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【逢夢辻】〜18〜
「壊れちゃってんのよ。‥‥ムカツクわ」
そう言って震える手を九郎さんに伸ばした先輩は、驚くほど儚げで、とても見ていられなかった。
そういえば。
『見てきたのよ』
夢の世界で、真っ青な顔をして呟いた横顔を思い出す。
それは、九郎さんが罠にかかって『逝ってしまう未来』を見てきたってことですよね。
ホッとして泣いている先輩に、何を聞くつもりもないけれど‥‥。
先輩。
俺は‥‥兄さんは、その世界で生きていましたか?
頑なに俺達を信じると言い切った姿から、一つの未来が浮かび上がる。
それは予知夢よりも確実な予感。
先輩が垣間見た未来に、俺達の姿は、ない。
兄さんを、失う‥‥‥?
気付けば知盛がそこにいて、弁慶さんや景時さんは、兄さんの口から、その正体を白状させようとしている。大丈夫。今すぐに危険が迫るわけじゃない。みんな兄さんの正体にはうっすら気付いているし、頼朝さんが敵になった今、平家は必ずしも共通の敵じゃない。わかってるのに‥‥それでも震えは止まらなくて、背中でも叩かれたら泣き出してしまいそうで。
皆の視線から隠れるように、その背中に身を預けて、ギュッと手を握りしめた。
「んなこと考えてたのかよ」
「う‥‥あぁっ‥‥」
仰向けのまま、膝の上に腰だけ攫われるような姿勢で、無造作に突き上げられる。
もう、何度目だろう‥‥途中から身体の力も入らなくなって、いやたぶんそれ以上に気力が保たなくて‥‥それでも眠ることもやめることもできずに、だらしなく上腕を投げ出した姿勢で、人形のように抱かれ続けていた。
散々泣かされて掠れた声で、それでも兄さんの尋問のような問いに答え続けている。
情けない‥‥な。
それでも、そんな自分が嬉しいと感じてしまうのは、とうとう俺が壊れたってことなのか。
ああ、もう何も考えたくない。
このまま‥‥この腕の中で、消えてしまえたらいいのに。
これ以上の居場所なんて、どこにもありはしないんだから‥‥。
「兄さん‥‥‥疲れた‥‥」
「だろうな」
違う。やめないで。
身体じゃなくて‥‥‥心が‥‥。
言葉にならず伸ばした指を、あしらうように握りしめて口づける仕草に、涙が溢れる。
「無理することねぇよ。欲しけりゃ明日だって‥‥譲?」
欲しい。
身体の奥から、熱が込み上げて‥‥考えることに疲れた頭は、そんな自分を止めてくれなくて。
「好きにさせて‥‥くれよ」
気付けば兄さんを組み敷くように跨いで、自ら腰を振っていた。
浴びるように何度も何度もかけられた白いものが、汗と混じって滴り落ちても。戸惑うように見つめた兄さんが、鉄も溶けそうな視線で俺を視姦しても。かまわず。もういっそ、見せつけるように踊りながら。
自分を、犯し続ける。
こんな行為が好きなのかと聞かれれば、やっぱりまだよく解らない。
それでも、考えなくていいのは嬉しかった。
今は兄さんの熱を感じて、鼓動を数えて、視線を気にしているだけでいい。
傍にいたい。望みはそれだけだ。
だけど叶うことなら、あの平和な世界に戻りたい。兄さんと一緒に。先輩と一緒に。九郎さんにも他の誰にも死んでほしくない。源氏も平家も争いをやめて、平和な京を見届けて、白龍の力を戻して、何の気がかりもなく笑って帰りたい。
俺は‥‥‥欲張り、だな‥‥。
「譲、俺は此処にいるぜ?」
え‥‥?
呼びかけに視線を下ろすと、優しく苦笑する兄さんと目が合った。
「別に俺は、お前が死のうが俺がくたばろうが構わねぇ。どうせ逝くなら、お前と重なり合って逝きたいとは思うけどな」
「なにを、言って」
「だーかーら。まだ来ねぇラストをウジウジ悩んでないで、俺を、感じとけ」
「んはあっ」
力強く腰を捕まれて、太い杭に、深く、深く、穿たれる。
下から上へ、脳天から何かが突き抜けそうなくらい深く激しく突き上げられて、あまりの快感に肌が泡立つのを感じる。
苦しくて、愛しくて、込み上げる鼓動を感じた時。