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【逢夢辻】〜17〜
重衡の行方を追えば、鎌倉で途切れるという。
だけど鎌倉が重衡を討ったとすれば、平家を叩いたタイミングで、それを誇示するんじゃねぇか?
「‥‥生きては、いるのだろう」
コイツが言い切るってことは、たぶんその後の消息もある程度は判ってんだろう。それでも茶吉尼天の消滅に拘るのには、何か引っかかるものがあるが。
「駒としてか?」
「フッ‥‥‥。何の役に立つのか、俺には解らぬが‥‥?」
ハイハイ。
ったく、ここまで調べまくっといて今さら皮肉言っても、ただのツンデレにしか見えねーっつの。
ゆっくりからかえる状況じゃないのが、ちと惜しい。今まで散々弄られてきた仕返しでもしてやれそうなタイミングだってのに。
足早に向かっているのは、鎌倉。
九郎義経を罪人として仕立て上げた頼朝が、とうとう奴を監禁するんだとか。まあ実際は景時やヒノエの情報が一足早かったらしく、俺達は茶吉尼天との一戦に間に合うかどうかってとこだが。予想より早くコトが進んでいることは確かだ。
夕べの感じだと、まだ九郎は「兄上にお目通りを」とか言ってるらしい。四の五の言ってねぇでサッサと逃げろって話じゃないのか!?‥‥ま、あの天然小僧に空気を読めとは言わないが、なんかやっぱ心苦しいのはあるよな。
アイツは本当に何の計算もなく、信じたいものを信じる。俺なんか、アイツの正体を知ったあと「将臣将臣」呼ばれるだけで意味もなく落ち込んだりしたんだぜ?‥‥最終的にこっち側にいなきゃできねぇこともあるわけだし、だから単純に裏切ってるだとか敵だとか‥そんな意識も無いってのに。それでも、アイツを謀るのはキツかった。
もしかして頼朝は、その手の罪悪感に負けたんじゃねぇのか?
九郎は被害者。それは誰が見たってその通りだが、なんか釈然としない部分も残った。‥‥んなこと望美に言ったら、食い殺されそうだけどな。
途中絡まれる雑魚共に足止めを食らうこともなく、スムーズに向かえてんのは、血生臭い相棒のおかげだと言わざるを得ない。
「実の弟を抱きたがる物好きもあれば、それを手にかける兄もある‥‥‥クッ、ご苦労なことだ」
物好きで悪かったな。
「まあ、一口に兄弟っつっても色々あるだろ」
「‥‥‥違いない」
そういえばコイツラも、妙な兄弟だったな‥‥。
仲が良いんだか悪いんだか。あんだけ無関心なふりして、ここまで執着してたとは‥‥人は外見で判断できねぇぞ、ったく。
「あれ‥‥か‥?」
「っと、もう始めてんのか!」
合流する直前に知盛が身を隠したのは、俺が八葉としてここに加わるための最低限のマナーみたいなもんだった。今ここで仲間割れしてる場合じゃねぇ。
「兄さん!」
「将臣くんっ」
「待たせたな!」
強大な敵を前に、参戦を断る奴は一人もいなかった。
「これで八葉が満ちる‥‥勝てるよ、神子」
白龍のやけにキラキラした声に押されるように追い風が吹いて‥‥戦いの末、茶吉尼天は消滅した。
「よく決断したな」
思わず九郎に声をかけると、消化し切れてない顔でグッと言葉を詰まらせた。
「兄上が‥‥まさか、謀反などと、本気で‥‥っ」
「本気じゃねぇよ」
確信はないけど、そんな気がした。
「兄貴ってのは嘘をつくもんだ。負けたくねぇとか、傷つけたくねぇとか、色々考えることは違うんだろうが‥‥良いのも悪いのも含めて、それが執着だったり情だったりすんだろうな」
「執着‥‥‥?」
頼朝のことは、よくわかんねぇけど。
「気にならなきゃ放置してただろ」
嫌い嫌いも好きのうち。
こんな天然ブラコン大将に愛情丸投げされたら、そーとー器用な兄貴以外、力ずくで振り払うしか手段がねぇだろ?
「九郎‥‥‥たぶん頼朝様は、君が思うより少し‥‥疲れていらっしゃるんだよ。君に出逢うまでが長すぎて、酷すぎて‥‥正直に人を信じることが、できずにいらっしゃる。オレは、そう思うよ」
確かにそーゆーのは、盲目に兄の愛情を信じて疑わなかった九郎より、ただの配下として寄り添ってきた景時の方が、よく見える部分なんだろうな。
「時に、信じることは覚悟を要する。お前が神子をにわかには信じられなかったように」
「景時‥‥リズ先生‥‥」
「壊れちゃってんのよ。‥‥ムカツクわ」
ボソリと呟いた望美が心底悔しそうに泣きながら、九郎の背中にしがみついた。
「望美?」
「九郎さんは疑わなくていい。兄上〜はどうだか知らないけど、私は九郎さんの味方でいるから。‥‥‥ずっと」
回された手を包みこんだ九郎は、やっと笑った。
「そうだな」
その場にいた全員にホッとした空気が流れた所で、知盛が姿を現した。
「バカ、まだ早いっ」
「これ以上茶番に付き合えるか」
新たな敵にサッと気色ばんだ面々は、知盛が発した一言に瞬間フリーズ。理由は様々な所にあると思うが。
「平泉へ行く」
「平泉!?」
「この顔に似たのが紛れ込んだと聞いた。確認が済めば戻る‥‥‥任せたぞ‥‥」
好き勝手言い捨てて背を向けた姿を、ポカンと見つめていた。
「将臣、どういうことだ‥‥」
待て九郎。説明すりゃ長くなるから、つーかどこから話せと?
「ゆっくりと聞かせて頂きましょうね」
弁慶‥‥目が笑ってないぜ。
「返答次第では、このまま返すわけにはいかないよ〜?」
景時、お前までかよっ。
「ひとまず夜を明かす準備くらいしたらどう?モタモタしてると日が暮れるよ」
ヒノエが可笑しそうに笑うのは、裏を返せば『一晩かけて説明すれば?』って意味だろうな‥‥。
「ま、そうなるか」
それでもなんだか楽しげな雰囲気は、もうほとんど俺の正体なんか知ってるぜーみたいな意味なのかもしれない‥‥そうだろ、譲。
背を預けるように立ちながら、見えない所で繋がれた手を、ギュッと握りかえしてみた。
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