「あんまり知らないけど……」 「そうなんだ」  香澄が不安そうに尋ねる。 「…何か生々しいっていうか……グロテスクだったりしない?」  あたしは香澄のそこを見つめながら答える。 「そんな事ない。きれいだよ…鮮やかな赤で、それでね…びらびらした…」 「やだ、言われたら、恥ずかしい……」  恥ずかしさのために、閉じそうになる香澄の太腿を慌ててあたしはなだめるように 撫ぜながら言う。 「もう少し…開くね」  香澄が頷いたかどうかすら確かめもせずに。  顔を少し近づける。    二枚しかない花びらはほころびかけてはいても蕾の形で、見られてしまう事を必死 に拒んでいる。  それでもあたしはその先を求める。 「中も見ていいんだよね」 「……」 「優しく、痛くないようにするからね」   これじゃまるで男の言い草だ。確かにあたしは男なんだけど。 二枚の襞を両手の人差し指で触れる。あれ? 「何か濡れてるみたい。いつもこうなの?」 「違うわ…だって、さっき、まひるが胸を触ったりするから……」  かんじてたんだ、あたしのあいぶで……  生唾が口にたまり、そっと飲み込む。こくんという音が自分の耳に届く。香澄にも聞 こえてしまっただろうか。  上目遣いに香澄を見ながら、半ば冗談めかした口調であたしは自分の願望を告げる。 「じゃあさ、ここを……もっと刺激したらどうなるのかな…触ってみたりとか…舌で、 とか…」 「や…駄目よ…まひる」  香澄の気弱な声を聞き、余計に自分の言葉を本当にしたくなる。  そう思っただけでノドが急激に渇きだし、舌が張り付いた。さっきの香澄の言う通 りに、何か飲んでおいたほうがよかったのかなと、ちらっと考えたけど、きっと、そ うしていても、現状は変わらなかったろうと思い直す。 「まひる…冗談よね…」 「……」  香澄の戸惑い混じりの言葉に、あたしは何も答えず顔を近づけていく。ミツバチが 花にどうしようもなく惹かれてしまうように、その箇所に。  香澄の中は幾重もの襞が重なり、まるで内側に向かい開こうとする花びらの蕾のよ うで……。  ハァとあたしの口から漏れる吐息が香澄にかかる。香澄が小さく声をあげ、びくり と腰を震わせる。そっと香澄の様子を盗み見る。  目を細め、半開きになった口から熱い息を洩らし、香澄もまた、こちらを見ている ようだった。手はシーツを握り締めて…まるで、期待に震えているかのように――あ たしの都合のいい思い込みなんだろうけど――。香澄もあたしと一緒できっと平静で なくて。  あたしのドキドキと香澄のそれとではどっちが上なんだろう。沸騰した頭で考える。 顔を更に近づけていく。  もう少しで香澄のそこにたどり着く。自然とあたしの口が開き、舌が突き出される。  あたしの舌が花びらに触れようとした瞬間。 「駄目…やっぱり駄目!」  がばっと、香澄が上半身を起こす。その時あたしの両手首をがっちりと捉える事も 忘れずに。 「うわぁああ」  本気の力比べであたしが勝てるはずもなく。  あたしは香澄に手首をとられたまま、押し倒された形になる。 「……」 「……」  二人の間に沈黙が訪れる。  さっきまでの普通じゃない高揚感が静まっていく。   あたしは…あたしは何なんだろう。  ほんの数ヶ月前までは女の子で、男の人を見てはキャアキャア言ってたくせに。  今は親友であるはずの香澄の秘められた箇所にドキドキさせられ、魅かれている。  何て中途半端な。  何ていい加減な存在なんだろう。  どうしようもない念の中に沈み込みそうになるあたしに香澄が話し掛ける。 「ねぇまひる」  香澄が手首を掴んだままで、仰向けになったあたしの顔を上から覗き込んで言う。 「まひる…男になんかなりたくなかった?」  あたしの心を読んだかのような質問。  香澄の顔が間近にある。  ドキン。自分の鼓動が一つ大きく聞こえた。   急激にあたしの股間のものは朝でもないのに主張を始める。さっきまでは、よほど 気持ちに余裕が無かったのか反応は薄かったくせに。  持ち主の意思に反して――違うな、多分、これはあたしの欲望に忠実な形に姿を変 えているんだ。  そうでなくてもはだけかかっていたバスローブの合わせ目からそいつは頭を露出す る。まるで香澄に存在を気付いて欲しいみたいに。 「――あれ、何かある?」  