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【逢夢辻】〜23〜
厳島神社に辿り着くと、引き寄せられるように清盛の場所が解った。
そこでは『茶吉尼天の消滅』を知った清盛が、すっかり平家の天下を決め込んで、上機嫌で酒を浴びている。
「おおっ、来たか来たか。お前の手柄じゃな。さすがは重盛‥‥還内府と呼ばれるだけのことはあろうなぁ」
満面の笑みを向けられて、言葉を失う。
「清盛‥‥」
怨霊になった時、どうしてこんな子供の姿に化けたのかと考えていた。
清盛は、無邪気すぎるんだな。
それが年を重ねた慎重さの上に乗れば、豪快で度胸のある男になったが。本能のままに無茶振りを重ねる姿は、どう見てもワガママなガキそのものだ。
だから消すのか?
恩人であることに変わりはないのに。
刀に手をかけた俺を見て、清盛の顔色がサッと変わる。
「お前がワシを裏切るか」
ここまでの恩義を忘れたワケじゃない。確実にあそこで野垂れ死ぬはずだった自分を助けてくれたのは、誰が何と言おうと清盛で‥‥‥どこかで道を誤ったのかと逡巡しかけた時、知盛の笑い声が響き渡った。
「なにを惑うている?‥‥それは叔父上の成れの果て」
「何を言うか、知盛」
「‥‥そうでないと言うのなら、コレの名を覚えているか」
いつの間にか引き抜いた剣先で、静かに俺を指し示す知盛の殺意は‥‥清盛に向いている。
「何を言うのじゃっ、のう、重盛」
重盛。
そっか‥‥そうだな‥‥。
どこの誰とも知れない俺を救ってくれたのは、俺を異界から来た変わり者『有川将臣』と認識していた頃の清盛だ。
清盛。いつの間に、お前の中から俺は消えていたんだろうな。
「感謝の念が残っているというのなら、在るべき場所へと送ってやれ‥‥」
「そうだ、な」
清盛から貰った大太刀‥‥。
それを振りかぶった時、遠くから譲の声が聞こえた。
迷いを断ち切るように力任せで叩きつけながら、怒り狂う清盛を貫いた瞬間‥‥僅かにふらついた身体を、支える腕。
何も言わずに、ただその存在を示す二本の腕。
「清盛‥‥‥‥‥ありがとな」
後ろからは望美と朔の声が重なり、封印の力を受けて白い霧のように消えかかる中、一瞬元の優しい顔に戻った清盛が「将臣」と、俺の名を呼んだ。
「黒龍の逆鱗には触れるでない。あれはワシがかけた呪詛に穢されておるぞ‥‥‥‥長いこと苦しめて、悪かったの」
笑う顔が一瞬ブレて、あの頃の面立ちを刻む。
「清盛‥‥‥っ」
「泣くな。まったく‥‥そのようなところまで、重盛に似ておるわ‥‥紛らわしい‥‥こと、じゃ‥‥‥」
穏やかな笑みを浮かべて消えた清盛の手から、呪詛に淀んだ『黒龍の逆鱗』が、零れ落ちた。
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