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【逢夢辻】〜12〜
川の怪異が治まるまでは熊野本宮に向かえない。
それは源氏も平家も同じこと。
いや、それどころか、熊野の人間ですら本宮に辿り着けないときてる。
「中の奴等は大丈夫なのか」
「食い物なら幾らでもあるだろ。あそこはちょっとした要塞みたいなもんだから」
いかにも熊野の悪ガキといった具合の『ヒノエ』が笑う。
「まぁさぁおぉみぃいいいっ」
「やべっ。あとでな♪」
そーいや、望美との追いかけっこの最中だった。
あまりにも可愛かった譲を一晩に3度も‥‥しかも結構、容赦なく犯しまくったせいで、朝方には熱を出して寝込んじまった。
アレだな。いくら体力があっても、こーゆーのは別腹なんだな。
夜明け前にリアルタイムの譲と夢で話ができたのは、ほんの一瞬。
扉が開いたんだなーと感激した俺の目の前で、光に透けて消えたと思ったら。
「兄さん?」
同じタイミングで目を覚まして、確認するように抱きついてきた。
可愛い!と思わず朝日の中、押し倒しそうになって高熱に気付いたわけだが、水を汲みに行った所で望美とバッタリ。根ほり葉ほり聞かれそうになって、つい「んなこと言ってる場合じゃねぇから」とか説明したのが運の尽き‥‥という具合で。
瞬時に鬼と化した望美を落ち着かせようと羽交い締めにした景時は、無惨にとばっちりをくらい、弁慶がヤレヤレとか笑いながら譲の看病を始めた。
灯台下暗しとばかりに譲の様子を見に行くと、寝込んでる譲より酷い惨状の景時が弁慶に薬を塗られている所だった。
「悪ぃっ」
パンッと手を合わせると、可笑しそうに笑う。
「いいよ〜、まあ、ある程度は予想してたしね〜」
「さて。薬は煎じておきましたから、何回かに分けて今日中にコレを飲みきってしまってください。将臣くん、責任をもって看病してくださいね」
「おう」
「こ〜こ〜に〜い〜た〜か〜〜〜」
「それじゃ。望美さん、行きましょうか」
「そだねぇ〜。まずは川の怪異をなんとかしないと♪」
「どうしてですかっ、あんなの残していったら」
「なぜだ。譲の兄上が看病を買って出てくれたのだろう?・・・優しい兄を持つというのは、いいことだな」
お。
なんか今、話の流れをぶった切った奴がいるな。
「九郎さん!?」
そうか。源九郎義経は、天然キャラ‥‥と。
かといって、さすがの望美も、まるで察していない九郎に『コトの顛末』を話して聞かせる程の度胸はないらしく(説明しても通じなさそうだが)二の句が継げず口をパクパクさせている。
そのうちに、望美を抱えて景時撤収。
「はーなーせーっ」
景時‥‥‥アイツは猛獣使いか?
「まあ、彼女の方は何とかしておきますから、あまり無理をさせないであげてくださいね」
クスクスと笑いながら去っていく弁慶と、静かにあとに続く朔の姿‥‥。
「にいさん」
布団の中から恨みがましい声が聞こえて、ヒッと背筋が凍り付く。
「起きてたのか」
「あれ、なに‥‥まさか、全部バレて‥‥」
たぶん部屋割りの段階から、いや‥‥春の京で別れる辺りからか。
「気付かなかったか?」
「なっ、なんでそんなに冷静なんだよ!兄さんはっ、兄さんがっ」
まったくだな。
「‥‥‥ああ、俺のせいだ」
ゴメンと素直に謝ると、狼狽えた顔が泣きそうに歪む。
俺はいつまでも此処にいるわけじゃない。だけどお前は、まだ暫くコイツラと一緒に動くんだもんな。‥‥もう少し、気を使ってやればよかったな。
「もう、いいよ‥‥、続き、したいんだろ?」
赤い顔で俯きながら、袖なんか可愛く引くもんだから、止まらなくなる。
結局、白昼堂々、いっそ夜より静かな熊野の宿で、やりたい放題やらかして。
「まーさーおーみーくん?」
帰ってきた望美に、半殺しにされかけた。
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