香澄が自分の太腿に何かが当たっているのに気付く。身体を少し下方へ動かし、 あたしの股間へ視線を移す。 「あ、駄目」  あたしは腰を捻って隠そうとするが間に合わない。 「え――これって」  視線はそのままに香澄がフリーズする。まるでいつぞやの更衣室のときみたいに。 「まひる、どうしたのこれ」 「どうしたって…見たでしょ、前に」  香澄が顔を真っ赤にして、首をぶんぶん横に振る。  「…全然違うもん…その、形とか大きさとか」  香澄が顔を近づけてくる。切なげな眉の形をして。そして、あたしに聞く。 「もしかして、私を見て興奮したの?」 「……」  答えられない。本当のことを言ったら、軽蔑するんじゃないだろうか、あたしの ことを気持ち悪く思うんじゃないだろうか。それが怖かったから。  返事が無いのを肯定と受け取ったらしい(実際その通りなんだけど)香澄が、つと 離れる。  もうお終いだ、香澄と培ってきた友情も何もかも。  あたしはため息をつき、目を閉じる。  ふぁさ。  不意に長い髪の毛が頬に触れる。それから自分の体に香澄の体重を感じる。 「あ……れ?」  恐る恐る目を開ける。香澄があたしの側にいる。さっきよりずっと近くに。  ――あたしのことを抱きしめてくれている。 「嬉しい……嬉しいよ、まひる」  ぎゅうっと力を入れてくる。先程手で触れた乳房を、髪の香りを、太ももを―― 香澄の全部を今度は全身に受け止める。 「…まひる」  目を閉じ、香澄はその鮮やかな色を見せる唇を近づけてくる。私もそっと瞼を閉じる。 再び香澄の髪を自分の頬に感じる。  それから、唇の柔らかな感触。香澄も同じように感じてくれてるんだろうか。ただ、 触れ合ってるだけなのに、じんとした心地よさが全身にゆっくり、広がっていく。 不意にいつかどこかでしたような既視感を感じる。『眠り姫』だっけ?でも、あたし、 そんなお芝居したことないよね?     * * * * * * * * * * * * * * * * *    あたしが幸せな気持ちに包まれ、ぼおっと香澄の顔を見ている間に、香澄は上に跨っ たまま、じりじりとあたしの下半身の方へと下がっていく。  ローブに手を掛けられ不意に我に返る。 「あ…あのっ……香澄…な、何を」  あたしの方を見て、いたずらを思いついた女の子のように香澄は笑う。 「今度は私の番なんだから…」 「え?」 「えいっ!」  香澄はあたしの戸惑いなどには構わず、あたしのローブの前を一思いにはだけさせる。 「「きゃぁっ!!」」  二人同時に叫ぶ…一寸待て。 「見られたあたしはともかく、何で香澄まで叫ぶの」  香澄が指差して言う。 「だ、だって、今ピョコンて動いた」 「そりゃ、びっくりしたから……」 「へ、へえ……」  あたしの…あの…ナニを香澄がまじまじと見つめる。 「さ…触っちゃお、えい」 「あうっ!」  不意に人差し指でつつかれる。驚きのあまり、またあたしのものがピクンと反応する。  顔を赤くしながらも香澄が呟く。 「一寸、可愛いかも……」 「そ、そうかな?」   嬉しいような、恥ずかしいような複雑な気分。  あたしと視線を合わせ、香澄が言葉を続ける。 「唇が触れたらどうなるのかしらね」 「そんな事しちゃ駄目だって」  慌てて身をよじろうとしたところを香澄ががっちりとあたしの太腿を押さえ込む。 「先にしようとしたのはまひるじゃない」  それを言われると弱いけど、でも。 「うぅ…あたしは未遂だったのに」 「ふふ……」  自分の舌で唇を軽く舐めると、いとおしげに目を細め、口をあたしの方へと近づけていく。 「か…すみ…だ…め」  何とか口には出してみるけれど、最早あたしは抗う気を無くし、ただ、香澄の艶めいた 唇から目が離せなくなる。  これは…えーっと、なんと言うか……。 「へ、蛇に睨まれた蛙みたいだ、あたし」  いつものようなおどけた口調にも香澄は怒るでなく『しょうがないなぁ』というような 表情で微笑みをみせる。  あたしの茶化しは何の効果もなく、香澄の唇は近づく。そして。 「…あ、ん!」  とうとう、香澄があたしの先端にキスをした。あたしは思わず声を上げる。 「まひる、感じるの?」  唇を離して、上目遣いに香澄が尋ねる。

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